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うえののそこから「はじまり、はじまり」 荒木珠奈 展 in 東京都美術館

東京都美術館では、企画展『うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈展』が7月22日(土)から10月9日(月・祝)まで開催されています。ニューヨークを拠点に幅広い表現活動を続けている荒木珠奈(1970~)は、へんてこなかわいらしさとゾクッとする感覚が混ざり合った世界観が魅力の作家であり、本展が作家にとって初めての回顧展となります。
私たちにとっては、荒木の作品を通じて国や地域を越えて現代社会が共通して抱えるテーマについて思いを寄せた上で、日々の暮らしのかけがえのなさや、生きていくこと自体が持つポジティブな力を見つめ直す機会になるでしょう。
参加型作品や体感型展示もありますので大人はもちろん、子ども連れでも充分に楽しめる、ちょっと怖くて懐かしい、不思議な展覧会にお出かけしてみてはいかがでしょうか。

“地の底”に広がる不思議な異世界
地下の展覧会会場へ向かうエスカレータに乗ると、すでに暗がりの中にいろいろな色がきらめき、何やら怪しい雰囲気にわくわくしてきます。「上野の記憶」に着想を得た大型インスタレーションの中央に位置する造形が目に入り、興味をそそられます。そのまま最初の章に進むと、荒木が20代で留学し、「明るさと暗さ」、「生と死」が共存する独特の文化に魅了されたというメキシコにちなんだ作品が展開され、すっかり不思議な異世界を訪れた気分になります。

荒木珠奈の初めての回顧展
荒木はこれまで光と影、昔話、家や舟といった物語を想起させるようなモチーフを用いて、私たちの心の底にある懐かしい感覚や感情、記憶を揺さぶりながら、日常を越えた非日常の世界へと誘う作品を発表してきました。
本展は、これまでに国内外で発表された詩情豊かな版画や立体作品をはじめ、2022年に東京都美術館のプログラムとして、ウクライナなどさまざまな国のルーツを持つこどもたちと荒木が共同制作したインスタレーションやメキシコの先住民と共同制作した絵本、鑑賞者参加型のインスタレーションなど、初期作品から近作までの約90点以上に加え、開催地である「上野の記憶」に着想を得た大型インスタレーションの新作を地下3階で展開しています。

いろんな記憶が土地にしみこんでいる上野が作品に
この「上野の記憶」に着想を得た新作を紹介するのは、「現代作家」を切り口とした東京都美術館での企画展では初めての試みとのこと。美術館の「そこ(底)」とも言える天井高10mの地下展示室に、土地の記憶が造形物と化したかのようです。
壁や床に映し出されている映像を見ていると日本初の公立美術館である東京都美術館自身の存在はもちろんのこと、幕末に歴史の舞台になったことや、動物園などで一般市民の親子で過ごす時間があったりと、人々のいろんな記憶が土地にしみこんでいることがイメージできます。
中央の「中空のかご」と呼ばれる造形物の中に入ると、日常と非日常の境界を行き来するような、不思議な旅の気分が味わえます。

 

【展示構成】

1章 旅のはじまり
初期の作品を皮切りに、旅へのあこがれや旅の拠点となる家をモチーフにした版画や、メキシコとの出会いから生まれた作品群が展示されています。天井から吊るされた“小さな家”から漏れ出る赤や黄、緑など色とりどりの光が目を引く《Caos poetico (詩的な混沌)》 (2005年)は、電柱から無断で電線を引き、家や屋台の灯りに使っていたメキシコの人々のたくましい暮らしにインスピレーションを得たインスタレーションです。私たちの鑑賞をサポートしてくれる「展覧会ファシリテータ」の勧めにしがたって、あなたも自分の好きな“小さな家”を吊るして、灯りをともしてみてください。

2章 柔らかな灯りに潜む闇
この章では2つのインスタレーション作品が組み合わされて、光と闇が共存する空間が作られています。幼い頃に住んでいた団地から着想を得た《うち》(1999年)では、鑑賞者がカギをかけられた扉を開けると、ほんのりと灯りがともり、温かな家族の物語が見えてきます。その《うち》の壁の裏側では、東日本大震災による原子力発電所の事故をきっかけに、当時の目には見えない不安感を視覚化した《見えない》(2011年)が展開されています。《うち》で温かな灯をともした直後だけにショッキングですし、安心な暮らしとそれを一変させる災害は常に隣り合わせであることを実感します。

3章 物語の世界へようこそ
本章では「物語の世界」が広がっています。《人形の劇場》(2003年)のようなステージや、日常に突如現れる異世界である「サーカス」の芸人たち、異なる世界をつなぐ「舟」や「虹」をモチーフとした版画などに加え、人形劇の映像やメキシコのマヤ系先住民をメンバーとする版画工房「レニャテーロス工房」と共同して作った絵本などが展示され、華やかでワクワクすると同時に寂しくもある物語の世界へと誘われます。


2022年に東京都美術館で行ったワークショップで作られた蝶の羽をしたテントの中には、小さなクッションが用意されており、希望すれば座ることもできます。実際に、どんな気分になるでしょうか。

4章 「うえののそこ」のそこを巡る
展覧会の最後は、開催地である「上野の記憶」に着想を得て制作された新作のインスタレーション《記憶のそこ》(2023年)です。ギャラリーAの空間全体で展開され、中央には上野の過去や未来、人びとの多様な営みを飲み込み、吐き出すとされる「中空のかご」が設置されています。かごに入って、周囲を見渡してみてください。荒木は以下のようにコメントしています。

◆◆◆

上野は、多くの歴史的な出来事が生まれた場所であり、多様な人びとの営みを受け入れてきました。その混沌に魅力を感じ、作品のテーマとしました。今、目に見えているものだけが存在しているのではなく、過去の出来事が、足元の下、地下に埋もれている。美術館の地下空間に広がる鑑賞体験を通じてその断片を感じ取ってもらいたいです。

◆◆◆

タイトル うえののそこから「はじまり、はじまり」
荒木珠奈 展
会期 2023年7月22日(土) ~ 10月9日(月・祝)
会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
住所 110-0007 東京都台東区上野公園8-36
Webサイト https://www.tobikan.jp/hajimarihajimari/index.html
開室時間 9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日 月曜日、9月19日(火)
※ただし、8月14日(月)、9月18日(月・祝)、10月9日(月・祝)は開室
観覧料(消費税込) 【一般】 1,100円
【大学生・専門学校生】 700円
【65歳以上】 800円
備考 ※高校生以下は無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご提示ください
※10月1日(日)は「都民の日」により、どなたでも無料
割引情報 [サマーナイトミュージアム割引]
8月11日(金・祝)、18日(金)、25日(金)の17:00以降は、一般及び65歳以上は各料金より200円引き、大学生・専門学校生は無料(証明できるものをご提示ください)[各種割引](1名1回限り、他の割引との併用はできません)
・特別展「マティス展」及び特別展「永遠の都ローマ展」のチケット提示にて、各料金より300円引き