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花月啓祐×谷口洸「ペインティング・シード 」at Gallery10[TOH]

Gallery10[TOH]では、花月啓祐 x 谷口洸 「ペインティング・シード」が2023年9月29日(金)から2023年10月15日(日)まで開催されています。このふたりの共通点は、一般的に作品が描かれるキャンバスや紙などに相当する支持体や木枠を自作していることです。作品が完成するまでの全体の行程(時間)の中で、実際に色を塗るパートは十分の一だとか。そのためか、ずっと眺めていたくなるような独特の発色と色彩感、考え抜かれたであろう表面の質感がとても魅力的な作品に仕上がっています。写真からはなかなか伝わりきらない魅力を体験しに、訪れてはいかがでしょうか。

タバコの自動販売機のようなギャラリーの扉を開けて、階段を上がると2つの独特の発色と色彩感に出会います。ひとつは抽象的なモチーフを描いた鮮やかな色彩の谷口の作品。もうひとつはガーゼのような半透明の布に色鉛筆で描かれた、一見織物のようにも見える花月の作品です。
谷口は柔らかなトーンと少しビビッドなトーンの2種類の色調が楽しめる作品は、どちらもよく観ると木目が美しく、人の手によって作り出されたもの独特の表情を見せています。一方で花月が作品に用いている膠で覆われた半透明の支持体は、光のあたり方や抜け方で作品の表情の変化が楽しめます。
どちらも作品の制作手順が紹介されたリーフレットや、制作中の支持体や木枠などの一部も展示されているので、こちらも参照すると作品への理解が深まるでしょう。

谷口は海のすぐ側にある全寮制の中高一貫校に在学している時は、様々な娯楽が禁止されて外出もできなかったため、外の景色を見ることが最大の暇つぶしだったといいます。海景という気の遠くなってしまう景色の中で、波風の影響で刻一刻と変化していく雲だけが彼の退屈を紛らわしました。その経験が、同じサイズや題材の絵画を色彩を変えながら制作するきっかけとなったといいます。


谷口の制作はDIY的な試行錯誤の中で絵を描いています。繰り返し行う木材の切り出しや、塗料の塗布は失敗しやすく、完璧を目指すのではなく自分が積み重ねた小さな歪みたちを捉えようとし、同じとも思える作業の中にふと訪れる自分の身体的ゆらぎを捉えようとしています。また色彩の奥行き感はなかなか写真では伝わり切れないと感じます。

花月が膠で覆われた半透明のキャンバスの支持体を使い始めたのは、コロナウイルスによる緊急自体宣言下で半年間鹿児島県の実家に留まっていたことに起因します。毎日の散策コースからは桜島が見えて、火山灰やPM2.5、外気の影響を受け、毎日見え方が違っていたそうです。この同じ景色の微細な変化に半年間向きあったことが、彼の周りの環境に左右されやすい絵画を制作するきっかけとなったといいます。


花月の制作は実験と観察の連続です。制作環境の気候条件によって失敗・成功が左右されされやすく、予測が立たないことも多いといいます。同じ部屋の中でも風の通り具合で出来上がりが変わってしまいます。彼の作品はどんなに写真撮影の技術力があっても、彼が表現しようとしている微妙な機微を完全にとらえることは難しいでしょう。俗に“インスタ映え”といわれ、アートの世界でも、もてはやされがちですが、微細な変化の機微を観察・鑑賞しようとする花月の態度はたいへん興味深いものがあります。

作家自身が表現したいものやことの根幹にたどり着こうとする時に、作家独自の思考や技法、手順を生み出してきた例を、私たちはたくさん観ることができます。前述の谷口と花月の制作手順を紹介したリーフレットを見ていくと、まさしく、そうした境地への旅の途中ではないかと感じます。

 

谷口自身は、「不器用な画家たちよ、回り道をして沢山つまずこうではないか。本展ではそんな彼らが回り道をして、つまずきながら進む、絵画の探求の旅路に注目したい。絵画が綺麗であることには技術的な理由もあるはずだ。そんな回りくどい種や仕掛けに焦点を当てた展覧会である。」と語っているが、まさしくそうした旅の途中であるふたりの姿が本展では目のあたりにできます。あなたもぜひ、彼らの現在地を目撃しに出かけてはいかがでしょうか。

タイトル 花月啓祐×谷口洸「ペインティング・シード 」
会期 2023年9月29日(金)〜10月15日(日)
会場 Gallery10[TOH]
住所 151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-20-11 第一シルバービル1B
※JR代々木駅東口を出た目の前の第一シルバービル1Fです。ギャラリーへの扉がタバコ自販機になっているのが目印です。
インスタグラム https://www.instagram.com/gallery10.toh
開廊時間 13:00〜20:00
休廊日 月曜、火曜
観覧料 無料