東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密 in 東京国立近代美術館
東京国立近代美術館では「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」が2023年3月17日(金)から5月14日(日)まで開催されています。同館は1952年12月に開館し、2022年度は開館70周年にあたります。本展はこれを記念した、明治以降の絵画・彫刻・工芸のうち、重要文化財に指定された作品のみが展示される、なんとも豪華な展覧会です。しかも、作品が重要文化財に指定されるに至った経緯=“秘密”を通じて、日本の近代美術の変遷や魅力に迫ろうという企画も盛り込まれています。
重要文化財は作品保護の観点から貸出や公開が限られるため、本展はそれらをまとめて見ることのできる貴重な機会です。超一級品の作品はもとより、重要文化財指定に至るエピソードなども楽しみにご覧になってはいかがでしょうか。
史上初、展示作品すべてが重要文化財
重要文化財は、1950年に公布された文化財保護法に基づき、日本に所在する建造物、美術工芸品、考古資料などの有形文化財のうち、製作優秀でわが国の文化史上貴重なもの等について文部科学大臣が定めたものです。そのうち特に優れたものが「国宝」に指定されます。
明治以降の絵画・彫刻・工芸については、2022年11月現在で68件が重要文化財に指定されており、本展ではそのうち51点が展示されます。
加えて、本展は2012年以降に指定された作品や国立工芸館の鈴木長吉《十二の鷹》、2022年11月に新たに指定された鏑木清方《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》三部作も、初めてまとめて公開されます(会期中展示替えがあります。鏑木清方三部作の展示期間は3月17日~4月16日です)。
明治以降の絵画・彫刻・工芸で国宝に指定された作品はまだありませんが、歴史が進んで評価が高まれば、いずれはこの51点の中から国宝に指定される作品も出てくる知れません。そんな期待を持ちながら鑑賞するのも楽しいでしょう。
指定までの歩みから浮かび上がる近代日本美術史
明治以降の作品が最初に重要文化財に指定された1955年以降、いつ、何が指定されたかをたどっていくと、評価のポイントが少しずつ変わってきているようです。それが、本展のキャッチコピー「問題作が傑作になるまで」に込められた意味です。
ここでいう“問題作”とは物議をかもし出すような悪い意味ではなく、発想や表現、技法などが新し過ぎてどう受け止めて評価してよいか、人々が戸惑うようなインパクトがあった作品・・・というようなニュアンスかと想像します。つまり発表時の評価は定まっていなくても、時間の経過とともにその革新性や時代への批評性、あるいは創造性が高く評価され、重要文化財の指定につながっていきます。
本展ではそうした側面を、近代日本美術史の研究の深まりの反映としてとらえ、丁寧な解説が添えられているので、さらに深く、興味深く、重要文化財の“重み”を感じながら作品を楽しめるのではないでしょうか。
【主な展示作品】
※会期中展示替えがあります。展示期間にご留意ください。
竹内栖鳳《絵になる最初》
脱衣を躊躇したモデルからインスピレーション
まだモデルに慣れない女性が脱衣を躊躇した様子にインスピレーションを受けて生まれたのがこの作品。タイトルも含めて、絵画史にひそむ男性画家と女性モデルとの間の視線の力学に気づかされる「問題作」です。(展示期間:5月2日~5月14日)
上村松園《母子》
母をしのびつつ、女性目線で描かれた美人画
「美人画の名手」松園が、男性からの欲望のまじった視線ではなく、女性の目線で描いた幼児を抱く母親。ここには亡くなった松園の母・仲子への哀惜と感謝も込められているといわれます。(展示期間:4月18日~5月14日)
高橋由一《鮭》
油絵で最初に重要文化財指定を受けた作品
由一の興味は、とくに質感表現にあったようで、半身が切り取られているのも、ごわごわした川と脂ののった身との質感の対比を表されています。従来の日本の技法材料で困難だった本物そっくりの描写が、油彩で可能になったことへの素直な感動が表されています。(展示期間:通期)
黒田清輝《湖畔》
重要文化財の指定はごく最近、その理由は?
箱根の芦ノ湖畔に佇む浴衣姿の夫人を描いた涼やかなこの作品は、日本的な油絵表現のひとつの典型的な作例としても今日誰もが知る名作ですが、重要文化財に指定されたのは意外にもごく最近の1999年。その理由は・・・、本展の会場で詳しく紹介されています。(展示期間:4月11日~5月14日)
青木繁《わだつみのいろこの宮》
実際に海に潜って研究しました
「古事記」の海幸彦・山幸彦の挿話に基づく作品。青木は制作にあたり綿密な考証を行い、実際に潜水具で海に潜って海底のイメージを掴むなどしましたが、展覧会では賛否が分かれます。しかし明治浪漫主義の代表作のひとつとして、明治100年を過ぎた1969年に重要文化財となりました。(展示期間:通期)
岸田劉生 《麗子微笑》
その微笑はやわらかで、妖艶。
岸田は麗子を描くことで、「顔や眼にやどる心の美、一口に云えば深さ」を会得したといい、それをレオナルド・ダ・ヴィンチに教えられたともいいます。数えで8歳の娘・麗子を描いた本作には「一種妖艶のような味が加えられました」とのこと。麗子の微笑と、モナリザのそれとを比べてみたくなります。(展示期間:4月4日~5月14日)
高村光雲《老猿》
時代を映し出す鳥の羽と眼光
猿の左手には鳥の羽が握られています。鷲を捕えようとして取り逃がし、その飛び去る姿を睨み付ける様子を表したものといわれますが、鷲はロシアを暗示しているとか。欧米列強に肩を並べようとしていた明治の日本の姿を見ることができるでしょう。(展示期間:通期)
鈴木長吉《一二の鷹》
江戸の手わざか、明治の最先端技術か
1893年のシカゴ万国博覧会出品のために24人もの職人が動員された12の鷹の肖像。羽根の細部を精緻に表し、それぞれの年齢、体格の違いや気性まで正確に捉えています。江戸時代以来の金工技術が用いられている可能性もあるそうです。(展示期間:通期)
タイトル | 東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密 |
会期 | 2023年3月17日(金)~ 5月14日(日) |
会場 | 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー |
住所 | 〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1 |
Webサイト | https://jubun2023.jp/ |
開館時間 | 9:30~17:00(金曜・土曜は9:30~20:00) *入館は閉館30分前まで *本展会期中に限り9:30開館(ただし「MOMATコレクション」は10:00開場) *入館は閉館30分前まで |
休館日 | 月曜日(ただし3月27日、5月1日、8日は開館) |
チケット情報 | チケットの詳細・購入方法は展覧会公式サイトをご確認ください。 |
料金 | 一般 1,800円(1,600円) 大学生 1,200円(1,000円) 高校生 700円(500円) *( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。 *中学生以下、障害者手帳をお持ちの方とその付添者(1名)は無料。それぞれ入館の際、学生証等の年齢のわかるもの、障害者手帳等をご提示ください。 *キャンパスメンバーズ加入校の学生・教職員は、学生証・職員証の提示により団体料金でご鑑賞いただけます。 *本展の観覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4-2F)、コレクションによる小企画「修復の秘密」(2F ギャラリー4)もご覧いただけます。 |