坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア at NTT インターコミュニケーション・センター [ICC]
NTT インターコミュニケーション・センター [ICC] では、「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」が2023年12月16日(土)から2024年3月10日(日)まで開催されています。本展は、2023年3月に逝去した坂本龍一を追悼するとともに、音楽だけでなく、メディア・アート分野に残したはかりしれない影響について考える企画展となっています。音楽だけでなく、アートやメディアという活動を通じて、未来に向けた坂本龍一像に触れてみてはいかがでしょうか。
音楽家、だけではない坂本龍一の姿がここに
私たちは音楽家としての坂本龍一をよく知っていますが、アートやメディアでも大きな功績を残していることを知らない方もいるかもしれません。そして坂本はYMOに代表されるように音楽における革新性と、常に深い思索のもと新しいことに挑戦する姿を私たちに見せてきましたが、ICCもまた情報通信における先端的な技術と思想のもとに歩んできた組織であり、施設です。そうした互いの姿勢に共鳴するかのように、ICCは坂本が協働を繰り返した場であり、坂本龍一をトリビュートする会場として、もっともふさわしい場所のひとつではないかと感じられます。
ICT黎明期に知の最先端を拓いたICC
ICCはヴァーチャル・リアリティやインタラクティヴ技術などの最先端テクノロジーなどに関わる展覧会やワークショップ、シンポジウム、出版などを通じ、従来の枠組みにとらわれない実験的な試みや新しい表現、コミュニケーションの可能性を提示してきました。
施設の基本構想の検討は1990年から始まり、8年近い構想・建設・準備期間を経て、1997年に開館しています。そのプレ活動期間中の1992年春に創刊された『季刊InterCommunication』は、ポケベルから携帯電話、インターネット、スマートフォンへと情報通信技術が進化する時代の流れの中で、私たちの知的好奇心を大いに刺激し、インターコミュニケーション(相互通信、交信)への視野を広げてくれました。開館後も展覧会などを通じて、その思索と研究がより進化・具現化されているように見受けられます。
開館以前のプレ活動期間から協働していた坂本龍一
坂本龍一とICCとの関わりは、その開館以前のプレ活動期間(1991年〜)にまで遡ります。坂本自身は90 年代初頭の黎明期よりインターネットに関心を持ち、インターネット・ライブを実施するなど、作品へのメディア・テクノロジーの導入を積極的に行ってきました。
ICCにおいては、展覧会の企画に連動したコンサートの開催(ローリー・アンダーソン展 2005年)や、ICC開館10周年および20周年記念企画展も坂本(と高谷史郎)によるものであったように、ICCと深い関わりを持ってきました。ICCは、常に批評的で建設的な深い思考を重ねて時代の先端を歩んでいた坂本の姿と、創造の新たな可能性を求め、拓いていくという意味でその姿が重なります。
坂本龍一の芸術的志向を未来へと受け継ぐ構成内容
本展はICC主任学芸員である畠中実に加え、ライゾマティクスの真鍋大度を共同キュレーターとして迎え、坂本の残した演奏データをもとにした作品や、国内外のアーティストによる坂本とのかかわりのある作品、これまでのICCでの展示などの記録によって構成されています。そこでは坂本の活動を継承し、展開する、未来に向けた坂本龍一像を提示することが試みられており、私たちは音楽家としての坂本龍一だけでなく、美術家や思索家としての美意識やその考えや想いに触れることができるでしょう。
【展示構成】
《Piano 20110311》 [2018/23] “Piano 20110311”
高谷史郎
《Piano 20110311》 はフライヤーなどのメインビジュアルにも用いられていますが、東日本大震災の津波で被災した宮城県名取市の高校のピアノを、高谷史郎がスキャンするように対象物を写し取る方法で撮影した作品です。展示には坂本龍一のコメントも添えられており、モノの「転生」や自然の摂理を考えさせられます。
《Playback 2022》 [2022/23] “Playback 2022”
Dumb Type + Ryuichi Sakamoto
展示されている16枚のレコードは、本展のために特別にAUTORA FACTORY PLATEが制作したもので、内容は坂本龍一ディレクションによる世界各地のフィールド・レコーディング音源が収められています。このレコーディング音源は,ヴェネチア・ビエンナーレのために制作されたダムタイプの新作《2022》にも組み入れられました。
《insen live (short)》 [2009] “insen live (short)” TOTAL TIME: 27:13
alva noto + ryuichi sakamoto
坂本龍一のピアノとカールステン・ニコライの電子音を基調に、エレクトロニック・ミュージックとアコースティックな楽器の共演の可能性を提示した作品を映像とともに聞くことができます。映像収録されているのは、シンプルなステージセットと抽象的な映像によって音楽がヴィジュアライズされた、コラボレーションの2作目となる『insen』(2005年)の公演です。
《try-out: behind the scene of utp_》 [2008] “tryout: behind the scene of utp_”
TOTAL TIME: 41:19
alva noto + ryuichi sakamoto
