ボスコ・ソディ「GALAXY」 at SCAI THE BATHHOUSE
SCAI THE BATHHOUSEでは、ボスコ・ソディの個展「GALAXY」が2023年9月16日(土)から11月5日(日)まで開催されています。木材、岩、土といった自然素材を用いた大規模なインスタレーションや絵画で国際的な評価の高い彼は、ニューヨークを中心に、世界各国に構えた数々の制作拠点で活動し、思索を続けている作家です。
SCAI THE BATHHOUSEでは5年ぶりということで、新作群の発表とともに、近年のソディの取り組みを包括し、次なる展望を見通す統括的な展示を構想の上、展開されているといいます。ここでしか得られないようなアート体験とともに、作家の現在地を知る上でも見逃せない個展です。
エントランス周辺はうす暗く、奥の展示スペースには天井から柔らかく太陽光が差し込む、このギャラリー独特の空間に、独特の質感に心ひかれる作品が展示されています。ひとつは円が重なるように描かれた麻袋の粗い目でありつつも柔らかそうな表面。奥に進むと、かつては潤っていた地面が渇きはてたような、隆起の激しい暗い背景に浮かぶ鮮やかな紫の円の重なり。そして床面に置かれた金色に輝く球体・・・。最初は不思議な素材感に引き寄せられ、それぞれの作品に近寄って見入ってしまいますが、ふと気がついて、離れたり、しゃがんで観たときに宇宙的な風景を感じます。その宇宙感がUNIVERSEやCOSMOS、あるいはSPACEでもなく、「GALAXY」とタイトルされているところに作家の深遠なる思索の後を感じます。
ソディは、木材、岩、土といった自然素材を用いた大規模なインスタレーションや絵画で国際的に高い評価を受けている作家です。1970年にメキシコシティで生まれ、現在はニューヨークを中心に世界各国に構えた数々の制作拠点で活動中です。特に母国・メキシコシティにあるCasa Wabiは、建築家・安藤忠雄がソディのためにデザイン・設計したアーティスト・イン・レジデンス施設です。
彼は展覧会が開催される土地の風土と気候を作品に反映させるサイトスペシフィックな制作手法も特徴だといわれています。昨年イタリアでは、ベニス ビエンナーレと同時期に開催された個展(「What goes around comes around」Palazzo Vendramin Grimani、ベニス、イタリア、2022年)では、観客との対話を促す粘土のインスタレーション、またルネサンス期のイタリアを席捲した洋紅(Carmine)のルーツに着眼した新作群で話題を呼びました。
日本で開かれる本展で、風土や気候がどのように捉えられているのかも興味あるところです。
私たちが最初に出会う、麻袋に描かれたペインティングの連作は、コロナ禍において隔離生活を送る中、マーケットの古びた袋をキャンバスの代用品として用いたことがきっかけだといいます。太陽や月を思わせる丸のドローイングは、作家の手によって直接描かれたものです。Casa Wabiに滞在する際は、今でも1日1枚麻袋に描くことを続けているといい、ソディは本作をアルテ・ポーヴェラ*および日本の具体美術への関心とも結びつけています。麻は古くから聖人が身につけた素材であるといい、彼は金や色彩を用い、また素材との直接的な対話を通じて、貧しいものが崇高なものへと変容する瞬間を探求しているようです。
*イタリアで1960年代末から70年代初頭に興った芸術運動。日本語で「貧しい芸術」の意。
隆起の激しい暗い背景に紫の円が印象的な絵画作品は、おが屑と他素材を調合した独自のメディウムを表面に施し、乾く過程で表面に生じたひび割れをも自然のジェスチャーとして包摂しています。ソディの素材への探求心は、かつて化学工学を学んだことや、スペインの高名な現代芸術家アントニ・タピエス(1923~2012)をはじめとする、画材ではないものを利用して制作した美術家達によってもたらされた多様なバックグランドによって培われています。
床に配置された黄金の球体は金の釉薬でレイヤーをかけたといい、その粘土の表面はひび割れ、化学的な焼成の過程を経ていることに意味がありそうです。アジアからヨーロッパまで、黄金はいずれの文化圏においても神聖な性質を帯びたものだったとソディは語ります。素朴な素材と釉薬との組み合わせはソディがこれまで取り組んで来た代表的な実践のひとつだといわれます。
現代アートにおいては色やカタチ、モチーフなど、様々なエレメントを通じて作家の思索をたどる楽しさが生まれますが、ボスコ・ソディの作品は素材感やその素材の持つ意味などにその楽しさの源泉がありそうです。それはもちろん、写真では充分に伝わるものではありませんので、ぜひ、ギャラリーに足を運んで、ご自身で体験してみることをお勧めします。
タイトル | ボスコ・ソディ 「GALAXY」 |
会期 | 2023年9月16日(土)~ 11月5日(日) |
会場 | SCAI THE BATHHOUSE |
住所 | 〒110-0001 東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡 |
Webサイト | https://www.scaithebathhouse.com |
開廊時間 | 12:00 ~ 18:00 |
休廊日 | 日・月・祝日 ※11月5日(日)はAWTのため開廊 |
観覧料 | 無料 |
備考 | 予約不要 |