森美術館開館 20周年記念展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」at 森美術館
森美術館では、森美術館開館 20周年記念展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」が2023年10月18日(水)から2024年3月31日(日)まで開催されています。2023年の東京は、30℃を超える真夏日が過去最高の88回となるなど、地球温暖化をはじめ、環境問題はますます私たちの身近なものになり、いろんなことが気になり始めています。
本展では、環境問題をはじめとする様々な課題について多様な視点で考えることが提案されています。私たちは今、どのような考えで、何をする必要があるのか?本展でその答えが提示されているのではなく、現代アートの作や作家の行動を通じて、そのことを考える視点やきっかけを提供し、対話が生まれることを促しているようです。あなたも、環境問題について少しでも気になることがあるなら、本展に参加してみてはいかがでしょうか。
たった“1秒”あまりで人類が地球に与えた影響を考える
地球が誕生してから約46億年という時間を1年に例えると、ヒトの歴史は約4時間に相当します。18世紀後半以降に起きた産業革命からの人類の歴史は、わずかに1秒ほどです。このたった“1秒”あまりで人類が地球に与えた影響は大きく、環境危機が喫緊の課題となっており、国際的なアートシーンにおいても重要なテーマとして多くの展覧会が開催されています。
また、2022年に採択された国際博物館会議(ICOM)の新しいミュージアムの定義にも、博物館が包摂性や多様性とともに持続可能性を育む場所であることが明記されています。
この環境危機に対し、現代アートがどのように向き合い、私たちの問題としていかに意識が喚起されるのか。本展は世界16か国、34人の作家が作品に込めたコンセプトや隠喩、素材、制作プロセスなどを読み解き、ともに未来の可能性を考えていく機会となります。
展示のしつらい、作品の企画自体がサステナブル
本展は作品や展示関連資材の輸送を最小限にし、可能な限り資源を再生利用するなどサステナブルな展覧会として制作されています。前の展覧会の展示壁および壁パネルが部分的に使用されていたり、世界初の100%リサイクル可能な石膏ボードが採用されているなど、こうした点は展示会場を入ってすぐに目につきます。また、できる限り作品というモノ自体の輸送を減らすために、作家本人が来日し、新作を制作してもらうことも試みられています。
そうした姿勢を象徴していると感じられるのが、会場入り口付近にあるニナ・カネルの《マッスル・メモリー(5トン)》です。私たちは床に敷き詰められたオホーツク海の海生軟体動物の殻(ホタテの貝殻)の上を歩いて、その感覚と音を楽しむことができますが、約半年にわたる会期の終わりには粉々に砕かれていることが容易に想像できます。この粉砕された貝殻は、展覧会終了後、セメントの原料としてさらに再利用される予定だそうです。原料として得られる量は多くはないと思われますが、逆に、人の手で資源を生み出すことがどれほど困難なことかを実感させられます。
この他、本展では身近な環境にあるものを素材として再利用した作品が多く出展されます。森美術館を一つの環境と捉えて半径1キロメートル四方に生えている植物を調査・採取して押し花にするジェフ・ゲイスの作品、六本木から銀座への道すがら発見したものを組み込んだケイト・ニュービーのインスタレーション、東京近郊の病院の廃材を素材としたダニエル・ターナーの絵画インスタレーション、ゴミを高温で溶解させたスラグと大理石を並置する保良雄のインスタレーションなど多岐にわたります。
“私たちの”を大きく推進、体現する第2章
全体の展示の中で第2章は、特に私たち日本人が自分ごととして環境問題を意識するために、特徴的で重要な役割りを果たすでしょう。この章は「第2章:土に還る 1950年代から 1980年代の日本におけるアートとエコロジー」とタイトルされ、ゲスト・キュレーターのバート・ウィンザー=タマキ氏により、1950年代から1980年代に日本の作家が、当時社会問題となっていた公害や放射能汚染問題にどのように向き合ってきたかが紹介されています。
