企画展 歌と物語の絵　― 雅やかなやまと絵の世界 at 泉屋博古館東京

泉屋博古館東京では、「企画展 歌と物語の絵 ― 雅やかなやまと絵の世界」が2024年6月1日(土)より7月21日(日)まで開催されています。本展では、同館が所蔵する住友コレクションから桃山・江戸時代前期の「やまと絵」が一挙公開されています。私たちにもなじみの深い「竹取物語」「源氏物語」「伊勢物語」など、現代に読み継がれる和歌や古典文学を素材とした絵巻や屏風を見ていくことにより、物語と絵画との関係性に迫ろうという企画になっています。あなたも、宮廷や社寺の一級の絵師が貴人の美意識に寄り添い追求した、物語絵、歌絵のさまざまな様式、表現に触れてみてはいかがでしょうか。

平安時代から現代に続くやまと絵

やまと絵とは平安時代以降発達し、中世を通じて独自の発展を遂げ、近代・現代の日本画にも影響を及ぼしている日本画の分野のひとつです。中国由来の唐絵や漢画などと区別する呼称で、四季の移ろい、花鳥・山水など、あらゆるテーマが描かれてきました。
その中でも、古来、語り読み継がれてきた物語は、古くから絵巻物などの形で絵画と深い関係にありました。そして和歌もまた、三十一文字の世界が絵画化されたり、絵から受けた感興から歌が詠まれたりと、絵画との相互の刺激から表現が高められてきました。

物語絵や歌絵の特徴のひとつは、精細な描写と典雅な色彩。宮廷や社寺の一級の絵師が貴人の美意識に寄り添い追求した「やまと絵」の様式を継承することでしょう。また、ストーリーに流れる時間を表すかのような巻物、特別な場面を抽出してドラマティックに描き出す屏風など、長大な画面にさまざまな表現が生まれました。

繊細な描写と典雅な色彩の絵巻・屏風の名品

泉屋博古館が所蔵する住友家歴代収集の日本絵画には、繊細な描写と典雅な色彩を特徴とする絵巻・屏風の作品群が含まれます。それは、平安時代より培われてきたやまと絵の領域が一気にひろがった桃山から江戸時代前期（17世紀頃）のものです。かつて一部の貴人のためだったやまと絵は、より広い階層にむけて一段と親しみやすく視覚効果の高いものへ生まれ変わっていったのです。

文化財用高精細スキャナーで撮影した3点の物語絵屏風の拡大画像を会場にご用意します。ガラス越しでは見つけにくい表情や仕草、四季折々の自然など、ひとたび目にすれば古典文学にぐっと近づけることでしょう。

【展示構成】

１：うたうたう絵

平安時代中頃、和歌の隆盛とともに広がったのが歌絵です。それは歌の意味からイメージされ、また詠まれた景物を素材として描かれたものです。反対に、描かれた景物に触発されて歌が詠まれることもありました。歌から絵へ、絵から歌へ――無限の連鎖のなかから新たな芸術は生まれていった、そんな関係性が感じ取れる展示となっています。

2：ものかたる絵

元来、物語文学は「語り」のことばどおり、音読して聞かせることが中心だったといい、早い時期から巻物などに描かれた絵を前に耳と目で味わう楽しみがありました。やがて言葉と書、絵からなる総合芸術となった絵巻物から、冊子、扇、掛物、屏風へと広がる物語絵が紹介されています。

３：れきし画

明治時代には洋画・日本画を問わず、日本の歴史・神話・仏教主題・伝説を描く「歴史画」が流行しました。画家たちは歴史を正しくかつリアルに伝えるため、時代考証を究め、時に西洋画の技法を駆使して迫真的に描き出すことに腐心しました。
明治時代の思想家・高山樗牛（1871-1902）は「歴史画の本領は歴史のために描くのではなく、絵画のために歴史を借りるのである」と言っています。果たして「れきしがたる絵」とは「歴史を語る絵」なのか、あるいは「歴史画たる絵」のどちらでしょうか？