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石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか in 東京都現代美術館

東京都現代美術館では、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」が開催されています。アートディレクターやデザイナーとして多彩な分野で新しい時代を切り拓き、世界を舞台に活躍した石岡瑛子さん (1938-2012)の主な仕事と作品をふりかえる、世界初の大規模な回顧展となっています。
見どころはたくさんありますが、素晴らしい仕事や作品を通じて見えてくる石岡さんの表現者としてのダイナミズムと生き様は、今を生きる私たちにとって力強いメッセージになるでしょう。何のためらいもなく、日本でできたことをそのまま世界でも貫き、進化させていった石岡さんの歩みは、私たち自身の中にも可能性があることを気づかせてくれます。

日本から世界へ、パワーアップする“冒険の旅”
石岡瑛子さんの世界初の大規模な回顧展は、時系列でたどる3つのセクションによって構成されています。初期の日本国内だけでなく、世界に進出してからも、時代を切り拓き、境界を横断していくクリエーションのパワーはどんどんスケールアップしていくので、ひとりのデザイナーの“冒険の旅”を観ているような気分にもなります。
最初のセクション「TIMELESS:時代をデザインする」は、60~70年代の広告グラフィック作品などが中心になっています。今では、広告グラフィックはパソコンの画面の中で緻密なグラデーションや透かしなどがいく通りもできますが、それらのすべてが職人の技術で成り立ち、一発勝負であった頃の緊張感が伝わってきます。ただ、それを知らないほうが、強烈なメッセージ性を純粋に楽しめるかも知れません。

次の「FEARLESS:出会いをデザインする」は80年代に入ってから世界に飛び出し、広告のみならず、舞台や映画、ブロードウェイやハリウッドというエンターテインメントへと広がる多彩な作品を観ることができます。未経験の仕事にチャレンジしつつ、世界的に才能を認められた人々と出会い、互角に渡りあって自分の個性やアイデンティティを押し出していく姿勢は痛快です。

 

最後の「BORDERLESS:未知をデザインする」は、その個性がさらに進化し、オペラやサーカス、そしてオリンピックなど、異なるステージも加わり、輝きがさらに増した円熟期の作品と仕事で構成されています。
いずれのセクションでも石岡さんがデザインの根幹として掲げたと言われる「Timeless, Original, Revolutionary」のテーマが体感でき、“冒険の旅”には明確な目的地があったことがうかがえます。

 

キャラクターを通じた強烈なメッセージ
石岡さんの作品からは、初期の広告グラフィックから最後の衣装デザインまで、常にシンプルかつ強烈なメッセージが発信されています。その「語り部」であり、時に石岡さんの分身であるのがキャラクターではないかと感じます。
石岡さん自身が「私が求めるものを表現できるキャラクターは、それが語り口に応じてアフリカ人だったり、インド人だったり、あるいはニューヨークの女優だったりと変わってくる」と語られているとおり、観る者の固定観念を打ち破るようなキャスティングによるメッセージ性はパルコの一連の作品によく表れています。

 

そうしたふるまいは80年代に世界に出ることにより、どんどん舞台や映画の衣装へとスケールアップしていくようです。特に、従来の古色蒼然としたおどろおどろしいイメージを打ち破ったドラキュラの衣装デザインは斬新です。まるで内面に屈折した様々な葛藤を抱えたロックスターのステージ衣装のような作品は実に怪しげで、多面的で「万華鏡のような」ドラキュラのキャラクターを、衣装を通じて造形しようとしたと言われています。

 

また映画『ザ・セル』において、初期段階に主要なキャラクターについての複数のアイデアを添えてFAXした64枚のドローイングの展示を観ると、石岡さんにとってメッセージの語り部としてのキャラクター設定がいかに重要だったかが感じられます。
このように、全世界からここに集められた壮麗な映画衣装を、込められたメッセージを感じながらひとつひとつ観ていると、「血が、汗が、涙がデザインできるか(=感情をデザインできるか)」につながる石岡さんのデザインの本質的な部分を体感できるような気がします。

 

周囲を動かす言葉のチカラ
本展はコラボレーションを通したデザインのプロセスに迫る展示を観ることができ、この点は大変興味深いところです。なぜなら、創作活動をひとりで完結することができるアーティストと、周囲の人を動かし、協力を得ながら自分の表現したいところにたどり着くデザイナーとではおのずと見どころは違ってくるからです。

 

このプロセスを観る時、石岡さんの言葉のチカラは具体的で、説得力に満ちていることに驚かされます。例えば会場の入り口では、石岡さんのロングインタビューを編集した20分弱の音声が流れますが、心に刺さる言葉が次々と出てくるので本会場に入る前にここで釘づけになってしまいます。実際は、本会場に入ってもBGMのようにこの音声が流れているので、聴きながら観ることもできます。
また初期の資生堂時代に見られる印刷会社(製版)や制作スタッフへの指示書にはじまり、世界中の依頼主や共同制作者へ提示するアイディアやドローイングなどに添えられた言葉は簡潔かつ繊細です。特に、マイルス・デイビスのレコードジャケット「TUTU」に関する展示では、自叙伝「私デザイン(I DESIGN)/講談社」に記されている、気難しいと言われたマイルスの心を動かした言葉やスリリングなやりとりを思い出させてくれます。

 

アーティストの展覧会であれば、何の予備知識もなく観て、感じたままを楽しむことも少なくないでしょう。しかし石岡さんのようなデザイナーの場合は周囲を動かしたプロセスを理解し、頭の中で再現してみると楽しいので、そこをじっくり考えながら観ているとひとつのセクションで最低1時間は必要になるでしょう。本展は時間にゆったり余裕をみて来館し、途中で休憩を入れながら、観て考えて、感動し尽くすように楽しむのがお奨めです。

タイトル 石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか
会期 2020年11月14日(土)- 2021年2月14日(日)
会場 東京都現代美術館 企画展示室 1F/地下2F
住所 〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
Webサイト https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/
開館時間 10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(11月23日、2021年1月11日は開館)、12月28日-2021年1月1日、1月12日
料金 一般 1,800円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1,300円 / 中高生 700円 / 小学生以下無料
予約優先チケットあり※ 本展のチケットでMOTコレクションも観覧可能です。
※ 小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。
※ 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
※ 企画展「MOTアニュアル2020 透明な力たち」展とのお得なセット券もございます。詳細はこちら