釘町彰 : From the Land of Men at ART FRONT GALLERY

アートフロントギャラリーでは、釘町彰の個展「From the Land of Men」が2024年2月2日（金）から、2月26日（月）以降はRoom 1のみ3月10日（日）まで期間を延長して開催されています。本展は、パリ在住の釘町彰にとって同ギャラリーでは初個展となり、恵比寿映像祭と連動し、映像と絵画で構成されるインスタレーションを中心とした展示で構成されています。和紙と天然岩絵具を使い、「光、時間、距離」をコンセプトに風景を描く釘町の作品世界は、静謐で、作品の前に立っていると吸い込まれていきそうです。実際に目に見えるだけではない、何かを感じる独特のアート体験を楽しみに、ぜひ、お出かけください。

 

作家はなぜこの景色を切り取ったのか？

ギャラリーに足を踏み入れると、霧のかかったような、荒涼とした感じも受けるモノトーンの風景が展開されています。平面で表現された風景は、写真だと見間違えるくらい細密かつリアルで、私たちはすぐに何がそこに描かれているかを認識できるでしょう。
しかし、作家はなぜこの景色を切り取ったのか？そこに想いを馳せていくと、ひとつの作品の前で限りなく時間が過ぎていくような気がします。

惑星の記憶をあぶりだす風景

釘町にとって、風景は人間の立ち位置を再認識する「場」であり、「世界と人間の関係を問う装置」だといいます。近作のAirシリーズは、これまでの作品に見られた一瞬の光と影を画面に定着させるというよりも、何千年何万年という人間が推し量ることができる尺度を超えた太古の時代を経てきた岩肌や氷河、そしてそこに浸透する大気に封じ込められたこの惑星の記憶をあぶり出す、という作家の意欲が感じられます。

また、あぶり出されたものが必ずしも具体的に表現されているとは限りません。本来、あるはずの何かの不在を通じて、その存在を感じさせる意図の作品もいくつかあります。それが吸い込まれるように、ひとつの作品に長い時間とどまらせる理由でしょうし、そこで私たちはその存在の本質的な部分に触れられる気がします。

新たな出発点と位置づけられた本展

釘町彰（1968年～）は横浜に生まれ、幼少期をベルギーで過ごし、多摩美術大学院修了しました。その後、パリ第８大学でメディアアートや作品の基盤となる哲学を学んだ後は制作活動に専念しています。学生時代はビル・ヴィオラのビデオアートやインタラクティブアートを研究し、またフランスの思想家レヴィ=ストロースやジル・ドゥルーズ、そして鈴木大拙の禅の思想などに影響を受けたといいます。映像であっても絵画であっても、「作品は常にプロセスであり、作る人も観る人も、常にプロセスの状況に居続ける」という点で一貫した作品を作り続けています。

また本展は、アートフロントギャラリーにおける釘町の初個展ですが、これまで百貨店の画廊での発表が多かった作家にとって、新たな出発点と位置づけられています。
その表れとして分かりやすい点は、絵画と映像が組み合わせられたインスタレーションでしょう。2か所のスクリーンに投影される映像と、大型の最新作とが様々な時間軸に沿って交錯し、その背後にある何か、或いはその「何か」の不在を発信していきます。

黒から立ち上がる光と独特の空気感

独特な空気感をまとった釘町の作品の、その制作プロセスもまた独特です。作家はまず、揉んだ和紙にまず墨を5回程度塗り、黒い下地を作ります。
そして、その上に胡粉で何層もの薄い光の層を塗り重ねていくと、その結果、単なる白でなく、不透明感を呈しながらも背景としての不思議な奥行を備え、永遠と一瞬の狭間ともいうべき空気感が立ち上がっていきます。釘町はそこに全行程の90%の時間をかけるといいます。

その下地からさらに、岩絵具によってモティーフを上から描きこめば描きこむほど、かえってリアリティが無くなっていくといいます。それを逆手に取り、絵具をシルエットとして捉え、物体が無いこと、不在の絵画を作りたいと考えるようになり、この空虚さが実は映像と親和性のあることに釘町は気づきました。そして流れる映像と、いわゆる「引きの美学」である岩絵具による絵画とを組み合わせる試みに着手し、それが今回の映像と平面とのインスタレーションへと繋がっています。

和紙と天然岩絵具を使い、「光、時間、距離」をコンセプトに風景を描く釘町の現在地が、新しい出発点としてギャラリー全体で表現されています。精選された平面作品と映像による独特な世界観とアート体験を楽しみに、お出かけしてはいかがでしょうか。

タイトル	釘町彰 : From the Land of Men
会期	2024年2月2日（金）～ 3月10日（日）※2月25日以降はRoom1のみの公開
会場	ART FRONT GALLERY
住所	東京都渋谷区猿楽町 29－18 ヒルサイドテラス A棟
Webサイト	https://www.artfrontgallery.com/exhibition/archive/2023_11/4898.html
開廊時間	水・木・金　12：00～19：00 土・日および2月23日　11：00～17：00
休廊日	月曜日、火曜日
観覧料	無料