青山夢 個展 : 見えない怪獣 at ART FRONT GALLERY
アートフロントギャラリーでは、青山夢の初個展「見えない怪獣」が2024年4月12日(金)から5月19日(日)まで開催されています。青山は、例えば東日本大震災による福島第一原発の事故で立入制限地域があっても、イノシシなどは関係なくそこに入り込むことに関心を抱いてきました。そこから様々な獣の皮膚や毛を土台に制作を重ね、治癒と破壊を繰り返す、人間と自然の共生を神話学的思考で捉え描いてきました。そこからさらに、本展で青山は日本の特撮シリーズの元祖であるウルトラ怪獣に着目し、目に捉えることが難しい現代の災いや問題をモチーフに、現代の怪獣を制作し、新たな物語を生み出そうとしています。自由で、のびのびとした感性あふれる作品との出会いを楽しみに、訪れてはいかがでしょうか。
物語性が豊かなキャラクターたち
ギャラリーに入ると、個展のタイトルとおりに「見えない怪獣」が私たちを出迎えてくれます。怪獣たちは恐怖を感じさせる部分も多少はありますが、どれもキャラクター性が明快で、ポジティブな印象を受けます。
その動き自体も躍動しているものが多く、《bat monster》は鎖につながれているにも関わらず、今にも飛び立ちそうです。背景はさらに自由奔放で、《見えない怪獣》のようにハッピーバースデーと書かれたケーキがあり、誰の、何の誕生日なんだろうと考えさせられます。しかしながら、どれもが、何かの物語やメッセージを抱いていることは、はっきりと伝わってきます。
治癒と破壊を繰り返す、人間と自然の共生
青山夢は1997年に茨城県に生まれ、2020年に東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コースを卒業後、2022年には同大学大学院修士課程で芸術文化専攻絵画研究を修めています。これまで日本のみならず、韓国やシンガポールでも作品を発表してきました。
青山はこれまで、山形県村山地方の供養習俗であるムカサリ絵馬の取材を通し、人々が暮らす環境の中で、人の死を思う人間の普遍的な形式をモチーフにして作品をつくってきました。また、太古の昔から神話は、その土地で起こった自然災害などの出来事を元に物語られることがよくありますが、青山はそうした神話にも関心を寄せ、治癒と破壊を繰り返す、人間と自然の共生を神話学的思考で捉え描いてきました。
自由に行動している鳥や獣たち
そして、新たな発想が生まれたり、広がるきっかけになったのがコロナ禍における行動制限だったと言います。ウィルスの正体が分からず、作品を作りたいのに学校にも行けず、とにかく家に居なさいと言われた悶々とした状況の中で、青山は以前から知っていた、日本とギリシャ神話は太古の昔は何のつながりもないはずなのに共通点が多いことに思いあたります。そこから青山は、カラスはどこにでもいて、自由に空を行き来し、獣は制限なくエリア間を行動していることに気づき、国と国、地球をつなぎ合わせているのは獣なのではないかという考えに至ります。
神話とウルトラ怪獣の共通点
また青山は、過去に得られた教訓などを未来に伝えようとしている点で、「神話とウルトラ怪獣のつくりは、非常に似ている」と指摘しています。確かにウルトラ怪獣は、1960年代に世界で起きていた軍拡競争やベトナム戦争、差別などの社会問題を、怪獣という形で、当時の大人が戦争の反省から番組を見る未来ある子どもたちに伝えていたようにも思えます。
最近の社会問題としてはウイルスや環境破壊から生じる自然災害だけでなく、音速で飛ぶ武器やAI、SNSでの情報の氾濫など、人為的な社会環境の変化もあげられ、目にはとらえることが難しい脅威が増えてきたように感じます。これを同じ様に、“現代のウルトラ怪獣”ととらえ、発想したイメージが本展の「見えない怪獣」となっているのです。
青山らしい「治癒と破壊」の表現
さらに、青山らしい発想と言えるのが「治癒と破壊」という言葉です。一般には“破壊と創造”のように0か100か、あるいは善か悪かというような二項対立の枠組みもありますが、彼女の場合はそれとは違い、破壊されたものを治して癒し、元の状態に戻すようなイメージがあるようです。そこから作品には、《bat monster》のように毛革を“縫合”して治癒させている点や、《Everyday life and threats》のように博物館で見た「千人針」を無事や“治癒”への「祈り」として捉えて表現している点に彼女らしさが現れています。
青山は、小学校の時にゴジラファンの先生がいて、ゴジラを通じた学びの時間があったと言います。ビジュアルは怖いが、水爆実験により生まれたという背景を知って、人間にとってゴジラは敵だけど、地球から見たらゴジラは必ずしも敵ではない、という視点を得ました。こうした幼少期からの様々なできごとや夢中になってきたものが青山の独創的な世界をつくり上げてきたようです。そして、この世界はまだまだ広がっていきそうです。若いアーティストの柔らかいエネルギーとその現在地を確かめるために、ぜひ、訪れてはいかがでしょうか。
タイトル | 青山夢 個展 : 見えない怪獣 |
会期 | 2024年4月12日(金)~ 2024年5月19日(日) |
会場 | ART FRONT GALLERY |
住所 | 東京都渋谷区猿楽町 29-18 ヒルサイドテラス A棟 |
Webサイト | https://www.artfrontgallery.com/exhibition/archive/2024_02/4919.html |
開廊時間 | 水・木・金 12:00~19:00 土・日 11:00~17:00 |
休廊日 | 月曜日、火曜日、およびゴールデンウイーク(5月3日~5月7日) |
観覧料 | 無料 |