「横尾忠則　寒山百得」展 at 東京国立博物館 表慶館

東京国立博物館 表慶館では、「横尾忠則　寒山百得」展が2023年9月12日（火）から12月3日（日）まで開催されています。寒山拾得は、中国・元時代から日本の中近世、近代そして、現代にまで数百年の時代を通し、伝統的な画題として多くの人々を惹きつけてきました。横尾はこれを独自に解釈し、さまざまな造形を生み出すことで、新たな寒山拾得像を切り拓いています。本展は現代美術家・横尾忠則の画家活動における最大のシリーズ「寒山拾得」を通じて、寒山拾得が照らし出す精神のあり様に触れ、私たちを取り巻く現代の社会や世界や、そのなかで生きる術と思いを見つめなおす機会となるかも知れません。

本展では、中国・唐の時代に生きた2人の詩僧、寒山と拾得という伝統的な画題を、現代美術家・横尾忠則が独自の解釈で再構築した「寒山拾得」シリーズの完全新作が一挙に102点も初公開されています。
新型コロナウィルス感染症が流行している間、横尾は寒山拾得が体現した脱俗の境地のように、俗世から離れたアトリエで創作活動に没頭し、まさに時空を超越し、あらゆる世界を縦横無尽に駆け巡りました。描き出された寒山拾得からは、めくるめく様々な物語が紡ぎ出されています。横尾の画家活動の最大のシリーズとなる「寒山拾得」は百面相のように、観る人にさまざまな問いを投げかけることでしょう。

横尾忠則は1936年に兵庫県で生まれ、1972年にニューヨーク近代美術館で個展を開催。その後もパリ、ヴェネツィア、サンパウロなど各国のビエンナーレに出品し、ステデリック美術館（アムステルダム）、カルティエ財団現代美術館（パリ）、ロシア国立東洋美術館（モスクワ）など世界各国の美術館で個展を開催しています。国内でも東京都現代美術館、京都国立近代美術館、金沢21世紀美術館、国立国際美術館などで相次いで個展を開催し、2012年には神戸市に兵庫県立横尾忠則現代美術館、2013年に豊島横尾館が香川県に開館しています。

寒山と拾得は中国、唐時代に生きた伝説的な詩僧で、世俗を超越した奇行ぶりは「風狂」と捉えられました。中国禅宗では、悟りの境地として「風狂」が重要視されましたが、寒山拾得の脱俗の境地は仏教に通じるものとして、中国や日本で伝統的な画題として数多く描かれてきました。　

その世俗にとらわれない暮らしぶりは、森鷗外や夏目漱石といった日本の近代文学にも取り上げられています。高い教養を持つ文人であるにも関わらず、洞窟の中に住み、時には残飯で腹を満たすと言った脱俗的な振る舞いは、世俗世界の現実からの逃避に憧れを抱いた知識人たちを魅了したと考えられています。

横尾は制作当初から最終作まで、いくつかのモティーフが一連のフェーズを作り出し、その対象を変えながら、寒山拾得を描き出しています。彼は特定のメッセージを示すことを目的とせず、自らの精神に身を委ねながら、湧き出る形象をキャンバスに定着させていったのです。したがって、横尾の描いた寒山拾得を前にした人々は、作品の前でどんな想いが心に浮かんだとしても自由であるのです。

ここでは寒山拾得という存在そのものの変容のみならず、画風さえも百花繚乱のごとく様相を変えています。その変化のありさまを一気に目にした人々は、あたかも画家の絵筆のうねりと重なりながら、一切の束縛がない世界を体感することになるでしょう。

なお、本展は写真撮影が可能ですので、お気に入りの寒山拾得があれば画像に残す、あるいは誰かと感動を共有してはいかがでしょうか。

【特集「東京国立博物館の寒山拾得図―伝説の風狂僧への憧れ―」】

「横尾忠則　寒山百得」展とは別に、東京国立博物館の本館特別1室では、特集「東京国立博物館の寒山拾得図―伝説の風狂僧への憧れ―」が、2023年9月12日（火）から11月5日（日）まで開催されています。東京国立博物館が誇る、中国、日本で描かれた「寒山拾得図」が一堂に集められています。各時代に描かれた寒山拾得のさまざまな表現を通して、人々が寒山拾得を見つめた様相を観ることができ、また横尾が魅せられた世界を追体験することができるでしょう。