日本は戦後の高度経済成長期において、自然災害や工業汚染、放射能汚染などに起因する深刻な環境問題に見舞われました。本章では50年代、60年代、70年代、80年代と時系列で考察しながら、各時代の代表的な日本人作家の表現方法の変遷をたどることができます。
つい先日2023年9月27日に、救済策の対象外となっていた移住者が原告の水俣病訴訟の判決が大阪地裁で下されましたが、この時代に起きた環境問題は未だにすべてを解決できていません。私たちは一度起きてしまったことの根深さと元にあった状態に戻すこと、つまり“土に還る”ことの難しさを実感するべきではないでしょうか。
本展では、国際的なアーティストによる歴史的な作品から本展のための新作まで多様な表現を、四つの章で紹介されています。あなたも、感じ、学び、考えてみてはいかがでしょうか。
【展示構成】
第1章「全ては繋がっている」
私たちの地球を薄く覆う生物圏では、様々に相互作用する無数のプロセスが生じています。動物、植物、微生物、商品、データ、廃棄物などのあらゆるものは、その役割を変えながら、部分的には人間の活動と思考によって刺激を受け、または無関係に、地球上を循環しています。
第1章では、環境や生態系と人間の政治経済活動が複雑に絡み合う現実に言及されています。
[第1章出展アーティスト]※姓のアルファベット順
ニナ・カネル (1979年スウェーデン、ヴェクショー生まれ、ベルリン在住)
ハンス・ハーケ (1936年ドイツ、ケルン生まれ、ニューヨーク在住)
ヨッヘン・ランパート (1958年ドイツ、メールス生まれ、ハンブルク在住)
エミリヤ・シュカルヌリーテ (1987年ヴィリニュス生まれ、同地およびノルウェー、トロムソ在住)
セシリア・ヴィクーニャ (1948年サンティアゴ生まれ、同地およびニューヨーク在住)
アピチャッポン・ウィーラセタクン (1970年バンコク生まれ、チェンマイ在住)
第2章「土に還る」
地球全体に影響を及ぼすグローバルな環境危機は、数え切れないほどの地域特有の問題から始まっています。現代アートが今日のようにグローバルなものではなかった時代、作家たちはそれぞれの文化的背景に応じて、独自の表現による応答を行いました。
第2章では、1950~80年代の高度経済成長の裏で、環境汚染が問題となった日本で制作・発表されたアートを再検証し、日本という場所から環境問題を再認識させてくれます。
[第2章出展アーティスト]※姓のアルファベット順
藤田昭子 (1933年神奈川生まれ、同地在住)
桂 ゆき (1913年東京生まれ、1991年同地にて没)
木村恒久 (1928年大阪生まれ、2008年東京にて没)
鯉江良二 (1938年愛知生まれ、2020年同地にて没)
工藤哲巳 (1935年大阪生まれ、1990年東京にて没)
村岡三郎 (1928年大阪生まれ、2013年滋賀にて没)
長澤伸穂 (1959年東京生まれ、ニューヨーク在住)
中西夏之 (1935年東京生まれ、2016年同地にて没)
中谷芙二子 (1933年北海道生まれ、東京在住)
岡本太郎 (1911年神奈川生まれ、1996年東京にて没)
谷口雅邦 (1944年青森生まれ、東京在住)
殿敷 侃 (1942年広島生まれ、1992年島根にて没)
第3章「大いなる加速」
人類は、地球上の資源を活用して生き延びてきました。近代化と工業化によって、世界は発展し、科学的発見と技術革新がすさまじいスピードで起こりました。その過程では自然は共存するものというより、分析し利用する対象として考えらました。このプロセスは20世紀後半になると「大加速」と形容されるほど加速し、人間活動は現在もあらゆる範囲において急激に拡大し続けています。
第3章では、人類による過度な地球資源の開発の影響を明らかにすると同時に、ある種の「希望」も提示する作品が紹介されています。
[第3章出展アーティスト]※姓のアルファベット順
モニラ・アルカディリ (1983年生まれ、ベルリン在住/クウェート国籍)
ジュリアン・シャリエール (1987年スイス、モルジュ生まれ、ベルリン在住)
アリ・シェリ (1976年ベイルート生まれ、同地およびパリ在住)
