佐伯祐三 自画像としての風景 in 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリーでは「佐伯祐三 自画像としての風景」が2023年1月21日（土）から4月2日（日）まで開催されています。佐伯祐三氏（1898年～1928年）はわずか4年あまりの本格的な画業の中で、独自の様式で街の風景を描いた作家です。本展は描かれた街並みを自画像として捉え、佐伯氏の内面や深い精神性を感じ取りながら、独自の様式を獲得するまでをたどる、佐伯氏の魅力を再発見・再認識する体験になるでしょう。また、佐伯氏の回顧展は東京では18年ぶりの開催となり、代表作約100点が展示されるということもあり、貴重な機会となっています。

佐伯氏の作品は、風景に向き合う目や姿、素早く動いていく筆の動きなどを強く想起させられます。特に独自の作風に達した、2回目以降のフランスにおける作品は強烈な個性を放ち、観る人の心をゆさぶり、離しません。描かれた街並みには佐伯氏の内面や深い精神性が映し出されているようで、それが“自画像としての風景”とタイトルされる所以です。

佐伯祐三氏はおよそ100年前、大阪、東京、パリの3つの街に生き、街の風景を題材とする独自のスタイルに達した作家です。現在の大阪市北区中津の光徳寺に生まれ、東京美術学校（現・東京藝術大学）西洋画科卒業後の1923年、パリへと渡ります。

1924年のヴラマンクとの衝撃の出会い以降、自らの作風の模索を続けた佐伯は、壁の物質感を厚塗りの絵具で表現したパリの下町風景の連作を展開し、1925年のサロン・ドートンヌで入選を果たして画業が本格化。1926年に一時帰国して、東京・下落合の風景や大阪での滞船の連作を制作しますが、日本の風景では創作欲を満足できず、1927年に再びパリ渡り、翌年に病死します。

従来の回顧展は上記のような悲劇性をおびたライフストーリーに沿って作品が展示されましたが、本展の展示構成では、2Fに独自の作風に達した後にパリなどで描かれた作品が集約されています。その前のセクションである3Fでは、一時帰国した時期の作品を含め、独自の作風に達するまでの時期がまとめて展示され、3F、2Fそれぞれに魅力ある作品と展示が楽しめます。

鑑賞のスタートは3Fからになります。学生時代の自画像から始まり、一時帰国時期を含めた日本での作品、静物画や人物画、そしてパリで自分の作風を模索していた時期の作品が中心となっています。

特に日本で描かれた東京・下落合、大阪滞船の作品展示が充実しており、パリで街景に向き合った視点の応用が見られるとして、今世紀に入ってから再検証と再評価がおこなわれており、そうした知見が展示キャプションで丁寧に述べられています。

そして2Fには独自の作風に達した後の、パリやフランス滞在時の作品が展示されています。
この展示構成による大きなの魅力は、佐伯氏が真に描きたかったものはやはりフランスにあったようで、その描きたいものを極めるために、技法が細かく、どんどん進化していく過程を一気に観ることができる点にあります。

2-2壁のパリ、2-3線のパリ、パリを離れた後の3ヴィリエ＝シュル＝モランから、最後のエピローグへと続くので、自分の作風に確信をつかんだ後の変遷はやはり迫力があると感じられます。

加えて、会場の東京ステーションギャラリーは佐伯氏と同時代の1914年に創建された東京駅丸の内駅舎内にあります。当時のレンガ壁がそのまま生かされている2Fの展示室の空間には、パリの石造りの建物と重厚な壁に魅了された佐伯氏の作品が自然にマッチしています。

エピローグでは、佐伯氏の絶筆といわれる２つの扉の絵を見られます。どちらも、その奥にある深い闇をのぞかせる、開かれることのない扉に正面から挑んだこれらの作品は、志半ばで筆を置かざるを得なかった画家の最期の自画像といえるような気がします。