二人展　「円と渦」 宮間夕子・羽田野令也 ​at Gallery Dalston

Gallery Dalstonでは、宮間夕子と羽田野令也による二人展　「円と渦」が2024年1月13日（土）から1月28日（日）まで開催されています。
日本やアジアの神や神獣や、あるいは信仰や精神性に関わるものとしては、平安時代に描かれた辟邪絵神虫（奈良国立博物館蔵）などを思い出しますが、作品が現存していないだけで、もっと太古の昔から描かれていたことでしょう。それが現代を生きる作家により、どのような解釈や思索を経て表現されているのか？ そこが大きな見どころだと思います。
また、同様の主題で表現を試みる作品は時おり出会いますが、それが二人展となるとたいへん希少な機会となるはずです。こちらもどんな化学反応が起きているのか、楽しみなところです。ぜひ、お出かけしてみてください。

宮間夕子の作品には、日本やアジアを中心とする神や神獣をモチーフに、神々の存在が独自の視点でエネルギッシュに描かれています。それらの神々は太古の昔から八百万の神々と表されたように、目に見えないけれど存在します。また、それは自然が豊かなところだけでなく、街の中でさえ、感じようと思えば感じられるはずです。

そうした神々は、人間にとって善い面と悪い面の両方を持ち合わせており、時に獣や妖怪のように畏れ敬うような化身となって現れます。宮間の描くモチーフも、神々しさや祝祭感がありつつも、邪気をはらんだ、見ようによっては悪戯っぽい表情をしており、そこは彼女の作品の大きな魅力のひとつです。
絵画においては、ひとつひとつにプロットやストーリー性があるといい、表情だけでなく、モチーフの仕草や持ち物にも注目していくと、作品をさらに深く楽しめるでしょう。

特徴的な色彩感については、お寺などでよく見かける五色幕から着想されたものになっており、その色の意味も踏まえて色遣いされています。特定の教えに帰依する宗教心とは別に、人は誰でも、人知を超えた大きな存在に対する信仰心を本来は持っているはずです。しかし、現代ではそうしたものが人々の心の中から薄れつつあるように感じます。宮間の作品は古来の大切な思想や豊かな心、ひいては生活や文化に想いを馳せる時間をもたらしてくれるでしょう。

羽田野令也は、主にアジア圏を中心とした古代の芸術や文化、信仰をテーマにそこに漂うプリミティブな気配や生命力などの目には見えない存在を表現することを探求しながら制作しています。モチーフの顔はどれも、点もしくは円３つで概念的に表現されている一方で、一部の作品タイトルは一般的な「無題（Untitled）」とするのではなく「無名（Unknown）」とつけられているように、ひとつひとつの作品そのものに人格を感じます。

その作品は描かれているというより、彫られているという印象が残るかも知れません。作品に近づいて正面や斜めからも観ていると、ところどころエンボスになっていたり、迷いが感じられない明解な線は“溝”になっているように見えます。羽田野が、目には見えない存在が生まれる場所としてイメージしている渦がうごめいている背景と、前面の躍動するモチーフとともに独特の“触感”を生み出しています。

また、作品に使用されている岩絵具は、羽田野自身が奈良の河原や、弥生時代の遺跡発掘を手伝った時に許可を得て採集した岩石を砕いて顔料にしたものが使われています。機械を使わずにただひたすら石を砕いて顔料にする工程は、彫るという描画とともに、根源的なものの一端に触れるための過程や行為であり、作品にプリミティブなエネルギーが封入されていく瞬間でもあるように感じられます。柔らかで落ち着いたトーンの色彩ともに、羽田野が思索する唯一無二の世界を楽しめるでしょう。

宮間と羽田野、このふたりの共通点は、どちらも本来は目に見えない神のような畏敬すべき存在を可視化しようと試みている点にあります。本展タイトルの「円と渦」とは、そうした存在を生み出す世界観のようなものを表現していると思われます。また、ギャラリーではふたりのドローイングも見ることができ、それらが円とも、渦ともとれるようなバランスでひとつの壁面に一緒にコラージュされており、興味深く観ることができます。

ふたりの作品から放たれる波動に満たされた、でも不思議と心地よい空間を体験しに、ギャラリーを訪れてみてはいかがでしょうか。