笹井青依 上へむかって流れる水 in ANDO GALLERY
笹井青依は、学生の頃から独創的な木のモチーフを描き続けてきましたが、ここアンドーギャラリーで2019年に開かれた「Lilac in Harbin」ではライラックの花が中心でした。そして今回の「上へむかって流れる水」では、さらに大きな変化が感じられます。
回顧展で作風の変遷を一望するのもよいですが、今、あなたが感じている人や時代の変化と、作品を通じて作家の葛藤や変容と共鳴できるのは、現代を生きる笹井青依のような作家の個展ならではの楽しさでしょう。
[概要]
展示スペースに進んでまず気づくことは、抽象的な要素が増えたことです。もともと、かつて描かれていた木やライラックをそのまま植物として観てよいのか?という疑問はありましたが、今回は明らかに抽象画と思えるものが大半を占めています。
しかしながらスペースの中央に立ち、以前からあった“ゆらぎ”のある、あたたかで深みのあるパステルトーンに包まれていると、笹井が描こうとしている根幹の部分は変わらないのではないかという気もしてきます。
個展のタイトルにもなっている「上へむかって流れる水」は、金色に輝く、渓流のような流れが、まるで風になびく実った稲穂のように、画面右下から左上に伸びていきます。強い生命力と同時に癒しも感じるので、作品の前から立ち去りがたい気分になります。
過去のインタビューで、笹井青依は描こうとする動機を「自分と外の世界の間にあるもの、境界を描く」ことを挙げていました。描かれていた木はすべて庭や公園などに植えられた、一定の境界を表すものがモデルとなっていました。しかしながら、それらの木はその気になればすり抜けたり、飛び越えたりできる、そういう曖昧さを残したさりげない線引きだったと言います。それが近年ではより強い線引きになってしまっているように感じ、そこに違和感を覚えていたそうです。またプライベートでのできごともあって、かつて祖父がいた面影を求めてハルピンを訪れた時に、前回のモデルとなったライラックに出会っています。
今回の作品も同じように、そうした笹井自身の葛藤が背景にあり、それに加えてCOVID-19により外部や他人との接触が極端に減ったことも、自己の内面に向かわせる力がより強くなったり、日常の些細なことに気がつきやすくなったりなど、多少なりとも影響しているように感じます。
出品された9点の内、7点はカンバスに油彩で描かれたものです。笹井は重ねる回数は少なく、薄く塗りながらも深みのある描画を目指していると言います。そうした淡いコントラストで“ゆらぎ”のある心地よい世界は、やはり実際に観ないと分からないでしょう。
また、より自分の想いや感覚と一致するものを求めて、どこか違うところに進もうとしている作家の姿を感じるためには、作品の前に立つしか方法はありません。
今回も作品のモデルとなった場所や風景はありますが、それは恐らく誰にとっても意外な場所となるでしょう。ギャラリーで作品をご覧になって、ぜひギャラリースタッフの方に尋ねてみてください。さらに意外な発見が作品の中からできるかも知れません。
タイトル | 笹井青依 上へむかって流れる水 |
会期 | 2021年3月2日(火)~ 4月24日(日) |
会場 | ANDO GALLERY(アンドーギャラリー) |
住所 | 〒135-0023 東京都江東区平野3-3-6 |
Webサイト | http://www.andogallery.co.jp |
開廊時間 | 11:00 ~ 19:00 |
休廊日 | 日・月・祝日休 |
料金 | 無料 |
備考 | 新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、入廊時に以下の手続きがあります。 ・来廊者様の検温(37.5℃以上の場合は入廊をお断りすることがあります) ・来廊者様の連絡先の記入 |