装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術 at 東京都庭園美術館
東京都庭園美術館では、展覧会「装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術」が2023年9月23日(土)から12月10日(日)まで開催されています。本展はかつて朝香宮邸であった同館が開館40周年を迎えるに先立ち、朝香宮邸やアンリ・ラパンによる朝香宮邸装飾プランの成立背景を探りつつ、日本で初めてアール・デコ時代の「庭園芸術」を特集する展覧会です。
東京都庭園美術館は建物だけをとってみても、何度訪れても味わい深く、居心地がよく、そしていつも何か新しい発見のある場所だと思います。本展は同館を私たちが何度も訪れたくなる、その理由が分かる体験になるかも知れません。
受付からメインロビーに進むと、本展で最初に訪れる場所として、香水塔の左脇を通って入る小部屋が設定されています。この部屋の壁面全体には、遠景に山々を望む森林や水を湛えた庭園の風景が描かれており、まるで静かな森の中にいるような心地よい気分になります。このように、朝香宮邸邸宅内の壁面には室内に居ながらにして自然の中にいるかのような装飾プランが展開されています。
この一連の装飾画は、主要客室の装飾を手がけたフランス人装飾美術家アンリ・ラパン(1873~1939)によって描かれたもので、朝香宮邸のコンセプトを読み解く鍵であると共に、当時のフランスにおける庭園芸術との関連性を指摘することができる作品です。
朝香宮邸装飾プランはラパンの手がけた仕事の中でも、最も大きなものの一つと言えるでしょう。ラパンは、ルネ・ラリック(ジュエリー・デザイナー、ガラス工芸家)、レイモン・シュブ(鉄工芸家)、マックス・アングラン(画家、ガラス工芸家)らと協働してこのプロジェクトに関わり、全体の統括者としての役割を果たす一方で、自らも森林や噴水のある庭園風景を描きました。
本展ではこうした装飾壁画が丁寧に紹介されていると共に、これまでの調査・研究では触れられてこなかったラパン自身の著述やブラジルにおける邸宅計画に関する資料等から、朝香宮邸の装飾プランの成立に至るまでの過程や背景について紹介されています。
そして本展をより楽しむためには、「庭園芸術」というキーワードに注目すると良さそうです。なぜなら、朝香宮邸装飾プランは1925年のアール・デコ博覧会に初めて出品分類として設けられた「庭園芸術」に大きな影響を受けているからです。
20世紀の初頭、それまでヨーロッパに広く普及していたイギリス風景式庭園に対抗し、フランスでは新しい庭園の造形、理念の構築が目指されていました。造園家のアンドレ&ポール・ヴェラ兄弟は、1910年代に意欲的な著作を通じてこの動向の中心をなり、1925年のアール・デコ博覧会は、庭園を装飾芸術の一分野としてまで捉えられるようになりました。そこでは実験的かつ独創的な庭園が多数発表され、その後の1930年代以降の欧米における近代的な庭園デザインの成立に大きな影響を与えたといわれます。本展では、キュビスムやエキゾティシズムの要素を取り入れて発展した庭園芸術について、ラパン以外の作家らの作例を通して紹介されています。
この他、建物の最上部に設けられたウインターガーデンにおける特別な空間演出も大きな見どころのひとつです。ウインターガーデンとは、冬の寒さが厳しい北欧や北米において、冬に植物を生育する場として発展した室内庭園のことを指します。
このウインターガーデンには、温室らしく太陽光を豊富に取り入れるためのガラス窓、植物の世話をするための花台、水道の蛇口や排水溝等が備え付けられています。随所にアール・デコの意匠がちりばめられ、市松模様の大理石とドイツ製鋼管家具との取り合わせが印象的な、モダンかつ魅力的な空間となっています。本展では、この空間用途本来の魅力を引き出すべく、イミテーショングリーンを用いた特別な演出が行われています。本格的な冬にはちょっと早いですが、屋内の小さな“冬園”をどうぞお楽しみください。
多くの日本人にとって、フランスの庭園というと1661年から1700年にかけて造られたベルサイユ宮殿の庭園が思い出されますが、1925年のアール・デコ博覧会における「庭園芸術」の出品分類では、造園家のみならず、建築家や装飾美術家も“庭”を如何に“装飾”するかということに心を砕き、各パヴィリオンの周囲や街路には多様な庭園が造りこまれたといいます。
“庭園”ならではの居心地の良さと、「庭園芸術」に象徴される当時の革新性や創造性が刺激や深みとなり、展覧会の内容も含め、何度訪れても私たちを魅了してやまない東京都庭園美術館をつくり上げている。そんな気づきのある体験になることでしょう。
これから同館周辺の庭園も色づき、都会の中の豊かな自然を楽しめるこの時期にお出かけしてはいかがでしょうか。
なお、東京都庭園美術館は20223年10月1日に開館40周年を迎えられました。記念事業や展覧会コラボメニューなどたくさんの素敵な企画が実施・予定されています。詳しくは、東京都庭園美術館開館40周年記念特設サイトでご確認ください。
タイトル | 装飾の庭 朝香宮邸のアール・デコと庭園芸術 |
会期 | 2023年9月23日(土) 〜 12月10日(日) |
会場 | 東京都庭園美術館 |
住所 | 東京都港区白金台5-21-9 |
Webサイト | https://www.teien-art-museum.ne.jp/ |
開館時間 | 10:00 ~ 18:00(入館は閉館の30分前まで) ※ただし、11月17日(金)、18日(土)、24日(金)、25日(土)、12月1日(金)、2日(土)は夜間開館のため夜20:00まで開館(入館は19:30まで) |
休館日 | 毎週月曜日 |
チケット情報 | オンラインによる日時指定制です。 ご購入・ご予約はこちらから |
観覧料 | 【一般】 1,400円 (1,120円) 【大学生】 1,120円 (890円) 【中学生・高校生】 700円 (560円) 【65歳以上】 700円 (560円) *( )内は20名以上の団体料金 |
備考 | ※小学生以下および都内在住在学の中学生は無料 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその介護者2名は無料 ※第3水曜日(シルバーデー)は65歳以上の方は無料 |