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ダレン・アーモンド 「Timeline」 at SCAI THE BATHHOUSE

SCAI THE BATHHOUSEでは、同ギャラリーでは7年ぶりの個展となるダレン・アーモンドの「Timeline」が2023年11月18日から2024年2月10日まで開催されています。本展の会場内には時間について深く思索された複数のシリーズ作品が紹介されています。いろんな時間軸が交差する中、私たちは作品群を通じて、分散的で抽象的な時間についてさまざまな考えを巡らすことになり、自分たちが生きている時間(=死ぬまでの時間)についての記憶や感情を思い出させてくれるでしょう。少し哲学的に思えるかも知れませんが、アーモンドがそれぞれの作品で示唆していることは興味深く、また私たちが考えるきっかけとなるキーワードも提示されており、訪れた人それぞれに考える時間を楽しむ空間構成になっています。

いかに時間を表現するか、という大きな問い

本展のタイトルとなっている“タイムライン”は、Facebookが普及してから日本でもおなじみの言葉となりましたが、本来は効率よく作業するために整理された時系列を意味します。しかし時間とはそのように、あたかも“もの”のように扱ったり、管理するべきことなのでしょうか?あるいはひとりひとりの記憶や生(=死)の中にある精神的、あるいは抽象的なことなのでしょうか?それとも、もっと科学的なアプローチが必要なのでしょうか?

いかにして時間を表現するか。これは古今東西の科学者、哲学者、そして芸術家たちが長年探求してきた問いです。そして、イングランド北部の街ウィガン出身のダレン・アーモンド(1971~)は、時間を支配の道具として使う管理社会の時間概念を批判的に考察し、数字や言葉で表された客観的な指標では見過ごされてきた、個人の記憶や感情、あるいはその土地の歴史を手がかりに豊かな世界に分け入り、時間について思索を続けてきました。
本展で世界初公開となる新作シリーズ《エントロピー》と《英国の歌鳥》には、これまでの作家の軌跡を踏襲しつつも、コロナ禍や身近な人の死を経て更新されたアーモンド独自の時間概念が凝縮されています。

2つの新作シリーズと山水画のような作品

会場でひときわ存在感を放つのは、5連のペインティング《エントロピー》です。エントロピーは特殊な状況下における不可逆的な状態の変化を意味しますが、本シリーズでは変化の過程を示す数字がキャンバス上の時間の地層となり、時間そのものの不可逆性を問うています。 


銀色の大きな0という数字が、分割された8枚のパネルを縦断し、作品全体に安定をもたらしています。一方、0以外の数字は、フリップ時計の文字盤ように、機械的に上下に分断され、画面上を漂っています。
また、この作品の制作には5年の歳月がかけられています。まずキャンバスの一部に銀箔等の金属箔を貼り、放置することで経年変化を生じさせます。その過程で生まれた色彩は丹念に抽出され、変化した金属箔の表面の色彩とともに分断された数字に塗り重ねられ、剥き出しのまま色彩はさらに変化していくことになります。

拡大され、分断され、彩色された数字は、資本主義社会の時間神話を批判しているようです。しかし同時に、目視できないほどの微細な時間の推移や、天文学的で刹那的な時間、あるいは人間の言葉では語れない誕生から死までの時間を表すためには、数字というものに置き換えざるを得ないことを物語っているようです。

一方で《英国の歌鳥》シリーズでは、肉体の記憶(=時間)が数字に置き換えられることなく、イメージの触感として浮上しています。アーモンドは、あるスタジオを訪問した時に、絶妙なバランスを保って積まれている絵の具で汚れた布の山に目を留めます。彼は、自身のスマートフォンで山積みの布を撮影し、そのデジタルイメージを用いて、二つの作品シリーズを制作しました。


そこではアーモンドが描き加えた絵具の染みが、歌鳥たちが魅せる艶やかな羽のように特異な触感を放ち、止まっていた時間が動き始めたかのようです。また人間の根本的なエネルギーさえも感じられそうです。

この2つの新作シリーズが扱う時間と比べて、《Haboku》シリーズは時間を即興的で直感的にとらえているように感じることができます。同一色を塗り重ね濃淡を出すことで遠近感を演出する山水画の技法の影響を見ることができ、重力方向に下降する絵具は、流れる滝や木々を思わせます。静止している松などの植物も人と同じように時間と空間を構成し、時間と空間、時間と存在は、常にひとつで、人生は常に「今、ここだけ」にあることが示唆されます。

私たちと時間、そしてアーモンドの示唆するもの

これらとは別に、本展のタイトルと同じ《Timeline》と題された作品は、どこかの鉄道の駅の古いレンガ壁に掲げられているようなプレートにも見えます。そこには、時が経てば真実や結果はいずれ明らかになる、という意味の“Time will tell”という言葉が刻まれています。


アーモンドはどんな意図で、この言葉を掲げたのでしょうか?考えようによっては、悩んでも仕方がない、時が教えてくれるのであせる必要がないという風にも受け取れます。しかし、恐らく膨大な時間を費やして思索した“答え”が、このような諦めに近いような言葉なのだろうか?という疑問もわきます。彼がこの言葉を掲げた本当の意図は分かりませんが、何か会場全体を渦巻く思索の流れを、観る私たち自身の中で整理していくひとつのヒントのような気もします。
観る者にとって“問い”の多い本展ではありますが、それは同時に、考える楽しみを提供しているとも言えるでしょう。あなたも訪れて、とても刺激的な思索の時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

タイトル ダレン・アーモンド 「Timeline」
会期 2023年11月18日(土)~ 2024年2月10日(土)
会場 SCAI THE BATHHOUSE
住所 〒110-0001 東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
Webサイト https://www.scaithebathhouse.com
開廊時間 12:00 ~ 18:00
休廊日 ※日・月・祝日休廊
※2023年12月20日(水)~ 2024年1月15日(月)は、冬期休暇でクローズとなります。
観覧料 無料