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「あ、共感とかじゃなくて。」 in 東京都現代美術館

東京都現代美術館では、見知らぬ誰かのことを想像する展覧会「あ、共感とかじゃなくて。」が2023年7月15日(土)から11月5日(日)まで開催されています。
「共感」とは、自分以外の誰かの気持ちや経験などを理解する力のことです。個人として優しさや配慮につながり、社会全体を円滑に回すものとして、近年その重要性が強調されていますが、時と場合によっては共感するよう強要されていると感じたり、自分を軽く見られたように感じることもあるでしょう。
本展は、共感をしなくても大丈夫だよ、というメッセージを込めて、家族や友人との人間関係や、自分のアイデンティティを確立する過程に悩むことも多い10代の子どもや若者に向けて企画されています。大人たちにとっても、答えは提示されていなくても、すぐに結論を出さずに「問い=はてな?」を育てる楽しさを体験できる、現代アートならではの時間になることでしょう。

安易に共感しないことは新しい対話や思考を開く
共感は個人や組織、そして教育やビジネスなど社会全体にとっても大切であり、共感によって救われ、ものごとが前に進むこともあるでしょう。しかし、共感だけでは救えないことがあり、共感自体が苦しみになる人もいます。
例えば、誰かから安易に「あなたの気持ちは分かるよ」と言われると、自分の感情を軽く見られたような気がする時があります。「この気持ち分かってくれるよね?」と共感を同調圧力で強要されると違和感を覚える人もいるでしょう。また、自分は共感されていないと思うと疎外感さえ感じます。


共感に意味があるのは、自分の感情や経験は他の人とは別のものだという前提に立っているからです。そのうえで、他の人の視点や考えていることが理解できると大きな力になるのでしょう。
そういう意味で本展は、鑑賞する私たちが、すぐに共感できる作品は少ないかも知れません。でも、「この人は何をしているんだろう?」「あの人は何を考えているんだろう?」という疑問を持ち、考え続けることで、共感しないことは拒絶ではなく、新しい対話や思考の可能性を開くことだと気づけるかも知れません。

10代にも届くように、やさしい言葉の解説とヒント
本展は10代の子どもや若者にも届きやすいように、やさしい言葉の解説がされています。現代アートでは答えではなく問いを提示する作品が多く、その解説も、複雑なものを複雑なまま伝えようとすることが多くて難解に感じる時があります。そこには作家がたくさんのことを考えて作ったものを、単純化したくないという理由があります。
しかし本展では、解説やキャプションが作品を鑑賞するためのガイドラインとして重要視され、小中学生にも読めるように、漢字にふりがながふられ、用語の説明がつけられています。また、それぞれの作家を紹介するパネルを読むと、作品を深く理解するためのヒントが出されていたりもします。

 

知らない人、目の前にいない人について考え、理解しようとする試み
本展では、有川滋男、山本麻紀子、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)、武田力、中島伽耶子の5人のアーティストの作品が紹介されています。彼らの作品は、知らない人、目の前にいない人について考え、理解しようと試みるものです。
明るい自然光の差し込む吹き抜け空間(アトリウム)は、本展を見た後にのんびり休憩したり、自分の時間を過ごせるラウンジとして利用できるよう、ソファやチェアなどが用意されています。ラウンジや全体の会場デザインは、舞台美術家であり、造形教育研究にたずさわり、子どもたち向けのワークショップを主催する長峰麻貴が担当しています。


会場エントランスの天井から下がっているボール型照明は、よく見ていると灯りがついたり消えたりします。これは、参加作家のひとり、渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)の「同じ月を見た日」で協働したメンバーたちが、自分のスマートフォンからON/OFFの操作をしているのです。
入場する時はあまり気になりませんが、鑑賞が終わって、どこかで知らない誰かが灯りをともしていることを想像すると、なぜか、本展を観にきて良かったなという気持ちになります。

【展示構成】

有川滋男
有川滋男は、架空の職業を描写した映像作品《(再)(再)解釈》シリーズから旧作を4作と、本展のために制作した新作を展示しています。旧作は就職説明会や展示会を模した会場インスタレーションによって、映像の登場人物の業務内容や採用情報が紹介されています。どんな仕事か、どんな人々が働いているのか、観る私たちが想像力を働かせるところに意味がありそうです。


新作は《ディープ・リバー》といい、訳すと深川=美術館の立地する地域は木材問屋で栄えた町であることから、木材は二酸化炭素を固定化しているところに着目したそうです。そばのデジタル表示板で示されている「417」は何の数字でしょうか。想像してみてください。

山本麻紀子
山本麻紀子の展示空間は、活動拠点である滋賀県のアトリエが再現されています。そこで「巨人」、「落し物」、「植物」という3つのキーワードを基に思考を巡らせ、日々暮らしているそうです。


