サム・フォールズ at 小山登美夫ギャラリー六本木
この度小山登美夫ギャラリーでは、日本での初個展となるサム・フォールズ展が2024年2月3日(土)から3月9日(土)まで開催されています。地面に置いたキャンバスの上に、染料と、そこに生えている草花や枝などの植物を一緒に配して放置し、自然や光、時間、偶然性をもとにしたフォールズの制作プロセスはたいへん特徴的です。そのときどきの大気の状況により染料が変化していき、画面に立ち現われる有機的な自然の輪郭は、生と死の循環といった何か大きくもあり、温かみのあるものを感じさせます。その独特な表現を体験しに訪れてはいかがでしょうか。
生命や周辺の環境が焼きつけられたような作品
ギャラリーに展開されたフォールズの作品には、かつて自然の中を生き抜いてきた草花の輪郭が残され、その生命や周辺の環境がそのまま焼きつけられたような印象を受けます。
彼の作品で記憶に新しいのは虎ノ門ヒルズパブリックアートと、その原案として制作された《無題》(2021年)が森美術館で2023年3月から開催された「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」の理科のセクションで紹介されたことではないでしょうか。この時の作品は446×869cmという大スケールで表現されており、自然の営みを感じさせました。本展の作品ではより繊細で、作家の多様な視点を感じます。
最初期の写真の露光の手法とも通じる独特な手法
サム・フォールズ(1984年~)は、アメリカバーモント州で育ち、現在はニューヨーク市内およびハドソンバレーを拠点に制作活動を行っています。アメリカのリード大学で物理学、言語学、哲学などを学んだ後、2010年にICPバード芸術研究課程を修了しました。
また、フォールズの手法は独特です。彼は屋外に置かれたキャンパスの上に、自らの手で草花と染料を配置し、そのまま自然にゆだねます。キャンバスは、日が落ちた後は月の光に照らされ、露がつき、時に雨、風もはげしく吹き荒み、また日が昇り光を浴び乾かされます。その後植物を取り除きますが、雨や雪、霧、朝露など、そのときどきの大気の状況により染料も変化します。
こうした独特の手法は、フォールズのバックグラウンドのひとつである写真制作の基本概念、時間・再現・露光という「フォトグラム」のような最初期の写真の手法とも通じているようです。
天気によって決められる色や美しさ
作品の構成はフォールズによって作り出されますが、色や美しさは天気によって決められます。初春の雪のおだやかさから、春から夏に向かう兆し、夏の日差しの強さ、その時々の季節の変化や状況が色彩に反映され、よく見ると作家や動物の足跡、虫の這った跡がついていたり、時の経過も内包しているようです。それはいわばアートと自然の共作でもあり、その変化は生命、人生そのものであるともいえるでしょう。
また陶フレームの写真作品の制作では、フォールズはまずインスタントフォトで咲いている花を撮影します。その後何週間かのちに枯れたその花をつみ取り、それを成形した陶板に並べ押し付け、焼き、植物は灰になり、その形の跡が固まります。写真は花の盛りは過ぎたことを表し、実際の花は陶フレームの中に埋められることで、生命の儚さと自然のサイクルを多層的に表現しています。また写真は現在では生産発売中止となっているFUJIの大判インスタントフィルムを使用することで、人間の絶え間ない消費をも暗喩しています。
日本の文化も背景にある作品
フォールズは学生時代から継続して松尾芭蕉の俳句に感銘を受け、作品にも大きな影響を与えているといいます。作品タイトル「Drape the Dust of this World in Droplets of Dew」は芭蕉の句「露とくとく心みに浮世すゝがばや」からとられており、清水の音が聞こえてきそうな雰囲気があります。この他、「Spring Snow」は三島由紀夫の小説『春の雪』からの引用になっています。
近年、おおぜいの外国人観光客が日本中を旅するようになり、私たちが忘れかけていた日本文化の価値を思い出させてくれる光景をニュースなどでよく目にします。フォールズの表現する有機的な自然の輪郭と生と死の循環のメタファーは、どこか日本的な自然のとらえ方に通じているところがありそうです。またそれが、作品の前に立つと心が落ち着く理由かもしれません。
タイトル | サム・フォールズ |
会期 | 2024年2月3日(土)~ 2024年3月9日(土) |
会場 | 小山登美夫ギャラリー六本木 |
住所 | 東京都港区六本木6-5-24 complex665 2F |
Webサイト | http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/falls2024/ |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日・月・祝日 |
観覧料 | 無料 |