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​須藤由希子 「旅 ─ チューリッヒ」 in TOMIO KOYAMA GALLERY TENNOZ

小山登美夫ギャラリー天王洲では、須藤由希子の個展「旅 ─ チューリッヒ」が2023年5月27日(土)から6月17日(土)まで開催されています。須藤は、いままで主に日本の住宅街をモチーフに描いてきましたが、本展の新作では、2019年にスイスで個展をした際にチューリッヒの街を散策し、人の営みと自然が良いバランスを保っている風景に心を奪われ、癒された場所が描かれています。その時の印象や心の動きがそのまま伝わってくるような須藤の作品の世界観は、私たちの心もやわらかくし、記憶の中の、いつかどこかのイメージがよみがえってくる。そんな心地よい、ほどよい刺激も感じられるアート体験になるでしょう。

ギャラリースペースに入ると、展示された作品には何が描かれているのか、直感的に分かるような気がして、あなたはすでにその時点でリラックスできるでしょう。それは具象的でモチーフが何かをすぐに認識できるという意味ではありません。
線画でとらえられた陰影がない平坦な景色の中には、ところどころ色鉛筆や水彩でやわらかく着彩されており、正確なパースペクティブの中にほのかなゆらぎが感じられ、須藤が出会った時のときめきや心の高揚感がダイレクトに伝わってくるからです。

須藤由希子は1978年に神奈川県生まれました。2001年に多摩美術大学美術学部デザイン学科グラフィックデザイン専攻卒業し、現在、神奈川県で制作活動を行なっています。
須藤は古い家や庭、駐車場に生えた雑草、小学校のプールなど、道を歩いて出会い、心を強く掴まれた日常の美しい景色を緻密に描いてきました。
須藤自身が「絵は心を写すもの」「(自分が生まれ育ち、生活する場所の中で)美しいものを探すことは今現在の状況を認め、愛すること」と語るように、作品において表現と作家の心、アイデンティティが密接につながることは大きな特徴といえるでしょう。

画材も須藤自身が一番しっくりくる鉛筆を使用しています。鉛筆は、少し青みがかった色、質感、こすった感じ、消え残る様子、細部をしっかりと描きたいという須藤の欲望をかなえてくれる画材です。鉛筆の色は須藤が灰色のコンクリートの住宅街で生まれ育ったこと、また線画であることは、幼い時から馴染んだ漫画やアニメの影響とつながるといいます。
各々のモチーフを個別に克明にとらえ、陰影がない平坦な景色の組み合わせにより、パースペクティブは独特なゆらぎと絶妙なリアリティをかもしだしています。ところどころ水彩で着彩された部分は、須藤の印象に残った箇所であり、そのモノクロとカラーの両立は、観る者の想像力をより駆り立てるでしょう。

最後に須藤本人の言葉を引用します。この機会にぜひご覧ください。

◆ ◆ ◆

あらゆる国のあらゆる場所は、そこに住む人にとって故郷です。
「私」という主語をとってしまえば故郷は世界中に広がると考え、今回はチューリッヒの素晴らしい日常風景を描かせていただきました。

チューリッヒの街は大きな駅のすぐ隣に緑豊かな公園があったり、
大きな道路が交差しているジャンクションのすぐ近くの川で人々がのんびりと水浴をしていたりと、
先進的な生活と自然がとても近しいように思いました。仕事で疲れたら、すぐに癒して、また仕事に集中できそうだなと。自然にふれると心がいつの間にか落ち着き、頭が冴えているのを感じます。

自分の好きなものを強く意識することで新たな素晴らしいものを作り出していくことに繋がると思っています。

古い家にはその人が暮らした歴史があります。自分や家族への愛、幸せや癒し、快適さなどが積み重ねられてきたことは、他の人から見ても感じることができます。

また雑草は、あるがままに自分らしく生きている姿が感動的に美しく見えました。

しかし、描き終わった作品をみると、ちょっとこわかったり、苦しそうな空気を感じて驚きました。
私はこのシリーズに携わっている時期、実生活において心の苦しくなるようなことが多かったので、心癒される景色を選び、描いたのだなと気づきました。
まさに、絵は自分そのものだなと思いました。

これらの作品を見てくださる方々にとっては、またそれぞれにご自分の心を反映して感じていただけるのだろうと思います。

須藤由希子

◆ ◆ ◆

タイトル ​須藤由希子
「旅 ─ チューリッヒ」
会期 2023年5月27日 ~ 6月17日
会場 小山登美夫ギャラリー天王洲
住所 140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex I 4F
Webサイト http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/suto2023/
開廊時間 11:00 ~ 18:00
休廊日 日・月・祝日
料金 無料