門倉太久斗「スピードレクイエム 」at Gallery10[TOH]
Gallery10[TOH]では、門倉太久斗「スピードレクイエム 」が2023年12月9日(土)から12月31日(日)まで開催されます。本展で、門倉太久斗は新しい男性性やジェンダーをテーマに自由な表現を追求していると言います。メインビジュアルからは、見るからに中毒性のありそうな、逃げることができそうにもない魅力が感じられます。本展は、男性と「速度」について自身の考察を反映した新作を含む絵画作品を発表するとのこと。他にはないアート体験が楽しめそうで、期待が高まります。
門倉にとってのファッションとアート
ギャラリーに入ると少し毒々しさも感じられる、独特のエネルギーが感じられるカラフルな作品が並んでいます。「ペニス・フラワー」など、自由な色彩と独自の形状を持った伸びやかな植物や人物などの中に、クルマと超音速旅客機のプラモデルの箱が描かれ、作品に内包されるメッセージに関心が向きます。
門倉にとって、ものづくりにおいてファッションとアートには垣根はないようです。コム デ ギャルソンのパタンナーとして活躍した彼は、ものづくりにおける共通点が表れている作品として《ランウェイ》をあげています。
この作品のモチーフはパリコレなどでランウェイに登場したモデルたちですが、門倉はこの姿に秋田県男鹿半島の「なまはげ」に代表される「まれびと」を重ねています。「まれびと」は本来、1年の中のある時期に異界からやってきて冨や予言をもたらす霊的もしくは神の本質的存在のことですが、門倉は「なまはげ」のように異形ではあるが誰も見たことがない未知のものをもたらし、日常をゆるがす、あるいは混乱させようとしています。その姿勢は、ファッションとアートのどちらに対しても同じだといいます。
転換、あるいは破壊することで生まれるもの
このように、既存のものや価値観を転換する、あるいはゼロに破壊することで生まれるエネルギーは、常に門倉の思索や創作を後押ししてきました。そして今回、本展で門倉が既存の概念を転換させる、もしくは破壊しようとしているのが、男性性についてです。
作品《Penis Flower 1969》に現れているように、男性性に軸足を置いた創造は閉塞状態にあるとしたら、男性は何に創造の源やきっかけを求めればよいのでしょうか。門倉の答えは、作家ステートメントにも、そのヒントが現れています。
実は、ステートメントの最後の段落の直前にある、「男子達は絵を描いたり詩を詠んだりする以外に、やることがいよいよ無くなってしまったようにも感じます。」までの文章は10年ほど前に書かれたものです。そして最後の、「しかし悲観する必要はありません。」以降は、本展に向けて付け加えられています。
スピードレクイエムの先にあるもの
フルーツをむく、という行為は男性にとって様々な記憶と結びつき、女性的、あるいは母性を感じられるかもしれません。また、ものごとを見たり、考えるときに新しい視点を与えてくれるでしょう。
また、高校生の頃はスピードに憧れ、プロダクトデザイナーになることも考えていた門倉にとって、クルマや超音速旅客機のプラモデルはその名残りでもあります。
プラモデルは大人になったら卒業すべきことで、いつまでも関心を持つのは少し恥ずかしいことかも知れません。しかし、心が自然と欲してしまい、いつまでも関心を持つのをやめられないのも許容したいという葛藤もあるでしょう。
そして秋田の「なまはげ」は男性っぽく見えますが、神様なので特に性別はないといいます。だとすれば、男性は時代にあわせて変化していく価値観から、自由に取捨選択して、新しい男性のありようを作っていくべきなのかもしれません。
門倉の世界観は、「なまはげ」が毎年、決まった時期にやってくるように、これからも少しずつ広がり、深まっていくでしょう。私たちはこれを契機に、改めて門倉の活動に注目していきたいと思います。
【作家ステートメント】
食料が安定して手に入るようになって、我々男性のからだから筋肉が意味を失いました。
不安を埋め合わせるために、我々は速く移動する方法を考え、競い合うことにしたのです。それは長い間かなりうまくいっていたように思います。
最も速く移動できた人々は美しい馬を見つけ、強大な帝国を作りました。やがて、求める対象は美しい自動車や飛行機となり、筋肉を代替しました。
超音速旅客機コンコルドは、試験飛行として初飛行後、1970年にマッハ2を超えて75年に就航。この年にピークを迎えて以降、情報の速さが移動の速さを超えて、2003年にコンコルドは飛行を終了。速さを追求するなかで生まれた美しさを、これから我々は何に見出していくのでしょう。男子達は絵を描いたり詩を詠んだりする以外に、やることがいよいよ無くなってしまったようにも感じます。
しかし悲観する必要はありません。まずはお茶をいれ、自らの手でフルーツを剥き、これからどうするか考えていきましょう。必要がなくなったとしても、我々の筋肉は美しいまま残り続けてもいいのです。
門倉太久斗
【作家プロフィール】
門倉太久斗は埼玉県生まれ、武蔵野美術大学造形学部空間デザイン科ファッション専攻卒業。コムデギャルソンにパタンナーとして従事しながら、愛するアニメ、プリキュアをモチーフとしたネックレスを制作、「22世紀ジェダイ」としてSNSで発表し注目を集める。独立後、「門倉太久斗」名義で発表する絵画作品では、「やってくるもの」をテーマに表現を追求。独自の形状をした植物や人物などをモチーフに、絶妙な構図と色の組み合わせで画面いっぱいに描き、中毒的な魅力をもって鑑賞者を引きつける。
https://www.instagram.com/22nd_century_jedi/
https://twitter.com/22_kadokura
2019 グループ展「渋谷スタイル」渋谷西武デパート(東京)
2020 個展「自分を祝福する儀式」新宿眼科画廊(東京)
2020 個展「太陽」自宅住居(東京)
2021 個展「デパートの中の花の中のガールズ」渋谷西武デパート(東京)
2021 グループ展「Familiae Sylvanian」アートラボ・トーキョー /アキバ(東京)
2021 個展「理想鉢」STEIN BOX(東京)
2022 グループ展「lovely」oil by 美術手帖(東京)
2022 2人展「drawing factory」アメ横センタービル(東京)
2022 個展「どれもそれぞれに可愛くて一番は決められない」WISH LESS gallery(東京)
2023 個展「perfect world」下北沢アーツ(東京)
2023 アーティストインレジデンス成果展「大きな烏を捕まえよう」(長野)
タイトル | 門倉太久斗「スピードレクイエム 」 |
会期 | 2023年12月9日(土)〜 12月31日(日) |
会場 | Gallery10[TOH] |
住所 | 151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-20-11 第一シルバービル1B ※JR代々木駅東口を出た目の前の第一シルバービル1Fです。ギャラリーへの扉がタバコ自販機になっているのが目印です。 |
インスタグラム | https://www.instagram.com/gallery10.toh |
開廊時間 | 13:00〜20:00 |
休廊日 | 月曜、火曜 |
観覧料 | 無料 |