阪本トクロウ|道草 at GALLERY MoMo Ryogoku
GALLERY MoMo Ryogoku(両国)では、阪本トクロウの個展「道草」が11月25日(土)から12月23日(土)まで開催されています。阪本の描くモチーフは具象的でありながら極めて抽象性が高く、見る人に既視感を持って迫り、個々の記憶の中にある風景と交差するように仕組まれています。心をからっぽにして作品を眺めていると、何にもなかった日の何でもないことが、ふと頭の中に浮かんで、気持ちが動かされるかも知れない。そんな記憶に残るアート体験となるでしょう。
記憶がよみがえるような、何気ない情景
「道草」という個展タイトルにあるように、本展では作家自身が日常の中で見逃してしまうことが多い美しさや深さに焦点を当て、道端に生える雑草のシルエットや風景を描いた作品を中心に展示されています。
ギャラリーに入るとすぐ左手には、砂浜がどこまでも続いているような海辺の風景が描かれた《ドリフター》が。右手にはイオンの駐車場でふと空を見上げたような、誰もがいつか見たことがあるような風景《呼吸》が配置され、その時に過ごした時間や音、空気感などの記憶がよみがえってくるようです。
作品はデザイン化されたフラットな画面にも見えますが、その中に風景の温度や音を感じさせてモチーフに生命感を与えています。そして、確かな技術力に裏打ちされた表現により、ありふれた景色やモチーフを抽象絵画のように切り出して私たちの目に新鮮な驚きをもたらしてくれるのです。
そうした驚きや、この《呼吸》で見られる駐車場から見た空の青さなどの鮮やかな色味は、この記事の写真から伝えることはまったくできていません。ましてや、作品を観たときに感じる物事の本質と美や、別のものへと想像を膨らます楽しさは、実際に作品の前に立って味わうしかないでしょう。
観る人に既視感を持って迫る作品世界
阪本トクロウは1975年に山梨県で生まれ、1999年に東京藝術大学美術学科絵画科日本画専攻を卒業しました。しかし、麻紙に質感の高い岩絵の具より、現代の日本的なモチーフを描くのに適した画材としてアクリル絵具を選び、独自の絵画世界を切り開き、多くの個展を重ねてきました。
阪本は初期より、日常生活の中で目にした自然の風景や人工的な構造物を等価の眼差しで見つめ、そこで繰り返されるリズムや反復、重なりや中空に美を見出し、必要な要素を抽出してシンプルに画面に再構成しています。作家が実際に目にした特定の風景や構造物であるにも関わらず、作品として浮かび上がるそれらのモチーフは具象絵画でありながら極めて抽象性が高く、観る人に既視感を持って迫り、個々の記憶の中にある風景と交差するように仕組まれています。
あなたの日常の記憶やふるまいとどこかでリンク
まったく私的な感想で恐縮ですが、本展で阪本が何点か描いている草花のモチーフは、今年の夏の初めに、私が遠く離れた実家の母親に写真を何度かメールで送ったものと同じでした。私は毎朝、安否確認を兼ねて、母親にメールを送ることを10年近く続けています。母親は90才を越え、ほぼ寝たきりなので外の景色、特に道ばたに咲いている花の写真を送るとたいへん悦びます。花は自生しているものや、他人の庭先で手入れされたものなど様々ですが、いつも花を探しながら歩いているので、何でもない季節の変化に敏感になりました。
そして阪本の、「道草」をしたことで生まれた作品は、何にもなかった日の何でもないことを感じられる平凡な幸せを私に想い起させてくれます。
阪本の独特な風景の切り取り方と、フラットな画面の中に奥行きがあるようにも見える不思議な描写が、きっとあなたを引き込み、日常の記憶やふるまいとどこかでリンクするでしょう。作品の前に立たないと、けっして生まれない豊かな感情を楽しみに、ギャラリーを訪れてはいかがでしょうか。
最後に、アーティストコメントを公式サイトからの引用でご紹介いたします。
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【アーティストコメント】
今回の個展では、道草をしている時に雑草のシルエットが美しく感じたので、道端の草をいくつか描きました。
日々の観察と発見が私の作品を構成しています。
作品は日常生活の中から生まれてきていて、どこにでもあるもの、自然に存在しているもの、人工の造形物の面白さを描いています。
現在の自分の視点と興味を正直に表現したいと思っています。
視点を意識すると、森羅万象の全てが面白く感じます。
2023年 阪本 トクロウ
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タイトル | 阪本トクロウ|道草 |
会期 | 2023年11月25日(土)~ 12月23日(土) |
会場 | GALLERY MoMo Ryogoku |
住所 | 130-0014 東京都墨田区亀沢1-7-15 |
Webサイト | https://www.gallery-momo.com/current-ryogoku |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日曜・月曜・祝日 |
観覧料 | 無料 |