第15回 shiseido art egg 石原海 《重力の光》 in 資生堂ギャラリー
資生堂ギャラリーでは公募プログラム第15回「shiseido art egg(シセイドウアートエッグ)」入選者3名の内の1名、石原 海さんによる映像作品《重力の光》を中心としたインスタレーションによる個展が開催されています。
公募プログラム「shiseido art egg」は2006年から始まっており、1919年のギャラリーオープン以来の活動理念である「新しい美の発見と創造」をまさに体現するような、瑞々しい新進アーティストを応援する取り組みとして続けられています。
私たちは不安定で流動的な日常を過ごす中で、人々の価値観も大きく変わりました。また、生活様式だけでなく、芸術・文化を取り巻く環境も大きな変化が生じています。資生堂ギャラリーはこういう時代だからこそ、新しい現実を柔軟に受け入れながら、アートがはたせる役割を問い続けていらっしゃいます。
踊り場で出会う映像作品《重力の輪》に登場する人物の熱量を感じながらギャラリーの細い階段を降りていくと、大展示室には大きなスクリーンに向かって椅子が並び、個展の中心となる映像作品《重力の光》(30分)が映し出されています。小展示室には映像作品から展開した空間演出や映像、オブジェが配置され、ギャラリー全体で来場者も“当事者”として没入していくインスタレーションが展示されています。
《重力の光》は実際に北九州市に実在する教会に集う、元生活困窮者など様々な苦しみを抱えていた人々が出演者となった新約聖書のエピソードを踏まえた演劇の映像と、その出演者のインタビュー映像が交互にからみ合う実験的な映画作品になっています。
インタビュー映像からは生きるが故の苦しみであったり、生きる意味を問い続けている出演者自身の生き様が伝わってきて、演劇の中のセリフにどんどんリアリティを吹き込んでいるようです。演劇と出演者の映像が何度も交差することによって、映像に出てくるすべての言葉への共感がふくらみ、徐々に自分も“当事者”として引き込まれていきます。まさに、映像の冒頭に出てくる「言葉の中にイノチがある」という言葉通りだなと感じました。
石原海さんは、愛、ジェンダー、個人史と社会をテーマに、アートとしての映像作品やヴィデオインスタレーションに取り組んでいる作家さんです。《重力の光》にも登場する教会には石原さん自身もかつて「帰る場所がなく不安定な状態だったときにここに流れ着いた」と言います。その後の2年間は英国に渡り、創作活動と発表を行い、高い評価を受けていましたが、COVID-19による社会状況の大きな変化を受けて帰国し、再び教会に戻った時に今回の個展の着想を得たそうです。そうした経緯は石原さんのインタビュー記事にも語られていますが、作品に接するときの情報として大きな意味がありそうです。
実は筆者は、25年前に洗礼を受けたカソリックのクリスチャンです。したがって《光》とは、平凡ではあるが生きていくために最も大切な“あの言葉”しか頭に浮かびませんでした。もし自分がクリスチャンでなかったら、どのようなアート体験になったのだろうかといろいろ想いを巡らせました。
もちろん、どんな風に感じとれば“正解”というようなものはないでしょう。観る人にとってどのような感情やインスピレーションがわいたとしても、この作品はそれを肯定的にしっかりと受け止めてくれ、素晴らしいアート体験をもたらしてくれるのではないでしょうか。
タイトル | 第15回 shiseido art egg 石原海 「重力の光」 |
会期 | 2021年9月14日(火)~10月10日(日) |
会場 | 資生堂ギャラリー |
住所 | 〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階 |
Webサイト | https://gallery.shiseido.com/jp/exhibition/4343/ |
営業時間 | 平日 11:00~19:00 日曜・祝祭日 11:00~18:00 |
休館日 | 毎週月曜日 ※月曜日が祝祭日にあたる場合も休廊いたします。 |
料金 | 無料 |
《重力の光》 開始予定時刻 |
11:00 / 11:30 / 12:00 / 12:30 / 13:00 / 13:30 / 14:00 / 14:30 / 15:00 / 15:30 / 16:00 / 16:30 / 17:00 / 17:30 / 18:00* / 18:30*
*平日・土曜日のみ |