第16回shiseido art egg　佐藤 壮馬　おもかげのうつろひ in 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは公募プログラム第16回shiseido art egg 第3期として、佐藤壮馬展「おもかげのうつろひ」が2023年4月18日（火）から5月21日（日）まで開催されています。佐藤壮馬は、写真や映像、３Dスキャンなどによってアーカイブされるものの背景にある、目に見えない文化や人々の記憶、慣習などに興味があると言います。本展では、2020年に大雨により倒れた岐阜県瑞浪市大湫町の神明神社の大杉を3Ｄスキャンで複製し構成する新作を通じて、倒れる前と倒れた後を追うことで見えてくる循環と再生、その背後にある人々の営みを感じるとともに、さらに大きな大切なものに気づかせてくれるかも知れないアート体験になるでしょう。

新進アーティストを応援する shiseido art egg
「shiseido art egg」は2006年から始まっており、1919年のギャラリーオープン以来の活動理念である「新しい美の発見と創造」をまさに体現するような、瑞々しい新進アーティストを応援する取り組みとして続けられています。
第16回目となる今回は全国より260件の応募があり、岡ともみ、YU SORA、佐藤壮馬の3名が入選されました。5月までこの3氏による個展が開催され、6月頃にこの中からひとつの個展がshiseido art egg賞に選ばれることになっています。

大湫町のシンボルだったご神木を訪ねて
本展の“主役”である神明神社のご神木は、中山道47番目の宿場であった大湫町のシンボルであり、大雨で倒れた時は民家を避けるように、１人のけが人も出なかったそうです。佐藤はこのことを新聞記事で知り、インスピレーションを受け、現地を何度も訪れました。
そして、倒れた木を３Dスキャンと写真で記録し、そのデータを元に制作した立体作品で大展示室の空間が構成されています。小展示室では、許可を得て持ち帰った大杉の残片の一部をいかした立体作品や大杉をリサーチした記録などが紹介されています。

佐藤壮馬は1985年に北海道生まれており、この大湫町を訪れたのも大杉が倒れてからだそうです。恐らく資生堂ギャラリーに来た私たちのほとんども、大湫町とは縁もゆかりもなく、佐藤と同じ立場でご神木と倒れた事実に向き合うことになります。
作品を通じて佐藤が私たちと何を共有したかったのか、それを感じることがこの展覧会を楽しむスタートラインとなるでしょう。

私たちはギャラリーへの階段を降りる途中に《Of Flower(Rose)》、《Of Flower(Tsubaki)》と「花」をモチーフとした作品に出会い、大展示室に進みます。《おもかげのうつろい》と題された大展示室の作品は、階段から連動し、花びらのようなモチーフが空中を浮遊しているように最初は感じますが、小展示室に進めばその“謎”は解けるでしょう。

ご神木自身とコミュニティとの関りが分かる資料展示
小展示室では、持ち帰った大杉を樹脂で封じこめた《Physis》という作品群に出会います。木の残片そのものの美しさもそうですが、琥珀のように天然樹脂で生物や植物が封入された化石（＝宝石）のようにも見え、記憶さえも閉じ込めているような神々しさです。

また「カルス」という、木自身がかさぶたのように傷や壊死した部位などを覆い、外側の部位を内側へと取り込んでいった部分を封じ込めた、大杉がかつて生命体であったことを再認識できる作品も出会うことができます。

その脇には中山道に関する資料や新聞記事、14分あまりにおよぶ記録映像、大杉の３Dスキャンデータなどが紹介されています。これらの資料を通じて、大杉とコミュニティとの関りなど、佐藤がこの作品に取り組むモチベーションを与えた様々な情報に触れることができるでしょう。

作品を楽しむことで大杉の「再生」に参加する
再び大展示室に戻ると、空中を浮遊する断片が、３Dスキャンデータから生まれた大杉の残片で構成された実物大のモデルであることに気づくでしょう。
そして、ここからが観る側である私たちに与えられた“楽しみ”です。ぜひ、大展示室の写真が展示されていない壁を背にして立ってみてください。大杉の中に入ったようにも感じ、あなたの頭の中にいろいろなイメージがわくことでしょう。

そのイメージの理由を確かめに、小展示室にまた戻ることになるかも分かりません。そうして大展示室と小展示室を行き来しつつ、私たちが楽しむことで倒れた大杉の「再生」に、私たちも参加しているような気がしてきます。

あなたもぜひ、この楽しさに触れてみてはいかがでしょうか。