第16回shiseido art egg　YU SORA　「もずく、たまご」 in 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは公募プログラム第16回shiseido art egg 第2期として、YU SORA展「もずく、たまご」を2023年3月7日（火）から4月9日（日）まで開催しています。YU SORAは、白い布と黒い糸を使った刺繍の平面作品や、家具やカーテンなど実物大の立体作品を組み合わせたインスタレーションで些細な日常に向き合う作品を展開しています。白がとても印象に残る会場で、私たちそれぞれの日常を想い起こせば、その大切さや愛おしさに気持ちがおよび、もしかしたら心も温かくなる、そんなアート体験ができる個展です。

「shiseido art egg」は2006年から始まっており、1919年のギャラリーオープン以来の活動理念である「新しい美の発見と創造」をまさに体現するような、瑞々しい新進アーティストを応援する取り組みとして続けられています。
第16回目となる今回は全国より260件の応募があり、岡ともみ、YU SORA、佐藤壮馬の3名が入選されました。5月までこの3氏による個展が開催され、6月頃にこの中からひとつの個展がshiseido art egg賞に選ばれることになっています。

YU　SORA「もずく、たまご」へ、会場につながる階段の入り口に立った時、降りた先にまばゆい光に満ちているのが見えて、すでにいつもと違うと感じることができます。
資生堂ギャラリーでは、作家それぞれの意図は違いますが、照明を暗くした状態で展示されることが多いので、ほとんどの場合は緊張感と期待を高めながら暗い階段を降りていくことになります。
本展は逆に、明るい光に包まれ、最初からリラックスして、素直に作品の世界観に入っていくことができます。

YU SORAは、白い布と黒い糸を使った刺繍の平面作品や、家具やカーテンなど実物大の立体作品を組み合わせたインスタレーションで、些細な日常に向き合う作品を展開しています。布や糸、刺繍というユニークな材料や技法に、いろいろ意味や意図を考えてしまいがちですが、もともとは服飾を勉強されていたと聞き、これがもっとも作家自身を素直に表現できる方法なのだろうと推察されるので、観る側もシンプルに受け止めるべきかも知れません。

メインのスペースには実物大のダイニングテーブルとカーテン、そして作家の日常風景の中にあるさまざまなモノや道具などが、刺繍の平面作品や立体作品として配置されています。奥のスペースは薄い幕でゆるやかに仕切られ、ベッドルームのようなプライベート空間がしつらえられています。

白い立体の輪郭には黒い糸で縫われた“ふちどり”があり、糸は仕舞われず、ほつれたような状態で垂れ下がっています。そこからは不完全さ、はかなさ、危うさのようなイメージが醸し出されています。
YU　SORAは東日本大震災を日本で経験し、韓国で起きた旅客船の事故でたくさんの高校生が亡くなったことに心を痛め、何気なく暮らす日常の大切さに向き合うようになったと話しています。インスタレーションに配置された個々の作品からは、日常を愛しむような感情が伝わってきます。

また、会場に滞在すると「白さ」が印象に残ります。これは特定の色で限定するのではなく、観る人の日常を重ね合わせて欲しいという作家の意図によるもので、空間や作品はまるでシルクのように白くまばゆく、柔らかい光を反射しています。
そして、この白さはなかなか写真からは伝わりません。個々の作品を接写した場合は実際に目で見ている状態に近いトーンで撮れますが、スペース全体を写したような場合はどうしてもグレーのトーンが強く出てしまいます。作家がこだわったであろうこの「白さ」は、ぜひ、会場で体験してみてください。

YU　SORAは会場で配られているシート（配置図）で、以下のようにコメントしています。

もずく、たまご。ある日のレシートに記載されていた日常。何もなかった一日、何気なく過ごす日々そのものが平和であることに気づく。

最初は不思議なタイトルだなと思った「もずく、たまご」ですが、ゆっくり、ひとつひとつの作品を観ていると、だんだんとその意味がしみてきます。あなたも、自分の「もずく、たまご」を見つけに、本展を訪れてみてはいかがでしょうか。