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ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか? ――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ at 国立西洋美術館

国立西洋美術館では、企画展「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?──国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」が2024年3月12日(火)から5月12日(日)まで開催されています。
本展は開館以来65年の歴史のある同館では初の試みとなる、現代アーティストとのコラボレーションが展開されています。タイトルからは同館の存在意義を自問するような印象を受けますが、それだけでない、様々な見どころが用意されている意欲的かつ挑戦的な企画になっています。現代の、そして未来のアートの様相を知るうえでも必見の内容ですので、ぜひ、お見逃しなく。

自問であり、参加アーティストや私たちへの問いかけ

国立西洋美術館の母体となった松方コレクションを築いた松方幸次郎は、日本の若い画家たちに本物の西洋美術を見せるため、膨大な数の美術品を収集しました。開館65年を迎え、同館設立の原点を見つめ直し、館の未来を思い描くなかで生まれた問いかけは、「国立西洋美術館の展示室は、未来のアーティストたちが生まれ育つ空間となりえてきたか?」であったと言います。
それは、国立西洋美術館の自問であると同時に、参加アーティストたちへの問いかけでもありました。そして、本展を訪れる私たちも、そのことについて考えてみてもよいかも知れません。

今だからこそ、美術館という場の力を問い直す

また2019年に国際博物館会議で「『文化をつなぐミュージアム』理念の徹底」が採択され、2022年には日本の博物館法が約70年ぶりに改正されるなど、美術館の役割は大きく見直されています。この期間には2020年からコロナ禍が約3年も続き、2022年2月にはロシアのウクライナ侵攻が始まるなど、私たちの身の回りを含め、様々な問題に直面しました。そうした時代背景も、今、美術館が自身とそのコレクションを見つめ直し、新しい可能性を見出すとともに、本展は美術館だからこそできる方法で、アートの力、美術館の力を問い直そうという試みでもあるでしょう。

現代日本のアートシーンを代表するアーティスト21組が参画

本展では、国内外で活躍する現代アーティストたちが国立西洋美術館所蔵作品からインスピレーションを得て制作した新作や、美術館という場所の意義を問い直す作品などが出品されています。これらを通して、アーティストたちが国立西洋美術館やそのコレクションにどう眼差しを向け、どのような問題を提起しているか?を私たちは観て、考えることができます。また、モネ、セザンヌ、ポロックら、西洋美術史に名を刻むアーティストたちの作品約70点も展示され、過去に生みだされた作品と現代に制作された作品の対話を通じて、国立西洋美術館の新たな可能性を探ります。

【参加アーティスト(五十音順)】

飯山由貴、梅津庸一、遠藤麻衣、小沢剛、小田原のどか、坂本夏子、杉戸洋、鷹野隆大、竹村京、田中功起、辰野登恵子、エレナ・トゥタッチコワ、内藤礼、中林忠良、⾧島有里枝、パープルーム(梅津庸一+安藤裕美+續橋仁子+星川あさこ+わきもとさき)、布施琳太郎、松浦寿夫、ミヤギフトシ、ユアサエボシ、弓指寛治

【本展の構成】

※本展は0章から7章に「反-幕間劇―」を加えた9つのセクションで構成されています。

0.アーティストのために建った美術館?

本展冒頭では、国立西洋美術館は「未来のアーティストたち」の制作活動に資するべく建ったのではなかったかということを、松方幸次郎や安井曾太郎の言葉を想起しつつ問いかけられています。
また、ル・コルビュジエによって基本設計された国立西洋美術館本館の「モデュロール」に強い関心を抱き、その寸法体系にあわせて構成した杉戸洋のタイル作品《easel》が展示されています。

1.ここはいかなる記憶の磁場となってきたか?

本章では国立西洋美術館のコレクションは、いかなる磁場を形成しているか?という問いを、所蔵作品ポール・セザンヌの《葉を落としたジャ・ド・ブッファンの木々》と内藤礼の絵画作品《color beginning》とを並置した展示、同館で過去に開催された「セザンヌ展」(1974年)や「モーリス・ドニ」展(1981年)から大きな刺戟を得たという松浦寿夫の作品群をつうじて検証されます。

2. 日本に「西洋美術館」があることをどう考えるか?

本章では、世界各地の美術館や美術史において脱-西洋中心主義化が進められているにも関わらず、「西洋美術」のみを蒐集/保存/展示せざるをえないことへの自問がなされています。同館所蔵品である藤田の作品と小沢剛が2015年に制作した《帰ってきたペインターF》(森美術館所蔵)が併置され、小田原のどかの新作インスタレーションでは、地震が絶えない日本に建つ美術館に固有の課題がロダンの彫刻を横倒しにして展示することなどによって示され、さらにその「転倒」の様態に西光万吉の「転向」が重ねられることで複雑な問題提起がされています。

3. この美術館の可視/不可視のフレームはなにか?

本章で布施琳太郎はいまだ存在しない美術館建築のありかたを呈示しようとしています。他方、田中功起は、国立西洋美術館の「不可視のフレーム」といえるものを問題化します。田中は、この美術館にたいする複数の「提案」——実現されないものを含めて——を作品とするのです。具体的には、常設展の絵画を車椅子や子どもの目線に下げて展示すること、乳幼児向けの託児室を臨時で設けること、くわえて展示室内の翻訳言語の選択を拡張することなどです。こうした「提案」によって田中は、美術館が暗黙のうちに前提としている「鑑賞者」の取捨選択を批判的に浮き彫りにします。

4. ここは多種の生/性の場となりうるか?

