「Economy and Love」 in KOTARO NUKAGA(六本木)
KOTARO NUKAGA(六本木)では、ステファン・ブルッゲマンとオリオール・ヴィラノヴァによる展覧会「Economy and Love」が5月20日(土)から7月8日(土)まで開催されています。パリのポンピドゥー・センターで大規模なインスタレーション作品を展示するなど世界で活躍するステファン・ブルッゲマンと、ヨーロッパを中心に様々な美術館で展示・収蔵される気鋭のコンセプチュアル・アーティスト、オリオール・ヴィラノヴァによる二人展となります。
タイトルには“―資本主義の後の世界「ポスト・資本主義」との向き合い方について提示―”というフレーズが添えられている通り、「ポスト・資本主義」との向き合い方について様々な示唆に富んだ、考える楽しさを提供してくれるアート体験になるでしょう。
本展の「Economy and Love」というタイトルは、ブルッゲマンとヴィラノヴァから鑑賞者に対して、「economy(経済)」を「エモーショナルなもの」として捉えることが可能なのか?ということを問いかけています。そして「economy(経済)」と「love(愛)」の関係性を並列に扱い、「資本主義」の限界が指摘される昨今、その後の社会、つまり「ポスト・資本主義」との向き合い方が提示されています。
ステファン・ブルッゲマンは、メキシコ生まれで、メキシコシティやロンドン、イビザ島を中心に活動しています。ブルッゲマンは、我々が日常的に目にする、ニュースやSNS、街なかに溢れる広告などのテキストを、辛辣な現代社会批評とポスト・ポップの美学的視点を交えて巧みに組み合わせ、日々加速するデジタル社会にはびこる矛盾をあぶり出します。
ステファン・ブルッゲマンは、本展において「金箔」をメディウムとして用いた新作《Untitled View》シリーズを発表しています。「金箔」は、紀元前から王や位の高い人々がその高貴さを象徴的に表すスピリチュアルな存在でした。一方で金は、価値の高いものの象徴として経済的な面でも重用されてきました。
ブルッゲマンは、このスピリチュアルと経済という、相反するコンテクストをもつメディウムである金箔を支持体にラフに貼り付け、作品の表面を作ります。
どの作品もその表面の一部がウェブブラウザの検索窓のようにも見える、のぞき窓のように切り取られています。私たちが“いつものように”作品の窓から向こうを覗こうとすると、「わたし」自身を構成する情報やモノとつながっていく現代社会の構造に気づかされ、私たちに熟考を促しているようです。
オリオール・ヴィラノヴァはスペイン生まれでブリュッセルを拠点に活動しており、ステファン・ブルッゲマンと深い親交があります。ヴィラノヴァは蚤の市をくまなく探り、ポストカードのコレクションを構成し、それらを通じて自身の制作する芝居やインスタレーション、そしてパフォーマンスの思想的な素地を与えてくれる「思考する機械」を作り出そうとしています。
オリオール・ヴィラノヴァは、本展において《Economical Poem》というペインティングのシリーズを展示します。本作はニュートラルなグレーを背景とし、白く描かれた数字によって構成されています。《Economical Poem》に描かれた数字は、この蚤の市(マーケット)において、ヴィラノヴァがポストカードを蒐集するために、売主と交わしたコミュニケーションを表したものです。つまり、実際に交わされた値引き交渉のやり取りにおいて現れた価格とその推移になるといいます。
左列は売主、右列は買主であるヴィラノヴァが提示した価格です。最後は交渉が成立し、同じ価格が描かれます。
描かれた数字がヴィラノヴァのアーティスト活動を支える、マーケットにおけるコミュニケーションであるとすると、「数字」は単なる「符号」ではなく、まるでその場にいたふたりのやり取りの声が聞こえてくるように意味を持つコードとなるでしょう。
深い思索によってたどり着いたブルッゲマンとヴィラノヴァのアイディアやインスピレーションが、緻密に計算された表現で構成された作品を通じて、様々なことを考えさせてくれる楽しさが本展にはありそうです。しかし、ふたりから発信されるメッセージの内容は意外とシンプルなようにも感じられ、私たちはいろんなことを受け取れるのではないでしょうか。
タイトル | 「Economy and Love」 |
会期 | 2023年5月20日(土) ~ 7月8日(土) |
会場 | KOTARO NUKAGA(六本木) |
住所 | 〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル2F |
Webサイト | https://kotaronukaga.com/exhibition/economy-and-love/ |
開廊時間 | 11:00 ~ 18:00 (火~土) |
休廊日 | 日・月・祝 |
料金 | 無料 |