アレキサンダー・ティネイ Saved for fire in ANDO GALLERY
アンドーギャラリーではアレキサンダー・ティネイ氏の個展「Saved for fire」が開催されています。日本では今回が3回目となり、過去2回の流れを踏まえつつも、全体的に明るい画風へと変化が見られます。
日本ではCOVID-19の第4波が静まりつつあり、各々が新しい生活様式を模索しているところです。そうした私たちに対して、ティネイ氏自身もまた、作品に新しい様式を見出し、何かメッセージを届けようとしているのかも知れません。
アレキサンダー・ティネイ氏は自身の作品を語るキーワードとして「ルーツ」を挙げています。彼は1967年に黒海に面し、北はウクライナ、南はルーマニアに接するモルドバという国に生まれました。モルドバ語ではなくロシア語を話し、旧ソ連軍で2年間の兵役に就くなどロシアの文化の中で育つという複雑な過去を経て、キリスト教の信仰をきっかけとして、本来の自分のルーツに向き合うようになります。
彼の言うルーツとは大地におろす“根”であり、自らの内面にある何らかの発想や問題、あるいは家族、民族、文化の“源泉”などを意味し、そうしたものがこれまでの作品に色濃く表出されてきました。
今回の作品もそうした「ルーツ」を軸足とした表現が展開されていますが、これまでの2回の個展と比べ、全体に明るく、人や暮らしへの温かいまなざしも感じられるおだやかな雰囲気が特徴です。また作品のサイズとしても大きなものが主体となっています。
これまでティネイ氏の作品で複数の主題を様式的に結びつけてきた、人物のモチーフの身体に刺青や部族の刻印を連想させる青い線は控えめながらも存在しますが、日々の暮らしの中にある心の平静さ、女性が男性に馬乗りになっているようないたずら心なども映し出されています。
また背景も不穏や不安定さを感じさせる要素もありますが、暮らしのワンシーンを抽象化したように受け取れるものが主体となっています。
私たちは毎日の感染対策の煩雑さや実際に人と会って話をする機会の減少、感染やワクチンの副反応への不安など、少し近視眼的な暮らしぶりになっていなかったでしょうか。世界的に猛威をふるったCOVID-19と共にしばらくは生きていかざるを得なくなった私たちにとって、世の中をどこから観るかは大切なことのように思います。
ここ最近のティネイ氏は自らのルーツがあるモルドバから少し距離を置いた、ハンガリーの首都ブダペストに生活と制作の拠点をすえています。そうした少し俯瞰するような立ち位置から彼自身の内面が描かれているようにも感じました。
私たちはひとつのところにとどまってはいられません。自分を見つめつつも、うつむかずに顔を上げて、でも何か、少し肩のチカラを抜いてみようかな。そんな風に思うことができるアート体験になるかも知れません。
タイトル | アレキサンダー・ティネイ Saved for fire |
会期 | 2021年9月28日(火)~ 11月27日(土) |
会場 | ANDO GALLERY(アンドーギャラリー) |
住所 | 〒135-0023 東京都江東区平野3-3-6 |
Webサイト | http://www.andogallery.co.jp |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日・月・祝日休 |
料金 | 無料 |