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第17回 shiseido art egg 第2期 野村 在 展『君の存在は消えない、だから大丈夫』 at 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは第17回を迎えた、資生堂が新進アーティストを応援する公募プログラム「shiseido art egg」の第2期展 野村在展『君の存在は消えない、だから大丈夫』が2024年3月12日(火)から4月14日(日)まで開催されています。今回の審査ポイントは、独自の視点で今日の世界を見つめ、時代が抱える不安や困難に真摯に向き合い、そこから新しい価値観や美意識を表現しているか?という点にあり、野村在(のむらざい)は、写真や彫刻を素地とした様々なメディウムを通して、生と死やその間に横たわるものを露わにすることを試みてきた点が評価されています。いかなる人の存在をも肯定するような力強い本展のタイトルからも分かるように、あなたにとって忘れられないアート体験となるでしょう。ぜひ、お見逃しなく。

新しい価値の創造を感じさせるshiseido art egg

「shiseido art egg」は、人びとの感性と多様な価値観を刺激し、新たな美の可能性を押し広げるアーティストに個展開催の機会を提供してきました。2006年にスタートして以来、毎年3組のアーティストが個展を開催し、その中から最も新しい価値の創造を感じさせたアーティストに「shiseido art egg賞」が授与されています。これまで参加したアーティストは延べ48名(組)にのぼり、「shiseido art egg」参加後も活躍の幅を広げています。

シンプルな空間に響く打刻の音

ギャラリーの階段を降りてメインスペースに進むと、壁面にはデジタルカウンターで何かのパーセンテージが表示され、天井からは昔のコンピューターで見たような穴の開いたテープが垂れて、床にうず高く積もっています。ひとつひとつ、天井の打刻機からは穴を刻む音が耳に響き、何かの存在を主張しているかのようです。
作品には意味を手繰りたくなるタイトルが付けられていますが、詳細は分からないので、会場で配布されているリーフレットを読んでいるうちに、自分がいる空間の意味が徐々に分かってきます。

人間の本質や存在の在り方について問いかける作品

野村はニューヨークと神戸を拠点に、写真や彫刻を素地とした様々なメディウムを通して、生と死やその間に横たわるものを露わにすることを試みてきました。アナログからデジタルへと変容する情報媒体を独自の視点で捉え、人間の本質や存在の在り方について問いかけています。2024年には「Can’t Remember I Forgot You - 忘れたことすら、覚えていない」(トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京)、また2021年「Echoes」(Ulterior Gallery、ニューヨーク)など、国内外で個展を開催しています。

作家の思索が過去、現在、未来と展開する空間

本展ではそうした野村の思索が過去、現在、未来と交差するように展開されています。過去に相当する作品が《バイオフォトンはかくも輝く》と《ギフト》の2点です。
《バイオフォトンはかくも輝く》は、野村自身の家族や祖先も含め、1903年から2023年の間に世界各地で撮影されたポートレート写真を収集し、それらを暗室で燃やした炎を長時間露光により撮影した作品です。バイオフォトンとは人間も含め、あらゆる生物がその生命活動に伴って放射している極めて弱い光のことで、野村が写し取った光跡は存在のはかなさと確かさが同居したような揺らめきを見せています。


《ギフト》は野村の近親者の遺品から発見されたという、誰にも届かず、誰にも読まれなかった手紙や日記を点字に翻訳し、ガラスの箱の内壁に施した作品です。逆文字になるように装着された点字の言葉は解読不可能だが、強烈な光が当たった瞬間だけ正文字の影が壁に浮かび上がります。

来訪者も参加できる写真を水に印刷する装置

また現在に相当する作品が、奥の小スペースに配置された《ファントーム Fantôme》です。これは写真を水に印刷する写真装置を使って、亡くなった人のポートレートを水の膜に浮かび上がらせるもので、野村自身が中学生の頃に被災した1995年の阪神淡路大震災での体験や、2011年の東日本大震災で現地にボランティアとして赴いた際に注目されていた、津波で散逸し損壊したスナップ写真やポートレートの修復に取り組む写真家たちの活動が背景にあるようです。


本展では、来場者の方からも過去に失った大切な友人や家族、ペットの写真を投稿し、指定された時間に訪れれば、その写真データが会場で水に印刷される様子を観ることができます(参加方法の詳細は、こちらを参照してください)。忘れられない存在が写った写真を印刷するインクは水中に漂い、時間と共にはかなく溶解していきます。

打刻に約100年かかる人間の全DNAデータ

そして未来に相当する作品が《Untitled(君の存在は消えない、だから大丈夫)』》です。これは打刻機と穿孔テープと、打刻が終わったパーセンテージを示すデジタルカウンター、そして壁面に掲げられた指示書の3点でひとつの作品を構成しています。


これは約3GBとも言われる人間の全DNAデータを、旧式のコンピューターの記録メディアである穿孔テープに打刻し続ける作品です。天井から吊るされた打刻機がDNAデータを受け取り、展覧会期間中、自動で打刻し続けると言います。二進法を用いてすべてのDNAデータを打刻するには、約100年ほどかかるそうで、野村が死んだ後も打刻は続けられるよう指示書が準備されています。まさしく未来にも届く、壮大なスケール感のある作品であることが実感できます。

普遍的な力強いメッセージ性の後で

改めて、本展のタイトルである「君の存在は消えない、だから大丈夫」は力強いメッセージ性を持っていて、文化や宗教、年齢や性別を問わず、一種の自己肯定感とともに心に染み入ります。また、メディウムが壊れたとしてもその本質は損なわれず、存在の事実は消えないということが本展で具体的に提示されていると感じます。


その上で、ひとりひとりが消えない存在だとして、その先に何を見いだすのか?あるいは何が大丈夫なのか?そのあたりは、野村が提供してくれたアート体験から、私たちひとりひとりが持ち帰る、考える楽しみではないかと思います。あなたも、ぜひ、体験してみてください。

タイトル 第17回 shiseido art egg 第2期 野村 在 展
『君の存在は消えない、だから大丈夫』
会期 2024年3月12日(火)~ 4月14日(日)
会場 資生堂ギャラリー
住所 〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
Webサイト https://gallery.shiseido.com/jp/exhibition/6663/
営業時間 平日 11:00~19:00
日曜・祝祭日 11:00~18:00
休館日 毎週月曜日 ※月曜日が祝祭日にあたる場合も休館いたします。
料金 無料
今後の予定 第3期展 岩崎 宏俊 展  2024年4月23日(火)~ 5月26日(日)