小出ナオキ 「イオニコニアン:生まれなかった王国の遺構」 in TOMIO KOYAMA GALLERY ROPPONGI
小山登美夫ギャラリーでは小出ナオキの個展「イオニコニアン:生まれなかった王国の遺構」が、2023年5月20日(土)から6月17日(土)まで開催されてます。これまでの作品が、小出自身の個人史ともいえる家族など周りの存在がテーマになっていました。本展では小出自身が「他者の存在や目を気にせず、自分の心の表れを正直に表現」したと語る作品の世界は、これまでのテーマと変わらず、むしろ表現したい本質が純化したように感じられます。それゆえ、私たち観る者のどこかしらの記憶とつながりやすく、不思議な愛おしさや幸福感に包まれる、そんな魅力的なアート体験が期待できる個展です。
何かプリミティブな第一印象を受ける立体作品が出迎えるエントランスを抜けて、ギャラリーの奥のスペースへ進むとタイトル通り、どこかの王国に来たような感覚にとらわれます。
展示空間は「聖遺物」と題された大きな塔のような立体作品を中心に、無邪気で愛らしい印象を与える立体作品や、呪術的にも見えるパターンが描かれた平面作品で構成されています。また、床に置かれた無邪気で愛らしい印象を与える立体の小品は、小さき者に向けられた目線や愛しみを感じます。
最初は、とても私的な設定の空間のように感じられますが、ひとつひとつの作品の表情が豊かで、いつの間にか感情移入してしまい、何かしら自分との共通項を感じ始めます。特に作品全体からかもし出されるユーモラスさから私たちそれぞれの幼き頃の記憶と結びつきやすいように感じます。
レセプションカウンター前にはドローィングとともに作家が自ら記したと思われるストーリーボードが紹介されています。これを読まなくても充分に楽しめますが、できればゆっくり読んでみることをおすすめします。作品世界に対する理解がより深まり、鑑賞して何となく感じたことの答えが見つかるかも知れません。
小出ナオキは1968年に愛知県で生まれ、1992年に東京造形大学造形学部美術学科を卒業。現在は千葉県を拠点に制作活動を行っています。今までの作品や展覧会は、母親の他界や、自身と恋人、結婚式、新居、子供の誕生など、小出の個人史ともいえる生活の転機がテーマとなっていました。
小出はこれまでとは異なり、本展の新作において「他者の存在や目を気にせず、自分の心の表れを正直に表現」しているといいます。そのきっかけとなったのは、ここ数年行っているこどもみらい園「アート室」での、発達に悩みをかかえる子どもたちとのセッションです。子どもたちが自分の欲する色や形や動きで作品を作り、他者の理解を介在させない姿勢がヒントになったようです。
それは、ドローイングの中にある「あなたが感じたものはあなたが決めてください」という、観る者を突き放したようにも受け取れる言葉にも表れているようです。
新作の大きな塔のような「聖遺物」は、はじめは「骨壺」のイメージから、手を動かし、自身の中の気持ちの対話をすることにより、だんだん大きく、塔や遺跡、チェスのキングやクィーンのようなものができたと言います。通底する「家族」という大きなテーマをあえて説明的、直接的でない、いつどこのものかわからないような「家族の魂の器」という抽象的な形に昇華しています。
大きな作品は分割して、真ん中のパーツは薪釜で焼き、他はガスで焼成し、それぞれのパーツで違う手法をとったそうです。また下絵具のほか釉薬も使い、ひとつのオブジェに違う色合いや印象をいれていくことで、作品に深みと説得力が備わり、表現が進化したようです。
本展のタイトル「イオニコニアン:生まれなかった王国の遺構」にある“イオニコニアン”は実際には存在しない時代の名称であり、小出の造語です。でも、本当に王国は“生まれなかった”のでしょうか?実はそうした時代や王国があったのかも知れないし、これから訪れるのかもしれない、そんな風に思えてしまう不思議で魅力的な世界観が広がっています。
タイトル | 小出ナオキ 「イオニコニアン:生まれなかった王国の遺構」 |
会期 | 2023年5月20日(土)~ 6月17日(土) |
会場 | 小山登美夫ギャラリー六本木 |
住所 | 106-0032 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F |
Webサイト | http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/koide2023/ |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日・月・祝日 |
料金 | 無料 |