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朴 愛里(パク・エリ)|Self-Portrait in GALLERY MoMo Projects

GALLERY MoMo Projects(六本木)では、朴愛里による個展『Self-Portrait』が10月21日(土)から11月25日(土)まで開催されています。朴にとって同ギャラリーでは初となる本展では、写真を用いながら銅版画に起こされた幼少期からの家族や友人とのシーンが展開されています。子に愛情を注ぐ親の姿など、心が温かくなるシーンの中に、戸惑いやためらいといった感情も感じられる作品からは、観る私たちにとってさまざまな気づきがあり、彼女の現在地を示唆しているようにも感じられます。丁寧に綴られた私小説を読むような世界観を体験してみてはいかがでしょうか。


銅版画で緻密に構成された“私小説”

ギャラリーに入ると個展のタイトル通り、銅版画により緻密に構成されたように見える『Self-Portrait』が展開されています。作家本人が『私はずっと銅版画で私小説を描いているのかもしれない』と述べているように、朴は一貫して、日本で生まれ、韓国で育った在日韓国人3世である自分自身のルーツを、作品を通して辿ってきたといいます。
朴もしくは彼女の家族のアルバムを見ているかのように、世界のどこにでもあるような、子どもが親の愛を受けて育ち、遊び、学んでいくシーンが映し出されています。特に満1才の誕生日に親戚や友人を招いてお祝いをする日のことが描かれた作品《1993年、トルチャンチ》からは、彼女の誕生が祝福され、育ったことが分かり、心が温かくなります。


多くの作品からは両親や家族に対する朴の感謝の念が伝わってきますが、同時に、顔が描かれてなかったり、顔が意図的にフレームアウトしている作品もあり、戸惑いやためらいといった気持ちも感じられます。また朴自身も、『Self-Portrait』というタイトルではあるものの、『作品と実際の自分の人生の間には常にズレがあるように感じる』と語っています。

自分のルーツを辿りながら作品に昇華させる朴

朴は1992年に東京で生まれ、韓国京畿道で育ち、2021年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻を卒業。現在は、同大学院造形研究科修士課程美術専攻版画コースに在籍しています。
韓国で絵本の専門学校で版画プレス機と出会い、イラストレーションや絵本の原画を制作するために版画を始めたという朴は、イメージだけで日本と韓国で暮らす自身の両親をモデルにフィクションを交えた作品を制作しました。


卒業制作では、自分のルーツを辿るため、在日朝鮮人1世である祖母が戦時中に働いていたと思われる大阪の莫大小工場の写真を用いながら銅版画に起こすことで、個人の写真を歴史的な問題を内包させる作品へと昇華させることに成功しました。

狭間で生きる一本の木と草花

本展の家族の肖像や友人とのシーンなどが描かれた作品の中で、青い屋根が印象的な建物の風景画《狭間の木》と、道ばたのどこにでも見かけそうな草花がモチーフの静物画《生》が目につきます。


この《狭間の木》は、小平市にある武蔵野美術大学鷹の台キャンパスと、これに隣接する朝鮮大学校との間にある木が描かれており、《生》はそこの建物のそばに咲いていた植物をそのまま見ながら銅版画に起こしたといいます。

銅版画というジャンルでは、抽象的なイメージが踊ったり、ほとばしるような勢いのあるモチーフが表現されている作品も多く見かけますが、朴の作品はそれとは対照的に具象的で、ひとつひとつの作品や個展全体の構成もかなり時間をかけて考えられ、論理的で緻密な印象を受けます。
3連作となっている《生》はそれぞれ、どんな意味を持っているのか。彼女の今後の活躍への期待とともに、強く興味を惹かれるところです。

気づきと温かさを感じるアート体験と楽しさ

本展を楽しむ上で、例えば親からの愛情や、子に愛情を注ぐという普遍的な部分で共感できるところはたくさんあります。また、あなたが日本人なら、在日韓国人もしくは朝鮮人と、どのような接点や交流体験があったかによって、あなたのアート体験も変わってくるでしょう。


朴の従来の祖母と父を描いた在日シリーズから、本展の朴自身の人生を辿る作品を通して、大きな枠で括られる人たちの中にも多様な在り方が存在していることに気づき、また多くの人が持つ当たり前の温かな思い出や生活があることを感じられる点が本展を訪れる大きな価値や意味ではないでしょうか。

最後に、ギャラリーの公式サイトで紹介されている朴の「アーティストコメント」を引用します。

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アーティストコメント

手元に残された写真は、いつかどこかで確かに存在していた世界を私に見せてくれる。だが、それは撮り手の視線により四角い枠にフレーミングされた断片的な世界であり、カメラによる歪みや現像・印刷時の微調整など必然的に加工が介在される虚像の世界でもある。

私はそのような特性を持つ写真というメディアに残された過去の世界を見返しながら、撮り手の視線の上に自分の視線を重ねイメージをトリミングし、銅版の中に配置したフレーム内に織りなしていくことで、忘却の彼方へ消え去っていた自分自身の子供時代の記憶や感情、また家族や身の周りの人々の人生のある瞬間、もしくはその存在そのものと向き合っている。

今回の展示は、自分探しの途上で生まれた、主に自分自身や身近な対象を描いた作品が中心となるが、展示の外側にはまだ描き切れていない対象や瞬間が存在している。私の世界は、今回展示する作品に描かれた存在はもちろん、今のところ省かれたり画面の中で比重が重くなかったりする存在によっても形成されていて、作品と実際の自分の人生の間には常にズレがあるように感じる。

多分このズレを埋めることはできないだろう。だとしたら、わざともっとかけ離れたものにしていってもいいかもしれない。

2023年 朴 愛里

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タイトル 朴 愛里(パク・エリ)|Self-Portrait
会期 2023年10月21日(土)~ 11月25日(土)
会場 GALLERY MoMo Projects
住所 106-0032 東京都港区六本木6-2-6 サンビル第3 2F
Webサイト https://www.gallery-momo.com/current-roppongi
開廊時間 12:00 ~ 19:00
休廊日 日曜・月曜・祝日
観覧料 無料