ダヴィット・フェスル 「Hello Yuko」in 小山登美夫ギャラリー天王洲
小山登美夫ギャラリー天王洲では、チェコ・プラハを拠点に活動するダヴィット・フェスルのアジア初となる個展「Hello Yuko」が2023年7月8日(土)から7月29日(土)まで開催されています。彼の生み出すオブジェは、作品画像を通して見るだけでも心が惹きつけられますが、展示空間では複数のオブジェが並べられたり、転回したり、織り交ぜるといった最小限の行為によって配置され、観る私たちの心に働きかけてきます。ダヴィット・フェスル独特の、実際に観ることでしか得られないアート体験を楽しみに、お出かけしてみてはいかがでしょうか。
ダヴィット・フェスルは2015年以来、手のひらに収まるようなサイズのオブジェクトを収集してきました。彼は自宅の一角のスタジオで、形・質感・色といったそのオブジェクトに内在するロジックに従い、小さく、注意深く組み立てられたコンポジションに配列します。彼は、それらのオブジェクトを隣同士に並べたり、転回させたり、織り交ぜるといった最小限の行為によって、作品を構成するそれぞれの要素を一時的に判読できないようにするといいます。それによりオブジェクトは、観客自身の心の内にある、からまった連想や記憶の中へ次第に広がっていきます。
本展が開催される天王洲のギャラリースペースでは、それらのオブジェクトが2つの層にまとめられています。最初の層は壁に展示されたオブジェクト群で、日本の観客の身長に合うように構成されているので、目線の高さでじっくり観ることができます。オブジェクトには影ができないように、念入りに照明が調整されているといいます。
2つ目の層は床に置かれた木の板です。それ自体両義的な立場を保っており、その位置によって立方体である展示空間のボリュームのバランスをとりつつ、同時にその空間を活性化させています。板は、かなり注意深く水平に設置されているといいます。
フェスルはこの配置について、以下のように述べています。
「地面に近い低さで人工物と出会うこと自体、意味を含む行為であり、その土地の文脈の中ではさらに新たな意味合いを持ちます。この場合、それは例えばテーブルでの食事の場面など、私たちが慣れ親しんだそれとは異なった視点を与えます。この木の板の上には、もともとは壁に掛けられていたオブジェクトが床に水平に配置されることになり、観客はそれを上から見下ろすことになります。」
本展のタイトル「Hello Yuko」はダヴィット・フェスルとギャラリー・ディレクターである長瀬夕子という二人の人間のやりとりとコミュニケーションを直接的に指しています。それは、他者と、身近なもの・親密なものとの定まらない境界を示し、また、現在の状況にあって身体的な接触の意味を捉えようとする試みだといいます。
日本語に翻訳していないこのタイトルは、共に在りながらも切り離された空間、つまり、前述の両者にとっての外国語を指すものでもあります。そうした中で、フェスルにとって疎外化やアプロプリエーション(既存の作品を引用の範疇を越えて作品に取り込むこと)は、名前がわかり言語化できるほど身近な、しかし互いに全く異なる素材を合成することで、それらを「他者」そのものにしてしまう、その制作手法に内在しているといえるのではないかといわれます。
ダヴィット・フェスルは1995年生まれで、2020年にチェコ・プラハ美術アカデミーで美術学修士を修了後、現在プラハを拠点に活動しています。一般的には、作家としてはこれから中堅にさしかかる年齢だと思いますが、プラハでは同世代の高い支持を受けているそうです。
自然と人工、日常と非日常、自己と他者などの関係を、視点を転回させることで解きほぐしては再度もつれさせるような作品を、アジア初となるこの貴重な機会にぜひご覧になってはいかがでしょうか。
タイトル | ダヴィット・フェスル 「Hello Yuko」 |
会期 | 2023年7月8日 ~ 7月29日 |
会場 | 小山登美夫ギャラリー天王洲 |
住所 | 140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex I 4F |
Webサイト | http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/fesl2023/ |
開廊時間 | 11:00 ~ 18:00 |
休廊日 | 日・月・祝日 |
料金 | 無料 |