中央に配置されている《巨人の歯》(2018年)には、滋賀県で巨人が琵琶湖を掘っている時に、くしゃみをしたとたんに抜けた奥歯が京都の鴨川を流れて、崇仁地区にたどり着いたという物語が設定されています。崇仁地区には被差別の歴史があり、現在、そこで2023年10月に向けて京都市立芸術大学の移転工事が進んでいます。そのために取り壊しになる小学校で、山本が歯の隣で寝た時に見た夢を、そこに生えていた植物で染めて、描いた作品も展示されています。


ちょっとファンタジックでもある世界観に、自分の想像力が充分に追いつかないなと感じた方は、巨人の歯の隣に寝袋が敷かれていますので、ぜひ、歯と添い寝をしてみてください。普段はしないようなことをすることで、気づくこともあるのではないでしょうか。

渡辺篤(アイムヒア プロジェクト)
足かけ3年間のひきこもり経験がある渡辺は、自身の痛みを作品化した《修復のモニュメント「ドア」》(2016年)や、ひきこもりやコロナ禍に孤立を感じる人々と連携したプロジェクトから生まれた作品を出品しています。


黒いカーテンがところどころに引かれたガラスケースの中に展示されている写真は、引きこもりをしている人々から自室を撮影した写真を募集したプロジェクトの時のものです。ひきこもりの方の部屋と聞いただけで、私たちの頭にはいろいろな先入観が浮かびますが、当事者の生き様が映し出されている、その真実を自分の目で確かめてみてください。


引きこもりをしている方と、私たちが出会えるチャンスはそんなに多くはないでしょう。でも、そういう人たちがいる社会に私たちは生きていることを、渡辺の作品を通して少しは想像できるかも知れません。

武田力
武田力の作品は、2つの展示スペースで展開されています。
ひとつは民俗芸能アーカイバーとしてのもので、朽木古屋六斎念仏踊り継承プロジェクトの記録映像で、過疎集落における民俗芸能の復活と継承を手掛けた様子が記録されています。


もうひとつは《教科書カフェ》と題され、1台の軽トラックの周りに小さな椅子とテーブルが配置されています。軽トラックには小学校の教科書が、戦後から平成31年検定のものまで順に並んでいます。私たちは自分が習った教科書を読んで子ども時代に想いをはせることもできますし、いろんな時代のものを手にして比較することもできます。


軽トラックの運転席の後ろには公衆電話があって、それが時々鳴るので受話器を取ってみてください。今の小学5年生の質問を聴くことができ、あなたはそれに答えることができます。答えは録音されて、質問をくれた子どもたちに答えとして返される予定です。答えに窮するような難しい質問もありますし、子どもたちにとっても、同じ質問でも答えがいくつもあることに気づく体験を提供することになるでしょう。

中島伽耶子
中島伽耶子の作品は、ふたつの展示室を斜めに貫くように黄色い壁が立ち上がっています。中島はふだんは古民家などを舞台に作品を発表していますが、近年、美術館などでは「壁」というモチーフを用いることが多いといいます。


壁には黄色い壁紙が貼ってあり、大きく高く立ち上がっていますが、部屋の一部のようにも見えます。表の明るい側だけでなく、裏側の暗い場所の両方を体験してみてください。片側の壁には呼び鈴やのぞき穴があるなど、誰かが壁の向こうにいることを想像できるようなしつらえになっています。こっちのアクションが向こう側にどう受け取られているのかとか、こっちが観ているけどあんまりよく見えないとか、あなたが体験したことを注意深く考えたり、想像してみたりすると楽しいでしょう。


裏側には、映像作品《 i don’t tell anyone what i don’t want to say》があります。「壁」は分断する、あるいは分かりにくくするものでありながら、自分を守ってくれるシェルターのような機能も持っていると中島は語っており、そのあたりの意味を考えながら観ると興味深いと思います。

 

タイトル 「あ、共感とかじゃなくて。」
会期 2023年7月15日(土) ~ 11月5日(日)
会場 東京都現代美術館 企画展示室 B2F
住所 〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
Webサイト https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/empathy/
開館時間 10:00 ~ 18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
※サマーナイトミュージアムの日(7/28、8/4、11、18、25)は10:00 ~ 21:00まで開館延長
休館日 月曜日(9/18、10/9は開館)、9/19、10/10
料金
【当日券】
【当日券】
一般:1,300 円 (1,040円)
大学生・専門学校生・65歳以上:900円 (720円)
中高生:500円 (400円)
小学生以下:無料
料金
【お得な2展セット券】
【お得な2展セット券】「デイヴィッド・ホックニー展」+「あ、共感とかじゃなくて。」
一般:3,200円
大学生・専門学校生・65歳以上:2,100円
中高生:1,250円
備考 ※(  ) 内は20名様以上の団体料金
※本展チケットで「MOTコレクション」もご覧いただけます。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、その付添いの方(2名まで)は無料になります。
2005年4月2日以降生まれの方の観覧料について
※本展は当日に限り再入場が可能です。
※7月21日(金)~8月25日(金)の毎金曜日17:00~21:00はサマーナイトミュージアム割引になります。チケットは当日、美術館チケットカウンターで販売しています。事前にオンラインチケット(日付指定)からも購入頂けます。
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