重要文化財指定記念特別展 鈴木其一・夏秋渓流図屏風 in 根津美術館
2020年に、鈴木其一(1796~1858)の作品としては初めて重要文化財に指定された《夏秋渓流図屏風》誕生の秘密を探る展覧会が根津美術館で開催されています。
其一は江戸で、一世紀前の京都で活躍した尾形光琳(1658~1716)を顕彰し、「江戸琳派」の祖となった酒井抱一(1761~1828)の高弟です。その作品の多くは江戸琳派風に収まっていますが、この《夏秋渓流図屏風》だけはそこから逸脱した異色作であり、かつ其一の代表作と言われています。なぜ、其一はこの作品を描くに至ったのか?考えるヒントが展示作品やキャプションに散りばめられているので、それを読み解いていけば、たいへん楽しいアート体験になるでしょう。
師・抱一から受け継ぐ光琳イメージ
《夏秋渓流図屏風》誕生の秘密を探る本展の序盤は、其一の画業のベースとなっている琳派の作品を中心に紹介されています。冒頭では江戸絵画の作家たちが描き継いできた檜を描いた作品があり、特に《檜蔭鳴蝉図(谷文晁筆)》は檜に止まる一匹の蝉を描いたもので、その繊細な描写は《夏秋渓流図屏風》に通じるものがあります。
《光琳百図》は1815年に光琳の百回忌にお寺で光琳画を集めた展覧会が開かれ、その時に抱一が縮図を版木に掘って発行したものです。2度版木が焼失したものの、その都度、其一が復元しているとされており、彼にとっていかに大切なものだったかが覗えます。
川と滝、そして古画に魅せられた西国の旅
天保4 年(1833)に其一が西日本を旅した時の《癸巳西遊日記》にも、《夏秋渓流図屏風》につながるヒントがたくさん記されています。平地である関東で過ごしてきた其一が渓流や滝に感動し、中国の古画や先達の作品を鑑賞して大いに刺激を受けたことが想像できます。
《夏秋渓流図屏風》は展示室1の奥に展示され、右には重要文化財《保津川図屏風(円山応挙筆)》が、左には《花木渓流図屏風(山本素軒筆)》が配されています。少し離れた位置でこの3作品を眺めると、左右の作品が強く《夏秋渓流図屏風》とつながっていると感じられます。
《夏秋渓流図屏風》には渓流が流れる檜の林が描かれ、右隻は山百合の咲く夏の景、左隻は桜の葉が赤く染まる秋の景となっています。《保津川図屏風》には渓流の前景化に、《花木渓流図屏風》には構図と表現のベースに共通点が見られますが、鮮やかな群青に金泥線が走る渓流をはじめとする強い色彩感や、写実性と意匠性が融合した明晰な細部描写は其一独自の創造力によるものです。
展示室の1と2を行き来して其一の心情に想いをはせる
展示室2には江戸琳派の流れに沿った其一の作品が紹介されています。写実的なものや意匠性にあふれるものなど、多彩な筆遣いが見られます。この展示室2の作品を見てから、改めて《夏秋渓流図屏風》を見ると、本作がいかに異色作であることがよく分かります。
《夏秋渓流図屏風》は其一の画業の中で、彼自身にとってどういう位置づけの作品だったのか、たいへん興味深いところです。何か新しいものを目指したのか、単に本当に描きたかったものを描いただけなのか、いろいろな可能性を考えながら展示室の1と2を何度も往復してしまう楽しい展覧会です。
なお、《癸巳西遊日記》のコーナーに『「夏秋渓流図屏風」をめぐるフローチャート』が展示されています。このチャートを参考にすると、本展の企画意図がより分かりやすく、さらに興味が深まるでしょう。
※期間中、一部の作品の展示替えがあります。詳しくはこちらの展示品リスト(pdf)でご確認ください。
タイトル | 重要文化財指定記念特別展 鈴木其一・夏秋渓流図屏風 |
会期 | 2021年11月3日(水・祝)~12月19日(日) |
会場 | 根津美術館 展示室1・2 |
住所 | 〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1 |
Webサイト | https://www.nezu-muse.or.jp |
開館時間 | 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで) |
休館日 | 毎週月曜日 |
料金 | オンライン日時指定予約 一般1500円 学生1200円 *障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料 |
チケット情報 | 日時指定予約は、こちらから→https://www.nezu-muse.or.jp/jp/timed-entry-reservation/ |