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道川省三「たづたづしー伝統の先に見えるものー」 in SOKYO ATSUMI

SOKYO ATSUMI(東京)では道川省三の個展「たづたづしー伝統の先に見えるものー」が2023 年5 月13 日(⼟)から6月29日(木)まで開催されています。道川は轆轤(ろくろ)の遠心力を駆使して生み出される、独特の螺旋状の力強いフォルムで知られています。土と対話し、土に本来備わっている造形と真摯に向き合いながら、逆説的、実験的な方法で常に新しい制作に挑戦しています。
まさしく大地から、そして炎から生まれたという印象を受ける作品とともに、日本人が築いてきた特有の美意識と、その先を見つめようという作家のエネルギーに触れるアート体験となるでしょう。

遠い昔から日本人が築いてきた美意識を体現
TERRADA ART COMPLEX II の3 階へエレベータで昇ると、ギャラリーのファサード越しに、薄暗い空間に作品がぼんやりと浮かび上がっている光景が目に入ります。


こちらの展示空間づくりには、谷崎潤一郎の随筆「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」が引用されているといい、谷崎が同書で記している「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にあると考える。」の言葉とおりのイメージが体現されているようです。まさに、日本の美意識は陰翳との共存にあり、日本人が見出してきた奥ゆかしさや趣が闇に潜みます。遠い昔から日本人が築いてきた美意識を、道川は現代においてどのように継承し、本展で発展させたのか?
道川の独創的かつ特徴的なフォルムの作品のみならず、空間全体から放たれている美意識をどのように受け止めるかが本展の大きな見どころのひとつとなるでしょう。

独自の制作工程で生まれる力強いフォルム
1953年に北海道虻田郡洞爺湖町生まれた道川省三は、先史以来、何度も噴火を繰り返している有珠山の麓に生まれ育ち、幼少時代から触れ親しんできた雄大かつ驚異的な自然がそのまま作品に表れているようです。現在は愛知県瀬戸市を拠点にしながら、欧米やアジア圏など30か国以上で個展やワークショップを開催しています。


道川の作品は、轆轤の遠心力を駆使して生み出される螺旋状の力強いフォルムで知られており、その制作過程も作品同様エネルギッシュです。道川は選び抜いた、大きく練った土を満足する形になるまで机に叩きつけ、轆轤の上に立てます。そして外側を上から下まで削り、四面がほぼ等しい立方体に近い形に仕上げ、ワイヤーで水平に切り込みを入れます。その後、轆轤をゆっくりと回しはじめ、粘土のねじれや変形に常に反応しながら、立方体の中心部に木の棒を、腕の力と体全体で押し入れていきます。


この後、焼成された作品は彫刻のようにも見えますが、花をいけられるような機能性もあり、強く回転して崩れそうな様は躍動感にあふれ、まさに炎の中から生まれた創造物という印象を私たちに与えます。

新しい制作に挑戦した新作を展示
道川は土と対話し、土に本来備わっている造形と真摯に向き合いながら、逆説的、実験的な方法で常に新しい制作に挑戦しています。

《Volcano》は有珠山をイメージして制作された作品で、鉄分の強い赤土に部分的に鉄釉を施釉し、穴窯で3日間焼成されました。窯のなかで薪の自然灰と鉄釉が溶け合い、独特の火山の熔岩のようなテクスチャーがを表現しています。

《Kohiki Natural Ash Sculpture》は、マット釉を使うことで、光の僅かな違いを立体的に表現しています。暖かく落ち着きがある⾊が特徴的で、轆轤の強い力を利用し背の高い直方体の土の塊を分断するダイナミズムも本作の大きな魅力となっております。


その他、複数の色土を使用した彫刻や、伝統とは相対した焼成方法によって生み出された新作が展示されています。

新しいことに挑戦する想いを込めた本展タイトル
本展のタイトルにある「たづたづし」は、万葉集にある「夕闇は 道たづたづし 月待ちて 行ませ我が背子 その間にも見む」から取られています。「たづたづし」は“はっきりとせず、不安である”という意味で、道川は、「先行きが不透明な現代社会においても、常に前向きな姿勢で新しいことに挑戦する」という想いをこの言葉に込めています。

また、前出の谷崎潤一郎の考えのように、影や闇にこそ日本らしい美があると考えれば、暗いことは必ずしも悪いことではないでしょう。西洋はなんでも明るくしてしまうと谷崎は記しており、私たちもその明るさになんとなく安心感を抱いてしまっているかもしれません。


道川の作品の素晴らしさはもちろん、そのことについて改めて考えてみることができるのも、本展を訪れる大きな価値ではないでしょうか。

タイトル 道川省三「たづたづしー伝統の先に見えるものー」
会期 2023年5月13日(土) ~ 6月29日(木)
会場 SOKYO ATSUMI
住所 〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX II3階 #304
Webサイト http://gallery-sokyo.jp/
開廊時間 11:00 ~ 18:00(火 ~ 木)、11:00 ~ 19:00(金・土)
休廊日 日曜日・月曜日 (盆 ・正月)
入場料 無料