第17回 shiseido art egg 第3期展 岩崎 宏俊 展『ブタデスの娘』 at 資生堂ギャラリー
資生堂ギャラリーでは第17回を迎えた、資生堂が新進アーティストを応援する公募プログラム「shiseido art egg」の第3期展 岩崎宏俊展『ブタデスの娘』が2024年4月23日(火)から5月26日(日)まで開催されています。今回の審査ポイントは、独自の視点で今日の世界を見つめ、時代が抱える不安や困難に真摯に向き合い、そこから新しい価値観や美意識を表現しているか?という点にあります。岩崎宏俊(いわさきひろとし)は、“ブタデスの娘”という絵画の起源と伝えられる神話になぞらえ、「ロトスコープ」という手法を通じて観る私たちに、日々を生きるために何か大切なことを伝えようとしているかのようです。ぜひ、お見逃しなく。
新しい価値の創造を感じさせるshiseido art egg
「shiseido art egg」は、人びとの感性と多様な価値観を刺激し、新たな美の可能性を押し広げるアーティストに個展開催の機会を提供してきました。2006年にスタートして以来、毎年3組のアーティストが個展を開催し、その中から最も新しい価値の創造を感じさせたアーティストに「shiseido art egg賞」が授与されています。これまで参加したアーティストは延べ48名(組)にのぼり、「shiseido art egg」参加後も活躍の幅を広げています。
引き込まれるイメージと言葉のチカラ
階段を下りて展示スペースに進むと、パンデミックの影響で会うことの叶わなくなった人や風景の記録映像をトレースして描かれたロトスコープアニメーション《ブタデスの娘》が壁面いっぱいに映し出されています。
映像はエンドレスで流れていますが、スタート地点だと思われる亡くされた祖母の写真がトレースされ、そこから震災のこと、誰かの幼少期のころ、日常の風景など、なぞられる記憶は過去から現在、さらには未来へと行き来していきます。それは岩崎の抱く「追憶」のイメージですが、不思議と、しだいに観ている私たちの「追憶」と重なってきます。
そうして引き込まれていく、もうひとつの大きな理由になっているのが、テロップとナレーションで目と耳から入ってくる言葉のチカラです。一見、岩崎の心情を表す抒情的なモノローグのように思えますが、画面の絵画的なイメージと相まって、懐かしい想いだけではなく、ポジティブな感情がわき上がってきます。
ロトスコープの芸術表現の可能性を探求
岩崎宏俊は1981年に茨城県で生まれ、東京藝術大学大学院美術研究科で先端芸術表現領域博士後期課程を修了し、現在は愛知県に在住しています。学生の頃から実写映像をトレースしてアニメーションを制作するロトスコープという手法に着目し、芸術表現としての可能性を探求してきました。
美術や映画、広告など幅広い領域国内外で作品を発表しており、Calvin Klein、The New York Timesとのコラボレーションを手がけるほか、広告電通賞審議会「walk, walk,」では、THE ONE SHOW、NY ADC、東京ADC賞で受賞。英国アカデミー賞にノミネートされた『ビヨンド・ユートピア 脱北』ではアニメーションパートを担当しています。
神話に由来する作品タイトルと対になった小品
《ブタデスの娘》のタイトルは、大プリニウス(古代ローマの博物学者、政治家、軍人)が『博物誌』に記した神話に由来し、離別する恋人の影の輪郭を壁になぞり、描き残したといわれるブタデスの娘の行為が絵画の起源と伝えられているそうです。岩崎は映像を“なぞり”、ドローイングするという制作過程を通して「追憶」を見出し、さらにロトスコープのプロセスを重ね合わせて作品を生み出しているのです。
このメインの映像作品が映し出される壁面の向かいには《スキア》と題された、作品に登場する子どもがアクリル板にプリントされています。ライトに照らされ、長く伸びていく影が成長していく時間を想起させます。
まるで自分の頭の中を彷徨っているような小空間
また、奥のスペースの中央には、《ブタデスの娘》のためのゾートロープが配置されています。ゆっくりと、時計とは逆方向に回転させていくと、スリットから、これも映像作品から抜け出たように少女の駆ける姿を覗くことができます。
この周りには《半透明の記憶》と題された、映像作品の様々なシーンが描かれたアクリル板が壁面に立てかけられています。動きを感じさせるシーンや何か意味のある動作がレイヤーのように重なり、「あわい」に浮かび上がっています。
映像作品のほうは「追憶」として、ある程度、時間の経過を観る私たちも意識してしまいますが、こちらはむしろ断片化した「追憶」が作為的に、あるいは無作為につながり、重なり合っている私たち自身の頭の中を彷徨っているように感じます。
この瞬間だけ得られるアート体験になる
岩崎の作品は「追憶」という、いわば過去の記憶をモチーフにしながら、少しだけ先の、明日のために前を向く気持ちを思い出させてくれるように感じます。ロトスコープアニメーションという手法や、シンプルながら説得力のあるプロットの連なりなど、美しく楽しい魅力的な要素と相まって、あなたの気持ちを晴れやかにする、ここだけ、この瞬間だけ得られるアート体験になるかも知れません。ぜひ、一度、ご自身の目と耳で確かめてみてください。
タイトル | 第17回 shiseido art egg 第3期展 岩崎宏俊 展 『ブタデスの娘』 |
会期 | 2024年4月23日(火)~ 5月26日(日) |
会場 | 資生堂ギャラリー |
住所 | 〒104-0061 東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階 |
Webサイト | https://gallery.shiseido.com |
営業時間 | 平日 11:00~19:00 日曜・祝祭日 11:00~18:00 |
休館日 | 毎週月曜日 ※月曜日が祝祭日にあたる場合も休館いたします。 |
料金 | 無料 |