原田郁 個展「In the Window」 at ART FRONT GALLERY
アートフロントギャラリーでは5年ぶりとなる、原田郁の個展「In the Window」が2023年12月8日(金)から2024年1月21日(日)まで開催されています。原田は近年、アジアを中心とした国内外で、個展開催だけでなく、グループ展やアートフェアにも参加し、活動の場を広げています。本展はこれまで基調となっていた、3Dの仮想世界を2Dの絵画として表現するという独特なコンセプトのもと、新作ではさらに深みを増し、身近な風景も取り込まれています。ギャラリーを飛び出して、代官山の街にまで“拡張”しているかのように見える原田の世界観を楽しみに、訪れてはいかがでしょうか。
交差点越しに始まる「In the Window」
旧山手通りの交差点に立つと、ギャラリーのファサードには木のように見えるカラフルな立体作品が遠目に見えて、心が躍ります。その光景は、いつも見慣れた冬の代官山の街に違う季節が訪れたようで、私たちはすでに“Window”の中にいるように感じられます。
原田郁は、自ら創造する3Dの仮想世界を拡張しながらその世界の場面を切り取り、2Dの絵画として表現するという独特なコンセプトで注目されてきました。仮想と現実の両世界の相互関係をより明快に示す現代の表現方法として捉えながら、一方で、その絵画としての窓のなかに見える世界は、その時々の作家の心情やライフステージを内包しているようです。
立体作品《color trees 2023 sculpture》が見える展示室の奥の壁面には、ギャラリーの外からこの立体作品を見ている構図を描いた《WINDOW 2023 #002》が配置され、来た時に横断歩道越しに見たギャラリーのファサードの光景と重なり、なんだか不思議な気持ちになります。
人を表現したいが起点になっている立体作品
《color trees 2023 sculpture》は木がモチーフになっていますが、実際にはいろんなチャレンジや再出発しようとする人やその人生を表現したいというモチベーションから生まれたと言います。作品を眺めていると、躍動的で動きのある人のエネルギーが感じられます。
この立体作品がモチーフになって描かれた抽象画が《color trees 2023 #006》です。本展のオープニングレセプションで原田は、これは不安と希望を抱えながら過ごしたコロナ禍というタイミングに、何か突破したいという気持ちがあって、描かざるをえなかったと述べています。
また、その時期に好きな宮沢賢治の有名な散文詩を読んで、気分的にしっくりときたといい、ちょっと散文詩的な取り留めもない構図で描いてみることで自分の心境を表現してみたといいます。
それを聞いて思い出されるのは、宮沢賢治は出版された自分の詩集を「詩集」と言わず、「心象スケッチ」と呼んでいたことです。宮沢の研究家の論考によると、「心象スケッチ」とは“ただ単に一人の人間の心のうちを描く”という意味ではなく、“心象とは、宇宙や無限の時間につながるものであり、人間の心象を描くということは、個人的なものを超えて普遍的なものをスケッチすること”だといいます。(注)
現に原田はコロナ禍の2021年から2022年にかけて《心象スケッチ The Studio in the Multi-layered World》(NTTインターコミュニケーション・センター [ICC])という作品を発表しています。原田が現代における多次元空間を行き来しながら制作活動を行うのは、単なる作品の手法の為だけでなく、彼女が次元や時間といった広大な概念に対して開かれた姿勢を持っていることを示唆しています。
本展に出品された作品のタイトルには「心象スケッチ」という言葉は見当たりませんが、宮沢賢治が言うような広がりと深みのある世界観が“Window”の中にあるのは間違いないように感じられます。
観かたが分かると楽しめる世界観
もうひとつの展示室では、六本木アートナイト2022で発表された作品を別角度から捉えなおしたとも言える作品群が展開されています。正面の平面作品《WINDOW 2023 #001》の部屋に置いてあった立体作品が実際に作品の前に配置され、また部屋の壁にかかっていた絵画も展示されています。
こうした仮想空間に描かかれたモノが現実に現れ、かつそれが再び描かれるという入れ子の関係性に発展する展開は、他の作家でやっている例はほとんどないので観る私たちは慣れないですが、一度、観かたが分かるとその世界観を楽しむことができるでしょう。
本展の作品全体を見ても、コンピューターグラフィック独特の曖昧さのないフォルムが描かれているにも関わらず、愛らしく、温かみのある情緒性が感じられます。あなたも小さな不思議と、深みのある“Window”の世界を体験しに訪れてはいかがでしょうか。
注(参照先):『宮沢賢治の「心象のスケッチ」とは』 日本大学芸術学部教授 山下聖美 『NHK100分de名著 宮沢賢治スペシャル』より
タイトル | 原田郁 個展「In the Window」 |
会期 | 2023年12月8日(金)~ 2024年1月21日(日) |
会場 | ART FRONT GALLERY |
住所 | 東京都渋谷区猿楽町 29-18 ヒルサイドテラス A棟 |
Webサイト | https://artfrontgallery.com/exhibition/archive/2023_10/4890.html |
開廊時間 | 水・木・金 12:00~19:00 土・日 11:00~17:00 |
休廊日 | 月曜日、火曜日、および冬季休廊(12月25日~1月5日) |
観覧料 | 無料 |