南谷理加 「黙劇」 at 小山登美夫ギャラリー六本木
小山登美夫ギャラリー六本木では、南谷理加の個展「黙劇」が2023年10月28日(土)から11月18日(土)まで開催されています。作家にとって同ギャラリーでの初の個展となる本展では、新作を中心に大小のスケールにわたる油彩画が発表されています。南谷が描く人物画は、作家自身が「人物は色や形の入れ物にしか過ぎません」と語るように、イメージの実験の一部でしかないようにも思え、私たちはここから新しいことが始まる、何かの原点を観ているのかも知れません。一度見たら絶対に忘れられない、独特の世界観と作家の現在地を“目撃”しに訪れてはいかがでしょうか。
本展のタイトルである「黙劇」は、パントマイム(pantomime、無言劇)の日本語訳です。南谷はこの訳を知った際、昔見たパントマイムの「なにかをしているふり」と、自身の絵の中の人物などが繋がったといい、また同時に「黙」として言葉を語らないモノである絵画の性質とも共通項を見出したといいます。
パントマイムはその所作や、顔と身体の表情などから、演じている登場人物の感情や考えなどの内面を、観ている私たちっが読み取る楽しさがあり、同時に緊張感も生み出しています。また、何もない所に壁が出現してぶつかったり、目には見えない風船につかまって宙に浮く・・・などのような表現のおかしさや驚きなどもあるでしょう。
こうしたパントマイムの一般的な面白さは、南谷の意図するところではないような気もしますが、観る楽しさという意味では似たような感覚を抱く部分もあるように思います。
南谷が描く登場人物や動物は、豊かな表情と独特のジェスチャーで躍動感をもって画面に立ち現れます。余白を大胆に使用したダイナミックな構図で、人物などが集まって描かれた群像においては、互いに干渉しあうポーズや視線が観る人のまなざしを誘導し、錯乱させます。一方で単体のモチーフが画面一杯に描かれた構図では、描かれた人物や動物がまるで「押し込まれているように」、キャンバスそのものの直線的なエッジに制限され、あるいはそれに呼応しているような表現があります。
中には現実的にはありえないと思えるようなポーズとよくある仕草や、身体の一部が省略されているのに、手はシワが細かく描き込まれていたり、少し不思議な感じがするものもあります。こうしたモチーフの省略化とディテール描写や、対照的な色の組み合わせ、均一に塗られた色面と筆致の際立つ箇所など、南谷の絵画はキャンバス上の様々なコントラストによって構築されます。こうした実験的な部分も、私たちにとって観る楽しさのひとつでしょう。
また本展の作品にも見られる近年の展開として、登場人物の肌や服の部分に、タトゥーや模様のようにも見える線描が描き込まれます。作家が「ラフに引いた線」と呼ぶこうした線描は、絵具の色面に新たなレイヤーを与えることでその重厚感を突き崩すと同時に、キャンバスという一つの画面に描かれた人物像に、画中でまた新たな描画が与えられるという入れ子構造を発生させます。
南谷理加は1998年に神奈川県で生まれ、2021年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業しました。2023年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了し、現在は茨城を拠点に活動しています。
南谷は一見、なにかの物語の一部やキャラクター的な表象にもとれる人物や動物のモチーフは、「人物は色や形の入れ物にしか過ぎません」と語っていて、イメージの実験の一部でしかないのかもしれません。南谷の作品において具象的なモチーフは、絵画独特の視覚的な効果と切っても切れない相互的な関係にあります。南谷のそうしたバランス感覚は、特定の意味を伝える手段でも、視覚効果の追求のみでもない、作家が「絵として自立した絵」と形容する独特の視覚言語を確立しています。
新作が一堂に会しているというこの機会は、見逃せないでしょう。ぜひ、お出かけください。
タイトル | 南谷理加 「黙劇」 |
会期 | 2023年10月28日(土)~ 11月18日(土) |
会場 | 小山登美夫ギャラリー六本木 |
住所 | 106-0032 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F |
Webサイト | http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/minamitani2023/ |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日・月・祝日 |
観覧料 | 無料 |