佐藤 栄輔|Flow at GALLERY MoMo Projects
GALLERY MoMo Projects(六本木)では、佐藤栄輔の個展「Flow」が12月2日(土)から2024年1月20日(土)まで開催されています。本展では、佐藤が天領水と日田杉で知られる大分県日田市で、家業の林業を営みながら続けてきた創作活動の成果が10年ぶりに発表されます。伐採した樹木の年輪に重ね合わせ、自分自身と向き合ってきた時間の重さや葛藤が映し出されたような自画像を中心とした作品は、まるで観る私たち自身を映し出す鏡のようにも感じられます。おそらく、観る人の性別や年齢、心境などによって感じ方も違ってくる、佐藤の作品に向き合いに、同ギャラリーを訪れてみてはいかがでしょうか。
独特の画風で表現された作家の生き様
ギャラリーの扉を開けて中に進むと、目に飛び込んでくるのは自画像の数々です。あるのは男性と思われる人物が日々の中で感じた内面が描かれているように見えます。
美しいにじみや歪みや、西洋的な遠近法を排除した独特の画風よる表現からは、過去ではない、作家の現時点での葛藤や孤独感、強さ・弱さなど、等身大の飾らない生き様が伝わってきます。そのためか、ひとつひとつの作品が自分を映し出す“鏡”のように感じられ、観る人の性別や年齢、心境などによっては息苦しくなったり、逆に親近感を持つのではないかと思われます。
佐藤栄輔は1973年に大分県で生まれ、2001年にAmerican University大学院修士課程を終了後、2002年「GEISAI4」にて村上隆に見出されてリキテックス賞を受賞。その翌年には六本木ヒルズ森アーツセンター内ギャラリーに於ける「ARTIST BY ARTIST」にて紹介されました。
GALLERY MoMoではその特異な表現に着目して佐藤の作品数点をコレクションし、2004年以降継続して取り上げて発表を続け、高橋龍太郎コレクションなどにも代表作が収蔵されています。
普遍性を生み出している作家の生活・創作環境
佐藤が活動の拠点としている日田市は、行政域としては阿蘇山の北側にあり、九州北部のほぼ中央に位置します。江戸時代初期より幕府直轄領である支配所(天領)が置かれ、天領水として販売されているように、水質が良いことでも知られています。15世紀より林業が始まり、現在でも日本の三大林業地として名を馳せ、最高品質の日田杉やヒノキを産出しています。また最近は同市大山町が漫画「進撃の巨人」の原作者である諫山創の出身地であることが注目され、山と森林に囲まれた壮大な風土・景観が、人が壁の中の世界で生きるという世界観に影響を与えたといわれています。
こうした環境の中で、水と樹木と自分自身の存在の在りようは分かちがたく、佐藤の表現の根幹をなしているようです。彼が物心ついた日々から50年を生きた今に至る年月を、伐採した樹木の年輪に重ね合わせ、自身の存在理由を問いかけ、“身体”という自分の乗り物に衰えを感じ始め、生(死)への制限された日々の時間を削りながらその状態を受け入れる。そして、それを糧とした生と死をテーマにした表現は、普遍性を持って観る私たちに迫って来るでしょう。
一方で、佐藤のような山間部や瀬戸内海の小島など、地方の都市部でないところを拠点に活動する作家から、地域コミュニティからは変わり者扱いされるという話をよく聞きます。それは自分を表現する術があることに対する周囲のやっかみとも感じられますし、ムラ社会独特の同調圧力とも受け取れます。しかし、実は大都市である東京でもいろんな場面で同じ種類の圧力は大いに感じられます。そうした圧力からくる疎外感は、佐藤の作品やドローイングなどからも伝わってくるようで、この点も普遍性や共感を持って楽しむことができる部分だと思われます。
自分と向き合い、歪みや崩れた表現に美しさを見出す
佐藤は、この記事の最後でも紹介している「アーティストコメント」でも述べていますが、本展では、年齢的に感じざるを得ない身体的な老化という変化と、現実的な理不尽さの中で流れ行く水のように過ぎ去る時間への恐怖との揺らぎに捉われながら、実存的な苦悩を背負う人物などを描いているといいます。しかしながら、その表現は恐怖感を他者に伝えようというものではなく、むしろその歪みや崩れた表現に美しさを見出していると述べています。
あなたも、ちょっとドキドキしながら“鏡”の前に立つように、この個展を訪れてみてはいかがでしょうか。
最後に、ギャラリーの公式サイトに掲載されている佐藤の「アーティストコメント」を引用で紹介します。
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【アーティストコメント】
生まれて50年が過ぎた。意識のありように変化は感じないが、その乗り物である身体は日々変化(劣化)している。視力は衰え、皮膚のしわは増え、頭髪は薄くなり、身体は思うように動かず、しかも痛みが伴う。抗えない時間の流れの中に自分はいて、長く見積もっても後50年程で乗り物である身体は完全に機能しなくなり、意識もそれと同時に消えるのだ。
朝起きて直ぐの時間帯は、意識と身体が乖離している感覚が強く、この意識が将来確実に消えてしまうことが信じがたくも、しかしその時は必ずやってくるという事実がリアルに迫ってきて、どうしようもない恐怖感に襲われる。なんとか別の乗り物に乗り換えられないものか。。。気づいたらここに居ただけなのに、こんな理不尽なことがあるか、と思う。
普段、自分は木を扱う仕事をしている。丸太の断面に見える年輪は地球が太陽の廻りを一周するごとに一つの円線として現れる。春と秋の期間で幹の成長度合いが異なるために、365日のタイムスパンが一つの円となり刻まれるのだが、このような定まった一定時間が視覚認識できる形状として表れているものを自分は他に知らない。そしてそれは美しい。
自分が描きたいのは自身を流れていく時間の流れだ。そしてそこには流れの終わりにある意識の喪失に対しての強い恐怖感が同時に存在する。死は立場や環境に関わらず、平等に訪れる。この普遍的な事象を美しく、出来れば木の年輪の様に描きたい。
2023年 佐藤栄輔
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タイトル | 佐藤 栄輔|Flow |
会期 | 2023年12月2日(土)~ 2024年1月20日(土) |
会場 | GALLERY MoMo Projects |
住所 | 106-0032 東京都港区六本木6-2-6 サンビル第3 2F |
Webサイト | https://www.gallery-momo.com/current-roppongi |
開廊時間 | 12:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日曜・月曜・祝日 冬期休業:2023年12月24日(日)~ 2024年1月8日(月・祝) |
観覧料 | 無料 |