ブルターニュの光と風 －画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉 in ＳＯＭＰＯ美術館

ＳＯＭＰＯ美術館では、「ブルターニュの光と風 －画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉」が2023年3月25日（土）から6月11日（日）まで開催されます。深緑の海や険しい断崖が連なる海岸線、平原と深い森とが織りなす固有の景観、また、そこに暮らす人々の慎ましい生活と敬虔な信仰心は、19世紀初め以来、数多くの画家たちの関心を掻き立ててきました。豊かな自然と独自の文化を持つことで知られるフランス北西部の地、ブルターニュ。本展は、ブルターニュに魅了された画家たちが描いた作品を通じ、同地の歴史や風景、風俗を幅広く紹介されている展覧会です。

フランス近代絵画史上の重要な地ブルターニュ
フランス北西部に位置するブルターニュは、4～6世紀にブリテン島からケルト系民族のブリトン人が移住してきた地方です。豊かな自然と独自の文化を持つこの〈辺境の地〉は、19世紀のフランスにおいても他の地方とは違う「内なる異世界」として、エキゾティシズムに満ちた眼差しが向けられてきました。本展では、そうしたブルターニュの歴史・自然・風俗を、画家たちの眼差しを通して追体験するように鑑賞することができます。

ブルターニュは、ゴーギャンやポン゠タヴァン派の画家たちが集い、総合主義が生まれたフランス近代絵画史上の重要な地として知られています。しかし彼らの前後の時期にも、ブルターニュの豊かな自然風土とそこに生きる人々の姿に魅了された画家たちは数多くいました。本展では、およそ１世紀のあいだに様々な様式で描き出されたブルターニュの姿が紹介されています。とりわけサロンを活動拠点とした画家たちによる大画面は圧巻です。

カンペール美術館コレクションが来日！
本展では、ブルターニュに関する作品を多数所蔵するカンペール美術館の作品を中心に、45作家による約70点の油彩・版画・素描を通じて、フランス「辺境の地」ブルターニュの魅力を堪能することができます。

カンペール美術館はブルターニュ半島最西端、フィニステール（「最果ての地」の意）県にあり、1872年に開館した歴史のある美術館です。同館は、失われつつあるブルターニュの伝統の保存に意識的であった歴代館長の尽力により、ブルターニュをテーマとする絵画を意欲的に収集してきました。ブルターニュを描き、注目を集めたゴーギャン登場以前からブルターニュ絵画の収集を行っていた同館には、19世紀のサロンで活躍したアカデミスム系の画家や、20世紀に入ってもなおブルターニュの諸相をさまざまな様式で描き続けた新たな世代による作品が集まり、フランス〈辺境の地〉の魅力を今に伝えています。

【展示構成】
・本展は3章構成になっています。

1 章 ブルターニュの風景 ― 豊饒な海と大地
19世紀前半、ロマン主義の文学者たちが「未知なる土地」や「異郷」として描き出したブルターニュは多くの画家を刺激し、彼らはエキゾティシズムに満ちた眼差しの下に、その姿を捉えていきます。多様な風景と、ブルトン語を話し、ケルトの伝統が色濃く残る風習のなかで生きる人々に対する関心の高まりは、やがてサロン（官展）におけるブルターニュ絵画の流行へと繋がりました。急速な近代化に背を向けるかのように素朴な生活を続ける人々の暮らしぶりや、「パルドン祭」に象徴される人々の信仰心の篤さも、魅力的な画題として繰り返し描かれました。

2 章 ブルターニュに集う芸術家たち　 ― 印象派からナビ派へ
ブルターニュの果てしない海と空の広がりは、持ち運び可能な画材を携えて各地を旅をした風景画家たちの心を捉えるようになります。港町で育ち、海を愛したウジェーヌ・ブーダンが素早く的確に描きとめた空の様子は、印象派に先駆けた自然描写となりました。
ポスト印象派のポール・ゴーギャンは、「原始的なもの」への憧れを異邦に求めて最終的にはタヒチまで渡りますが、その前段階としてブルターニュへ赴き、1886年には小村ポン゠タヴァンに辿り着きます。同地に滞在していた他の画家たちとの出会いは、太く明確な輪郭線と平坦な色面構成を特徴とする「クロワゾニスム」を作り上げ、「ポン゠タヴァン派」が誕生します。
さらに、そのゴーギャンの教えをセリュジエがパリに持ち帰ったことで、ピエール・ボナールやモーリス・ドニらによる「ナビ派」誕生へとつながり、彼らは印象派に代わる新たな表現世界を作り上げていきました。

3 章 新たな眼差し ― 多様な表現の探求
ゴーギャンが去った後のブルターニュで制作に励んだ画家たちは、パリの美術動向と歩を合わせるかたちで様々な絵画表現を試みました。1870年代に誕生した印象派、ついで1880年代に登場した新印象派の様式を特徴付ける明るい色彩と筆触は、ポン゠タヴァン派の画家たちの風景画の中で、さらなる展開を見せました。
また、19世紀末に台頭した「バンド・ノワール（黒い一団）」と呼ばれる一派は、ブルターニュを拠点とし、ギュスターヴ・クールベやオランダ絵画からの影響の下、暗澹たる風景を描きます。

20世紀に入ると、フォーヴィスムやキュビスムなど、さらに前衛的な絵画表現が展開されますが、こうした動向はブルターニュの画家にも無縁ではなく、民族衣装姿の女性など、ブルターニュの典型的なイメージが繰り返し描かれたのです。