タイトル中にある“utp”はユートピアに由来する言葉で、ドイツのフランクフルトを拠点とする現代音楽室内合奏団、アンサンブル・モデルンが共演し、映像、音響、エレクトロニクス、即興といった要素が組み合わされ、電子音とピアノを基調としたサウンドに室内楽アンサンブルによる緊張感のある透徹した美しさを持った音の世界が展開されています。
《そよぎ またはエコー》(部分を「坂本龍一トリビュート展」のために再構成) [2017/23] “Breath or Echo” (reconstructed for the exhibition “Tribute to RYUICHI SAKAMOTO”)
毛利悠子
展示スペースの中央に配された本作品は、毛利悠子が「札幌国際芸術祭 2017」で制作・発表されたものを本展のために再構成しました。坂本龍一は本作のために楽曲を提供しており、本展ではその曲が自動演奏ピアノによって演奏されていた部分を中心に、《I/O》(2011–13),《Brush》(2017)といった毛利の作品とともに再構成したヴァージョンが展示されています。
また同芸術祭で坂本龍一とカミーユ・ノーメントによるパフォーマンスが収められた映像作品《After The Echo》は、シアターで観ることができます。
《遥かなるサウンド》 [2022] “Sound far beyond”
《祈り》 [2022] “Prayer”
李禹煥
李禹煥が坂本龍一の生前最後のオリジナル・アルバムとなった『12』のジャケットのために描き下ろしたドローイング《遥かなるサウンド》と、李が坂本の病気平癒を祈って描いた《祈り》が展示されています。ドローイングとともに、2022年に国立新美術館で行われた李の回顧展を、李自身が坂本を案内する様子を収めた写真が紹介され、ふたりの関係に想いをはせることができます。
《センシング・ストリームズ 2023-不可視,不可聴》(ICC ヴァージョン) [2023] “Sensing Streams 2023 – invisible, inaudible” (ICC Version)
坂本龍一+真鍋大度
本作品は、2014年に「札幌国際芸術祭 2014」で制作・発表された、坂本龍一と真鍋大度によるコラボレーション作品です。人間には通常知覚不可能な電磁波をセンサーを用いて感知し、可視化、可聴化し、現代社会において欠かせないインフラでありながら普段は気づかれない電磁波の流れが多様な形で顕在化されています。私たちもダイアルを操作し、参加することができます。
《レゾナント・エコーズ》 [2023] “Resonant Echoes”
ストレンジループ・スタジオ(デイヴィッド・ウェクスラー,イアン・サイモン)
《レゾナント・エコーズ》は、坂本龍一の音楽を通じて、いかにリスナーが時間を横断することを可能にするかを探求した作品です。「レゾナンス(共鳴)」を調和的なコンセプトと認知的なコンセプトの両面から探求することによって、この接続を理解し、ヴィジュアライズすることを試みています。
《Generative MV》 [2023] “Generative MV”
真鍋大度+ライゾマティクス+カイル・マクドナルド
本作品はAI技術を活用して、観客の入力したテキストに応じてリアルタイムに背景が変化するミュージック・ヴィデオです。当初は背景画像にエフェクトを加えるのに数十秒を要していましたが、技術的な工夫により1年足らずでリアルタイムで活用出来るようになりました。坂本は,常にその時代のテクノロジーと自身の表現の関わりを深め、問題を提起することに熱心だったと言い、そのことへのオマージュのようにも受け取れます。
《The Sheltering Sky – remodel》 [2023] “The Sheltering Sky – remodel”
フォーオーフォー・ドットゼロ(クリスティーナ・カールプリシェヴァ,アレクサンドル・レツィウス)
本作品におけるオーディオ・ヴィジュアル・コンポジションでは、音楽と視覚的なイメージを通じて、坂本の話す「言葉」が探求されています。入力データには坂本の作品「The Sheltering Sky」の音符が使用され、このデータをアナログ・モジュラー・シンセサイザーの制御信号や、音を視覚化するアルゴリズムの入力パラメータに変換する一連のアルゴリズムを開発し、私たちに提示されています。
タイトル | 坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア |
会期 | 2023年12月16日(土)~ 2024年3月10日(日) |
会場 | NTT インターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA |
住所 | 〒163-1404 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 |
Webサイト | https://www.ntticc.or.jp |
開館時間 | 11:00 〜 18:00(入館は閉館の 30 分前まで) |
休館日 | 毎週月曜日、ビル保守点検日(2/11) ※ 月曜日が祝日もしくは振替休日の場合、翌日を休館日とします。 ※ 休館日以外においても、開館時間の変更および臨時休館の可能性がございます。 ※ 最新情報は ICC ウェブサイト(https://www.ntticc.or.jp)などでお知らせします。 |
チケット情報 | 来場予約ページへ ※ 事前予約受付は、ご来場希望日の7日前午前11時より、各入場時間の終了までです。 ※ ICC受付では当日券を販売します。 ※ ご入場は事前予約をされた方を優先させていただきます。 |
観覧料 | 【一般】 800円(700円) 【大学生】 600円(500円) *ICC年間パスポート:1,000円 ※( )内は15名様以上の団体料金 ※障害者手帳をお持ちの方および付添1名、65歳以上の方と高校生以下、ICC年間パスポートをお持ちの方は無料。 |