石内都　初めての東京は銀座だった in 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリーでは、日本を代表する写真家として国内外で活躍する石内都の個展「石内都　初めての東京は銀座だった」が2023年8月29日（火）から10月15日（日）まで開催されています。
資生堂の企業文化誌『花椿』のウェブ版『ウェブ花椿』では、銀座の過去と現在について考える「現代銀座考」の第2章「銀座バラード（連載は2022年6月から2023年5月まで）」が好評を博しました。本展は、この「銀座バラード」のために石内が撮り下ろした写真から、未発表のものも含む約30点のオリジナルプリントを紹介します。モノの記憶を映し出す、といわれる石内の写真作品から、銀座の街、そして銀座とあなたの、どんな記憶が引き出されるでしょうか。

銀座は資生堂の創業の地であり、常に最先端のモノや人が集まるモダンな街として注目され、伝統を継承しつつも新しい文化を取り入れながら発展してきた街です。本展は、こうした銀座の文化を作ってきたお店を象徴する品々に加え、石内の中で銀座での記憶と結びつくモノの写真が数点がグループになり、メインのスペースにシンプルに展示されています。
作品は、資生堂の初めての本格的な香水「香水 花椿」から始まり、銀座寿司幸の蛸引き包丁、ミタケボタンのアンティークボタン、銀座天一の天ぷらなどなど、私たちが訪れたり、触れたりしたことがないくても、銀座の文化や魅力を感じさせるものばかりです。
また奥のスペースでは、「銀座バラード」で文を担当した森岡督行と石内都の対談映像を観ることができます。

石内都は1947年に群馬県桐生市で生まれ、神奈川県横須賀市で育ちました。石内が最初に銀座を訪れたのは、15才の春のことだそうです。それは、当時流行っていたジャズ喫茶に連れて行ってもらうためで、その後、映画鑑賞や美大時代に画材の購入のため足を運ぶようになります。そして、写真家としてのスタートとなった初期の三部作、「絶唱、横須賀ストーリー」（1977年）、「APARTMENT」（1978年）、「連夜の街」（1980年）の個展を開催したのも銀座でした。

石内はこの「APARTMENT」で第4回木村伊兵衛写真賞を受賞。その後、2005年に母の遺品を撮影した「Mother’s 2000-2005 未来の刻印」で第51回ヴェネチア・ビエンナーレの日本代表に選出されてから世界的に注目を集めます。2007年より現在まで続く、原爆で亡くなった人々の遺品を撮影した「ひろしま」は国際的にも評価が高く、2014年には、写真界のノーベル賞と言われるハッセルブラッド国際写真賞を受賞しています。石内は銀座に魅せられ、銀座でキャリアをスタートさせ、世界を舞台に活躍しているように思えます。

写真家として時を重ねるうちに、石内の写真についての考え方は変化してきたといいます。初期の頃には抵抗を感じていた記録・伝達という写真の役割について、今はそれも受け容れつつ、写真に対してもっと自由でいたいと思うようになったそうです。今回、そのような思いで石内が撮影した品々から、私たちが覚えていたい、忘れたくないと思う銀座にまつわる記憶や人との出会い、または憧れなどとつながってくるのではないでしょうか。そして、改めて銀座の魅力に気づく機会となるでしょう。