わたしからあなたへ、あなたからわたしへ レター/アート/プロジェクト「とどく」展 in 東京都渋谷公園通りギャラリー
東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中の「レター/アート/プロジェクト『とどく』」展では、2020年に始まり、現在も取り組まれているプロジェクトの集大成となる作品が展示されています。本プロジェクトでは現代アートの分野で活躍する3名のアーティストが、多様な背景を持つ人々と協働しながら、コミュニケーションの様々な形を模索しています。
『とどく』とは、ものや言葉などが自分のもとに来て、今、そこにある状態です。まだ中身は読んでいないし、とどいたことがうれしいのか、困惑気味なのかも分かりません。手紙やはがきやビデオレターなど、直接顔を合わせることのないメディアを通じて、アートのレターが“届いた”時に何が起ったのか?その瞬間を想像したり、感じたりしながら観ていると心から楽しくなるアート体験になるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大以降、私たちは、それ以前とは異なる新たな日常を生きています。他者との交流は、SNSやZoomなどのオンラインツールが頻繁に使用され、簡単に遠方の人と繋がることが当たり前となりました。そんな世の中になった今、あえて「手紙」などの時間がかかる手段で多様なバックグラウンドの人たちとアーティストがコミュケーションを取り合い、共同でアート作品を作り上げていくアートプロジェクトが2020年12月に立ち上がりました。
ゲストディレクター/キュレーターにArt Center Ongoingの代表である小川希氏が、また、アーティストには大木裕之氏、齋藤春佳氏、田中義樹氏が招聘され、2023年3月まで、それぞれの交流が続きます。
本展は公園通りに面する交流スペースと、展示室1と2の3か所で、3名の作品が融合するように配置されています。また、廊下にも手紙の文面の一部がコラージュされています。
【アーティストと作品】
大木裕之(映像作家、現代美術家)
大木氏の出品は、「ひきこもり」の子どもや若者をサポートする「ピアサポートネットしぶや」の利用者たちとの交流から生まれた映像とインスタレーションです。映像を撮ることで、生活になんらかの変化が生じるのではないかと考え、「ひきこもり」の若者たちにビデオレターを送ることから最初は始まったとのこと。
そうして約2年半の間に撮りためた映像に加え、「ひきこもり」の若者たちから送られてきた映像も交えてインスタレーションが構成されています。「つながらない、伝えられない、閉じてしまうことをコンプレックスにすらできていない・・・」など、映像から流れてくる音声に耳を傾けていると、なんだか知らないうちに共感がわいてきて、自分や社会の問題との関りを感じてしまいます。
齋藤春佳(美術作家)
齋藤氏の出品は絵画、陶、映像です。何の予備知識もなく作品を観ていると、ふんわりとした色彩感の中に、表情豊かな手のモチーフがよく登場することに気づきます。齋藤氏のプロジェクトは、ろうの学生たちと夢の中では同じ共通の認識、場所、瞬間が掴めるときがあるのでは、というところから手紙のやりとりを始めたそうです。
手紙の内容は「言葉の廊下」や絵画の中にも断片的に記されていますが、とどけて、受け取ったモノやコトがどんな風に繋がったのかを想像するのが楽しくもあります。齋藤氏にとって初めての試みとなる陶(焼き物)作品は、通りに面した窓を背景に配置されており、無関心な顔で街ゆく人の往来とコントラストをなしているようで印象的でした。
田中義樹(美術作家)
田中氏の出品は彫刻と、お笑いコンビ“そんたくズ”としての映像とライブステージです。田中氏は児童養護施設子供の家の子どもたちと、「何か自分も新しいこと知りたいな」「今、子どもたちは何を考えているのだろう?」という思いで手紙の交換を始めました。木材や段ボールを素材に制作された山羊をモチーフとした彫刻作品は、童謡の「やぎさんゆうびん」を想起させるユーモラスなもので、子どもの目線に立ったようにも感じます。
しかし、会場内のインタビュー映像で、サミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を下敷きに、子どもたちへ文化を引き継ぐことまで考えていることを田中氏が語られているのを観ると、作品からますますポジティブなエネルギーを感じることができるでしょう。
※お笑いコンビ“そんたくズ”による舞台「山羊は手紙を待ちながら」の上演スケジュールは公式Webサイトでご確認ください。
タイトル | わたしからあなたへ、あなたからわたしへ レター/アート/プロジェクト「とどく」展 |
会期 | 2022年10月8日(土)~ 12月18日(日) |
会場 | 東京都渋谷公園通りギャラリー |
住所 | 〒150-0041 東京都渋谷区神南1-19-8 渋谷区立勤労福祉会館 1F |
Webサイト | https://inclusion-art.jp/archive/exhibition/2022/20221008-155.html |
開館時間 | 11時~19時 |
休館日 | 月曜日 |
料金 | 無料 |