本章では、国立西洋美術館の既存のコレクションが、いまだ白人男性アーティストによる作品がほとんどを占めていることへの多面的な問いかけがされています。
ミヤギフトシはアクタイオンの神話に示唆を得た映像作品を制作し、鷹野隆大はIKEAの家具が並べられた現代の平均的な居室に、国立西洋美術館の所蔵作品と自身の写真作品とを併置します。⾧島有里枝は「見ること」の制度である美術館のなかで「看ること」の可能性を拓き、飯山由貴は松方幸次郎が想定した「アーティスト」とはどういうものかを批判的に問おうとしています。

反-幕間劇――上野公園、この矛盾に充ちた場所:上野から山谷へ/山谷から上野へ

本展の「反・幕間劇」では、上野と同じように路上生活者の多い山谷地区におよそ一年通い、そこで暮らすひとびと、あるいは彼ら−彼女らを支えている方々と丹念にコミュニケーションをとってきた弓指寛治が描いた膨大な絵画たちが並びます。それらは、国立西洋美術美術館がこれまで見つめてこなかった、上野公園がはらむ問題を多角的に照らしだしているようです。

5. ここは作品たちが生きる場か?

美術館は(半)永続的に作品を未来へと残してゆくことを望む機関ですが、時に「墓地」に喩えられてきたことと表裏の関係をなすようにも思えます。
竹村京は、2016年にルーヴル美術館で大きく破損した状態で発見された、旧松方コレションのクロード・モネ《睡蓮、柳の反映》の欠損部分を絹糸で想像的に補完する作品を発表しています。またエレナ・トゥタッチコワの映像作品は、国立西洋美術館の展示室を迷い歩いた経験と、そこに掛かっている絵画のなかを視線で旅する行為とを重ねあわせたものになっています。

6. あなたたちはなぜ、過去の記憶を生き直そうとするのか?

芸術作品の記憶はくりかえし読み換えられ、時空を超えて変容していきますが、中には過去を別様に「生き直す」ことを試みるアーティストたちもいます。
梅津庸一は制度批判の意識を抱えながらに、過去の絵画に別なる事後の生をもたらすような試みとして、自身の身体像をラファエル・コランの《フロレアル(花月)》のなかに投入した一連の自画像を描きました。そんな梅津が主宰するアーティスト・コレクティヴであるパープルームは、そうした彼の態度を集団化したものとみなすことができます。

この他、メンバーの一員、安藤裕美は、ピエール・ボナールらの造形言語を身体化・異化した絵画を制作しています。また、エドヴァルド・ムンクのリトグラフ連作『アルファとオメガ』の世界観にインスピレーションを得てパフォーマンス映像を発表している遠藤麻衣、サム・フランシスの活動を1950/60年代に知っていたというあらたな「設定」のもと、彼の《ホワイト・ペインティング》と自身の抽象画とを併置するユアサエボシの作品が紹介されています。

7. 未知なる布置をもとめて

最後の章では、国立西洋美術館のコレクションがいまを生きるアーティストをどのように触発してきたか/しうるかと問うのはやめ、むしろ彼ら−彼女らの描きだしてきた絵画が、いかに同館の所蔵作品と拮抗するのかを見ることができます。杉戸洋、梅津庸一、坂本夏子という3人のペインターに、2014年に亡くなった辰野登恵子を加え、日本の「現代絵画」と呼ばれるものの実験性の程度をはかりつつ、彼ら/彼女らの作品が同館のコレクションであるクロード・モネ、ポール・シニャック、ジャクソン・ポロックらの絵画と同じ空間に並べられています。

本展には一部、芸術上の目的のため性的な表現を含む作品が展示されています。このような作品を不快に感じる方やお子様をお連れの方は、入場に際して事前にご了承頂きますようお願い致します。

 

タイトル ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?
――国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ
会期 2024年3月12日(火)~ 5月12日(日)
会場 国立西洋美術館 企画展示室
住所 〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
Webサイト https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023revisiting.html
開館時間 9:30~17:30
※金・土曜日、4月28日(日)、4月29日(月・祝)、5月5日(日・祝)、5月6日(月・休)は9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
休館日 月曜日、5月7日(火)
※ただし、3月25日(月)、4月29日(月・祝) 、4月30日(火)、5月6日(月・休)は開館
チケット情報 詳しくは、公式サイトのチケット情報ページをご覧ください
料金(税込) 【一般】2,000円
【大学生】1,300円
【高校生】1,000円
※中学生以下は無料。
備考 ※心身に障害のある方及び付添者1名は無料。
※大学生、高校生及び無料観覧対象の方は、入館の際に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください。
※国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は、本展を学生1,100円、教職員1,800円でご覧いただけます。(学生証または教職員証をご提示のうえ会期中、ご来場当日に国立西洋美術館の券売窓口にてお求めください)
※観覧当日に限り本展観覧券で常設展もご覧いただけます。