ダニエル・ターナー (1983年バージニア州ポーツマス生まれ、ニューヨーク在住)
保良 雄 (1984年滋賀生まれ、パリおよび千葉在住)
第4章「未来は私たちの中にある」
環境危機は、私たち自身の「選択」が招いた結果です。未来にはどんな選択肢が残されているのでしょうか。現状を打破するには、環境との搾取的ではない関係構築が必要です。本章では、そうした関係性を築く手がかりとなり得る多様なアートの実践が紹介されています。非西洋的な世界観を讃える作品、モダニズムの進歩主義への疑問、エコ・フェミニズムの視点、デジタル・イノベーションがもたらす可能性まで、その範囲は多岐にわたっています。
第4章では、展覧会全体を通して、地球そのものが持つ知性、美しさ、共生、生と死、そして何よりもアートの力という観点から、未来を再考し、私たちひとりひとりの「選択」を考えさせてくれます。
[第4章出展アーティスト]※姓のアルファベット順
マルタ・アティエンサ (1981年マニラ生まれ、オランダおよびフィリピン在住)
イアン・チェン (1984年ロサンゼルス生まれ、ニューヨーク在住)
アグネス・デネス (1931年ブタペスト生まれ、ニューヨーク在住)
ジェフ・ゲイス (1934年ベルギー、レオポルドスブルグ生まれ、2018年ベルギー、ヘンクにて没)
シェロワナウィ・ハキヒウィ (1971年ベネズエラ、アマソナス州アルト・オリノコ、シェロワナ生まれ、同地在住)
ピエール・ユイグ (1962年パリ生まれ、サンティアゴ在住)
松澤 宥 (1922年長野生まれ、2006年同地にて没)
アナ・メンディエータ (1948年ハバナ生まれ、1985年ニューヨークにて没)
ケイト・ニュービー (1979年ニュージーランド、オークランド生まれ、テキサス州フローレスビル在住)
アサド・ラザ (1974年ニューヨーク州バッファロー生まれ、ニューヨークおよびドイツ、ライプツィヒ在住)
西條 茜 (1989年兵庫生まれ、京都在住)
タイトル | 森美術館開館20周年記念展 私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために |
会期 | 2023年10月18日(水)~ 2024年3年31日(日) |
会場 | 森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階) |
住所 | 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階 |
Webサイト | https://www.mori.art.museum |
開館時間 | 10:00~22:00 ※火曜日のみ17:00まで ※ただし2024年1月2日(火)、3月19日(火)は22:00まで ※ただし10月26日(木)は17:00まで ※最終入館は閉館時間の30分前まで |
休館日 | 会期中無休 |
チケット情報 | ・本展は事前予約制(日時指定券)を導入しています。⇒チケットの予約・購入はこちらへ ・専用オンラインサイトから「日時指定券」のご購入や予約が可能です。 ・当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしでご入館いただけます。 |
[平日]入館料(消費税込 ) | ※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )の料金が適用されます。 ※音声ガイド付チケット(+500円)も販売しています。 一般: 2,000円(1,800円) 学生(高校・大学生):1,400円(1,300円) 子供(4歳~中学生):800円(700円) シニア(65歳以上):1,700円(1,500円) |
[土・日・休日]入館料(消費税込 ) | ※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )の料金が適用されます。 ※音声ガイド付チケット(+500円)も販売しています。 一般 :2,200円(2,000円) 学生:(高校・大学生)1,500円(1,400円) 子供:(4歳~中学生)900円(800円) シニア:(65歳以上)1,900円(1,700円) |