深川 未貴｜みどりのトーダイ in GALLERY MoMo Projects

GALLERY MoMo Projects（六本木）では、深川未貴による個展「みどりのトーダイ」が9月9日（土）から10月14日（土）まで開催されています。深川は日々出会ったものを自分の感覚やイメージに置き換え、その中間的な存在を絵画に翻訳して表現しています。私たちも実は日々、たくさんのものと出会ってはいるはずなのですが、どれだけ感じ、見ることができているのでしょうか？深川の個展は同ギャラリーでは初めてとなりますが、独自の世界観を楽しみ、恐らくこれからも前へ進み続ける彼女の現在地に注目してはいかがでしょうか。

個展のタイトルとなっている「みどりのトーダイ」は、立体作品としてギャラリーの中央に展示されていますが、深川未貴の制作を象徴しているようにも感じられます。詳細なストーリーは、この記事の最後にあるアーティストコメントで紹介されていますが、通勤途中でいつも遠目に見る灯台に生命感を感じたことがきっかけになっています。ある日、実際に近くに行ってみると単なる工業製品だったそうで、自分が抱いていたイメージとかなりギャップがあったそうです。

ここに展示されている《みどりのトーダイ》は、その実際にある灯台の大きさや形が原寸大で再現されていますが、そのありようは深川の心の中にあったイメージが表現されています。このように他の作品も、ふだん深川が目にしたり触れたりするものからインスピレーションを得たものと、彼女自身の内側から出てきたイメージの組み合わせだといいます。

深川未貴は、1996年に福井県生まれ、2019年嵯峨美術短期大学専攻科洋画コースを卒業後、2021年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程を修了しています。これまでに福井、大阪、京都などで個展やグループ展を重ね、2020年にはGALLERY MoMo Ryogokuにて小林みなみとの2人展「New-laid eggs vol.3」を開催し、高く評価されてきました。現在は、石川県に制作の拠点を置いています。

深川の制作にとって、初期より「大きい」という感覚が作品や自然物において重要な要素となっています。「大きい」とは、単に実寸からくる圧倒感だけではなく、その対象の名前や意味から離れ、自立した微妙な生命感を持つ状態を指しています。実際に存在する物の中から気になるモチーフに出会うと、自分の見えているようにこの世に存在させたいと思い、立体として実際に抱きつける大きさの作品も制作しています。
本展に出品された《ビーズのモケモケのゆびわ＋斑点の男の子＋カシワバアジサイ》はそうした大きさが充分にあり、実際のモチーフと彼女の心の中のイメージが組み合わさった、にぎやかで楽しい作品です。

この他にも、本展では小品も観ることができます。ラクガキの集積の中から気になるモチーフを取り出し、能動的にモチーフ作り出しながらコラージュのように作品を制作したものや、《ビーズのモケモケのゆびわ＋斑点の男の子＋カシワバアジサイ》の元になったものなどがあります。

深川は作品を通し、名前のないものや不確かな存在を表現し、鑑賞者と微妙な生命感を共有しようと試みてきました。彼女の作品は、「何か」を認識する際に、それが具体的な名前や意味を持たずに「何かっぽいもの」として認識されるというアイデアに基づいています。彼女が感じ、表現しようとしている生命感とはどんなものでしょうか？ぜひ、ギャラリーを訪れて、体験してみてはいかがでしょうか。
最後に、作者自身の記した「アーティストコメント」を引用します。

【アーティストコメント】

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　一昨年の冬、当時通勤ルートだった海沿いの道を運転していたら、小さな漁村の小さな灯台が緑に光っているのを見た。灯台が光るのは当たり前なのに、それまでは明るい時間に通っていたので気がつかなかった。私の知らない間にこっそり光っていたんだ！と分かってから、灯台に微妙な生命感を感じるようになった。

　それから毎日、灯台が見えてくると危ないくらいのよそ見運転をするようになり、ついに車を降りて近くまで見に行った。ドキドキしながら会いに行ったが、近くで見る灯台に生命感はなく、カタチも工業製品の灯台だった。

　ぽつんと海に立っていた私の灯台は、十字架みたいなカタチをしていたし、昼間は遮るものが何もない暑い海で揺らぎ、たまに鳥がとまりに来たりするくらいぼけっと突っ立っているけど、夜は頭のてっぺんを緑に光らす、特別な存在だった。

　見えていたものが本当は無かったのなら、私が私の灯台を再現しようと思って《みどりのトーダイ》を作ることになった。

今回はそのトーダイにまつわる作品と、今年の４月から移住してきた金沢で、これもまた通勤途中に見つけた「道端に落ちているクタクタのぬいぐるみのキーホルダー」の雰囲気を再現したいことをきっかけにできた《MAGネットシリーズ》が中心になる。

カタチが実際にはどういった名前や機能、意味を持っているのかというところから離れた、それ自体が自立した微妙な生命感を持つものが見たいと思っている。

2023年 深川未貴

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