山本朱音「デッドウェイト」 at Gallery10[TOH]
Gallery10[TOH] では、山本朱音「デッドウェイト」が2024年5月10日(金)から5月26日(日)まで開催されます。個展タイトルとなっている「デッドウェイト」とは、「それ以上積むと潰れてしまう重さ」、あるいは危険な重さを意味し、転じてスラングでは責任や困難などの重荷を表すこともあるようです。私たちはその重さと、どのように向き合い、通じ合えるのでしょうか。
メインビジュアルを一目見ただけで、強烈な印象を残すそのキャラクターは、会いに行くしかないなと思わせます。あなたも、ぜひ、訪れてみてはいかがでしょうか。
一度見たら絶対に忘れられないキャラクター
山本の作品は、異なるモチーフを描いた3つのシリーズが展示されています。ギャラリーに入って奥の壁には自画像とも言える、ベージュ系の色に塗られた背景にモノトーンでキャラクターが描かれたものが5点展示されています。いずれも、あるものは悲しみや絶望を、あるものは恨めしそうに見える表情が印象的で、一度見たら絶対に忘れられないインパクトがあります。
そして相対する壁には山本の弟がモチーフとなった油彩の《Pegasus》シリーズが2点、掲げられています。《Pegasus 1》の、人物の背中の翼は大胆な構図で描かれており、それほどボリュームを感じませんが、力感は豊かです。明らかに何かに悩んでいる《Pegasus 2》に比べ、《Pegasus 1》はどんな状況なのか、様々な想像をふくらませることができ、作家の弟への愛情すら感じられるようです。
その他、目を見ると死んでしまうと言われるギリシャ神話の「メデューサ」や、天使などのようなキャラクターが描かれた、鉛筆の筆跡が印象的なドローイング2点が掲げられています。いずれも胸には“I’m not pathetic”とトゲトゲしい文字で書かれており、“私は哀れじゃない”と訳すのが妥当な気がします。
弟との関係から生み出された世界観
山本朱音は1999年に東京都で生まれ、2023年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業しています。山本の独創的なキャラクター像は、在学中に取り組んだ1,000枚ドローイングをきっかけに生まれたと言い、無心で描いていくうちに山本の根っこにあるものが表に出てきたのではないかと想像してしまいます。
これらの作品は山本の発達障害を持つ弟との関係から生み出されており、本展ではさらに彼女と弟の関係に踏み込みこんだところが表現されています。
表情も性別もない最低限の表情しか見せてくれないキャラクターたちは、戦い、涙し、生きづらさゆえの葛藤を見せつつも、それでも見つめること、理解されること、そして生きることを渇望しているようです。
東京では初の個展となる本展
山本の作品は、LAやパリ、ロンドン、ソウルで開催された個展などを通じて、すでに海外で高い評価を受けています。東京で本展のような明確なテーマを持った個展を開催するのは初めてとなります。
山本は現在は静岡県に暮らし、これからも弟との関係も維持していくようです。その関係性の変化や進展とともに、彼女の世界観はどのように広がっていくのでしょうか。これからの作品も楽しみな、彼女の立っている現在地を目撃しに、訪れてはいかがでしょうか。
最後に、同ギャラリーの広報資料から引用で「アーティストコメント」を紹介します。
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“良いお姉ちゃん”の役割を全うする。 それは家族内の環境を悪化させないためなのか、障害児・者(同胞)のためなのか、自己保身のためなのか。
家族心理学の研究では、障害児・者のきょうだいの子ども時期における家族内役割に、親役割代行(parentification)と呼ばれる状態が存在する。これは後に青年期・成人期に移行すると他者志向性の強さ、いわゆる過剰適応状態として残る。
同胞と関わることが少なくなったにもかかわらず、周囲の圧に弱く、他者の視線にずっと囚われ続けている。これは家庭環境の問題である。これは同胞との問題である。これは親との問題である。これは他者との問題である。これは自分自身の問題である。
自立してもなお、自重で押し潰されていく。
山本朱音
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タイトル | 山本朱音「デッドウェイト」 |
会期 | 2024年5月10日(金)~ 5月26日(日) |
会場 | Gallery10[TOH] |
住所 | 151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-20-11 第一シルバービル1B ※JR代々木駅東口を出た目の前の第一シルバービル1Fです。ギャラリーへの扉がタバコ自販機になっているのが目印です。 |
インスタグラム | https://www.instagram.com/gallery10.toh |
開廊時間 | 13:00〜20:00 |
休廊日 | 月曜、火曜、水曜 |
観覧料 | 無料 |