第16回shiseido art egg　岡ともみ　「サカサゴト」 in 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは公募プログラム第16回shiseido art egg 第1期として、岡ともみ氏による個展「サカサゴト」が2023年1月24日（火）から2月26日（日）まで開催されています。
岡氏は個人の大切な思い出や消えかかっている風習など、見過ごされがちな小さな物語を封入した装置を作り、記憶を空間に立ち上げることを試みています。本展では、自身の祖父の葬儀での経験をきっかけに着想したインスタレーションが展開されています。
世にも不思議で怪しくもある、反転した世界の中に私たちは何を見るのでしょうか。人の死との向き合い方を考えさせられたり、今まで知らなかった風習などにも出会う体験になるでしょう。

「shiseido art egg」は2006年から始まっており、1919年のギャラリーオープン以来の活動理念である「新しい美の発見と創造」をまさに体現するような、瑞々しい新進アーティストを応援する取り組みとして続けられています。
第16回目となる今回は全国より260件の応募があり、岡ともみ氏、YU SORA氏、佐藤 壮馬氏の3名が入選されました。これから5月までこの3氏による個展が開催され、6月頃にこの中からひとつの個展がshiseido art egg賞に選ばれることになっています。

店内1Fのギャラリー入口に進むと、青い光に包まれたような紫陽花を配した電照サインがあり、とっても印象的です。階段を下りていくと、途中の踊り場にダイアル式の黒電話が置いてあります。勇気を出して、受話器を取ると・・・・。あえて、何が起きるのかは申し上げませんが、すべての展示を楽しんだ後にだんだんと意味が分かってきます。ぜひ、あなたも受話器を取ってみてください。

メインのスペースはかなり暗く、11本の柱が宙に浮き、柱にはひとつひとつ、映像装置が組み込まれた古い時計が掛けられているのが目に飛び込みます。
受付のカウンターには岡氏の意図がよく分かる、作品の解説シートが置かれています。楽しみ方はまったく自由であるべきだと思いますが、読んでから観るか、観てから読むか、迷うところです。筆者はまず読まずに観て、それから解説を読み、再び解説に書かれた順番で映像を観ることで充分に楽しむことができました。

岡氏は、自身の祖父が亡くなった時に棺に青い紫陽花を手向けたところ、火葬の終わったに遺骨が薄青に美しく染まっていたそうです。そして、青い紫陽花を手向けたことが、自分にとっての祖父を送る儀式であったと考えるようになったそうです。

それをきっかけに、かつて日本にあった葬送の風習を調べていくと、死者があの世への道で迷わないように願うなど、小さいコミュニティや人がかけた思いが込められていることが分かったそうです。
古時計に組み込まれた映像装置で観られるのは、こうした日本各地に残ってはいるが、今や消えようとしている葬送の風習やあの世の見方を再度、観ていくことができます。

そして表現の大きなキーワードになっているのが「サカサゴト」です。こちらについては解説シートで以下のように述べられています。

縄文時代の日本では、あの世はこの世のあべこべである、と信じられていた。こちらが夕ならあちらは朝、こちらが夜ならあちらは昼。着物はこちらが右前に着るならあちらは左前。このような考え方は、現在でも「サカサゴト」と呼ばれ、死人が出た際には日常の様々な動作を逆に行うという風習として、日本各地に残っている。

柱にかかる古時計の盤面は反転し、逆回転しています。そんな中、映像を観ていくと、あの世からこの世を観ている気分になります。そしてまた、反転した日常の動作は何かの境界をはさんで、隣りあわせだという風にも感じられます。

人の死というものは、やはり悲しく、時に不条理な想いにかられることもあります。そのような思いにどう向き合って、乗り越えていくか。あるいは死をどうとらえるかなど、昔からの知やものの見方をアートで伝える試みのように感じます。また同時に、この「サカサゴト」が具現化された世界観の中にじっくりひたっていると、いろんなインスピレーションが頭の中を巡って、とても楽しい体験になるでしょう。