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大巻伸嗣 個展「moment」in ART FRONT GALLERY

アートフロントギャラリーでは、 大巻伸嗣 個展「moment」が2023年11月3日(金・祝)から11月26日(日)まで開催されています。大巻にとっては同ギャラリーでは7年ぶりの個展となりますが、今回は国立新美術館での《大巻伸嗣「Interface of Being 真空のゆらぎ》展と同時期に開催されます。内容的にも連動しており、同美術館でも展示されている《Gravity and Grace》からフォトグラムが制作され、同ギャラリーで紹介されています。刹那的な瞬間をとらえたものながら、何かが確実に存在した、その痕跡を写し出しているようです。

ギャラリーに入ると、そこには整然とフォトグラムによる作品が展示されています。モノクロームの何かの文様の様なパターンが幾重にも絡み合い、画面いっぱいに広がっています。それぞれに映し出されている文様のエッジはぼやけているものがほとんどで、中にはホログラムのよう見えるので焦点が合わせにくく感じるものもあるので、光と影が織りなす柔らかな立体的な世界が広がっているようです。

これらの作品の被写体となっているのは、現在、国立新美術館で公開されており、大巻伸嗣の代表作のひとつである、《Gravity and Grace》です。世界の縮図として、さまざまな文化や文明の文様の透かし彫りが施された壺型の巨大な立体作品の中を、強烈な光を放つ光源が上下する巨大なインスタレーションです。強烈な光源は、太陽のような神々しさもありますが、畏怖したくなるようなエネルギーも感じられます。
圧倒的なスケール感とともに、上下する光源の動きに従って、文様が壁にも映し出され、何かがうごめいているようです。

今回制作されたフォトグラムは、美術館に展示した《Gravity and Grace》に対して印画紙を直接露光させて、インスタレーションがつくりだす現象そのものをとらえています。暗闇のなか、壺の前に印画紙を立てたり寝かしたりして瞬間的に発光ささせて、強烈な光によって映し出された文様の光と影が焼き付けられているのです。

 

フォトグラムの大きな特徴として、ネガとポジの関係が逆転するため、影の部分は白っぽく、逆に、光が当たった部分は黒く焼き付けられています。大巻がこの手法を採用する、きっかけのひとつとなっているのは、広島市平和記念資料館に展示されている「人影の石」だといいます。それは、原爆投下時に銀行の店前の石段に座っていた人の影が、そのまま跡となって石に染みついているもので、観た人の誰もが原爆のエネルギーの強烈さを実感すると同時に、単なる“影”からその人の存在、あるいはあの朝、その石段に座るまでのその人の人生や巡りあわせにまで想いをはせることができます。

光と影が瞬間的に捉えられ、印画紙に焼き付けられることで、複雑に絡み合い重なるそのイメージ は物質化したように見えます。そこには人間の感覚だけでは感知しきれない、様々な物質の変化、誕生と消滅が目の前で常に繰り返されていることを示唆しているかのようです。

アートフロントギャラリーで「moment」を観てから、国立新美術館で《Gravity and Grace》を観るか。あるいは、その逆か。どの順番で観るかでアート体験としては多少の違いはあると思いますが、大巻の果てしなくもスケールの大きな思索の奥行きに心を動かされる点は共通することでしょう。

タイトル 大巻伸嗣 個展「moment」
会期 2023 年11月3日(金・祝)~ 11月26日(日)
会場 ART FRONT GALLERY
住所 東京都渋谷区猿楽町 29-18 ヒルサイドテラス A棟
Webサイト https://artfrontgallery.com/exhibition/archive/2023_10/4885.html
開廊時間 水・木・金 12:00~19:00
土・日 11:00~17:00
休廊日 月曜日、火曜日
観覧料 無料