豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表 at 東京都現代美術館
東京都現代美術館では、豊嶋康子の美術館における初の大規模個展「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」が2023年12月9日(土)から2024年3月10日(日)まで開催されています。
本展は豊嶋の制作の全貌を、初期作品から新作まで500点近くを一堂に集めて検証する初めての試みです。世の決まりごとに対して「私」を交差させる豊嶋の作品群は、「天地」や「左右」はどのようにして決まるのか?あるいは裏と表をひっくり返すことは?などなど、ありとあらゆる「問い」に満ちているようです。そこには世にあるさまざまなシステムと「私」双方の「発生法」を捉えようとする豊嶋の姿勢が感じられ、私たちにたくさんの気づきや捉えなおしの機会をもたらしてくれるでしょう。
“謎かけ”が散りばめられたような展示空間
東京都現代美術館のメイン通路からガラス越しに見える本展の導入部は、明るく開放的な空間ながら、宙に浮いたようなパネルや風車を思わせる円形の作品にくわえて、蔦が白い壁にのびるようにパズルのピースが配置され、ちょっとした“謎かけ”が仕掛けられているように見えます。
メインの展示空間に進んでも、一部のクローズドな展示を除いて、おおむね開放的な空間の中にさらなる“謎かけ”が散りばめられていますが、それらを探検するようにたどっていくと、だんだんと作家が何に関心を持ち、どこに問題意識があるのかが分かってきます。
制度や価値観、約束事に対峙し続けてきた作家
豊嶋康子(1967~)は、1990年より30年以上にわたって、私たちを取り巻くさまざまな制度や価値観、約束事に対して「私」の視点から独自の仕方で対峙し続けてきた作家です。
その領域は、物や道具の仕組み、学校教育、経済活動から日常の様々な行為にまで及びます。私たちの身の周りには無意識のうちに縛られたり、あるいは利用してきた思考や行為の枠組みやルールがあります。それらを豊嶋は、自分自身の感じる違和感や関心を“てこ”として、独自のやり方で読み替え、捉え返すことで、人の思考の型の形成や、社会と自己の成り立ちのありようを問いかけてきました。
私たちの身近なものやことがモチーフ
豊嶋の身近なところから社会へと目を向ける取り組みが反映されたように、作品は私たちの身近なものやことがモチーフとなっていることが多いように感じます。
藝大生だった1990年に発表された広い展示スペースを取り囲むように、壁にソロバンが長く連なっている《エンドレス・ソロバン》や、〈マークシート〉。1996年から行っている《口座開設》や《ミニ投資》といった経済・金融システムに「私」という存在を通して介入する作品群などの他に、戦時中のアーティストを題材に扱った《前例》(2015)など、豊嶋の関心が向かう領域などを窺い見ることができます。
もちろん、性別や年齢、これまでの生き方によって作品への感じ方は違うとは思いますが、さまざまな側面から自分たちが生きていることでの気づきをもたらしてくれます。
豊嶋本人の構想にもとづいた展示構成
本展は豊嶋の取り組みが、大学在学中の作品から最新作まで、約500点が会場全体に展開されていますが、一般的な回顧展とは違い、年代順では構成されていないようです。豊嶋本人の構想にもとづいた展示構成で、個々の作品が持つ構造に応じて緩やかにグループ化された作品同士の関係性を見ることができます。
それらは広いスペースに展示されているものもあれば、ソロバンのつながりが生み出す導線をたどっていくと狭いスペースにも作品展示があるなど、なんだか豊嶋の思考の中を“探検”しているような気分にもなります。個々の作品だけでなく、展示スペース全体に広がる、相照らし合う複数の作品の重なりや繋がりにも注目してはいかがでしょうか。
「考えさせる」だけでなく「作る」ことへの誘惑も
鑑賞後に改めて、本展のタイトルの「天地左右の裏表」という言葉の意味を考えると、普段私たちがなんの疑いもなく天地、あるいは左右だと思い込んでいるものは何だったんだろうと思います。そして、それを自分は変えられるのだろうかという想いに至るかも知れません。
豊嶋は「表現」は誰でもできる、万人の行為と捉えていると言います。豊嶋の作品群は「考えさせる」作品であると同時に、「見る」楽しみや「作る」ことの誘惑をも感じさせるでしょう。ぜひ、お出かけして、作家の思考との接点を見つけ、ご自分の中にわき上がるいろんな想いを楽しんではいかがでしょうか。
タイトル | 豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表 |
会期 | 2023年12月9日(土)~ 2024年3月10日(日) |
会場 | 東京都現代美術館 企画展示室 1F |
住所 | 〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内) |
Webサイト | https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/toyoshima_yasuko/ |
開館時間 | 10:00~18:00(展示室入場は閉館の30分前まで) |
休館日 | 月曜日(2月12日は開館)、2月13日 |
チケット情報 | オンラインチケットはこちら ※ 会期中日時指定なしで、1枚につきお一人様各展覧会1回限りご入場いただけるオンラインチケットです。 ※ ご購入後のキャンセル・変更は一切できません。美術館チケットカウンターにて当日券も販売します。 |
観覧料 ※( ) 内は20名様以上の団体料金 |
【一般】1,400円(1,120円) 【大学生・専門学校生・65 歳以上】1000円(800円) 【中高生】600円(480円) 【小学生以下】無料 |
備考 | ※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。 ※小学生以下のお客様は保護者の同伴が必要です。 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。 ※ 毎月第3水曜日(シルバーデー)は、65歳以上の方は年齢を証明できるものを提示していただくと無料になります。 ※ 家族ふれあいの日(毎月第3土曜日と翌日曜日)は、18歳未満のお子様をお連れの都内在住の保護者2名まで、観覧料が半額になります。(保護者の方は都内在住を証明できるものを提示) ※[学生無料デー Supported by Bloomberg] 2月24日(土)、 25日(日)の2日間、中高生・専門学校生・大学生は本展が無料です(チケットカウンターで学生証の提示が必要です)。 ※3月1日(金)~10日(日)の「Welcome Youth 2024」期間、18歳以下(2005年4月2日以降生まれ)の方は本展が無料です。(チケットカウンターで年齢証明の提示が必要です)。 |