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堀江美佳| 雪解け水 at SOKYO ATSUMI

SOKYO ATSUMIでは写真家、堀江美佳の初個展「雪解け水」が2023年12月12日(火)から2024年2月1日(木)まで開催されています。本展で私たちが出会うのは、堀江自身が手漉きした和紙・雁皮(がんぴ)紙を支持体に、四季折々に変化する自然の風景が古典的写真技法で映し出された写真作品です。スマートフォンの登場により、私たちにとって写真は手軽で身近なものになりましたが、ここには堀江が手をかけ、心を込めて映し出した古くからの日本の心や原風景、そして文化があります。写真ならではの、心が動かされる瞬間や真実に触れるために、あなたも訪れてはいかがでしょうか。

「サイアノタイプ」と雁皮紙の支持体

チラシやこの記事の作品画像を見て、藍染と早合点された方もいるのではないでしょうか。しかし、実際にギャラリーを訪れ、遠目に作品を観ても、まだそうした感覚にとらわれそうになります。そう感じさせる理由は、支持体が手すきの和紙・雁皮紙という点と、日本の自然と文化を大切にする堀江の制作姿勢によるものと言えそうです。

堀江の作品の特徴のひとつは、19世紀に発明された古くからある写真方式「サイアノタイプ」を用いていることです。和紙に塗られた感光液は、液の中にある物質(鉄の化合物)が紫外線に反応して、独特の青い濃淡で写真が映し出されるのです。年配の方なら建築図面の青焼きや、小学校の理科で「日光写真」の実験で「サイアノタイプ」を体験したことがあるはずです。今のデジタル写真と違い、写した(露光させた)感光紙を水にさらすと画像がはっきり出てくるのでわくわくした記憶はないでしょうか。私たちにとって藍のように見える青は、この感光液の色なのです。

春に1年分だけの原料を採って和紙を漉く

京都府出身である堀江は、京都芸術大学で写真とデザインを学んだ後、ロンドンのキングストン大学へ留学します。帰国後の2013年より、石川県加賀市山中温泉を活動の拠点としています。自然のうつろいを夢中になって撮影してきた堀江にとって、近年は万葉集の歌に出てくる日本古来の花や日本の織りや着物など、いつか途絶えるかもしれない日本文化を「学びたい、写したい、そして残したい」という強い思いを持ちながら生活・制作していると述べています。

もうひとつの堀江の特徴は、この生活・制作環境から生まれています。堀江は住居兼アトリエである古民家近くの山から、高級和紙の原料として有名な雁皮(がんぴ)という植物を採取し、側に流れる天然水で和紙を漉き、作品の支持体としてきました。
原料の雁皮は、堀江自身が毎年春に、1年間の作品づくりに必要な分だけを採取しています。普通に考えれば、「途中で紙が足りなくなったらどうするんだろう」と心配になりますが、こうした“生きるために必要な分だけいただく”という自然との向き合い方は、本展の作品からも充分に感じることができます。

「サイアノタイプ」や雁皮紙の支持体は表現技法における特徴ですが、堀江の本質的な特徴は、こうした自然や日本の風物・文化などと誠実に向き合う姿勢であり、写真家としてとらえる瞬間ではないかと思われます。
石川県は雁皮だけでなく、写真を現像する、和紙を漉くなどの作業に欠かせないきれいな水があります。そうした環境は堀江ならではの作品づくりに欠かせないと思われ、移り住んでからすでに10年が経過しているといいます。

新しいチャレンジも見られる本展の作品

改めて、本展の作品を観ていくと、作家自身の身のまわりで、四季折々に変化する自然の風景がみずみずしく映し出されています。それは長く暮らしている人だからこそ向けられる視線でもあるような気がします。


また、いくつかの作品では新しいチャレンジも行われています。《Uzu》や《Under The Two Shade Of Trees》では、コロナ禍のステイホーム期間に通信教育で学んだ日本画の、岩絵の具が写真の上から配置されています。

また、《Fuki》と題された3作品では、これまであまりなかった人物を被写体にしています。ここでは《A sacred place》に写されている蕗(ふき)の畑から採られた蕗の葉が、《Fuki》シリーズでは二度露光により人物と重なり合うように映し出されています。

紫外線(太陽光)で露光をする古典的写真技法と、地域に由来する手漉き和紙で表現する堀江の作品には美しさや儚さ、強さが共存しています。青色の豊かな階調には、文化の違いや時間経過を忘れて没入してしまうような奥深さや郷愁を感じることができるでしょう。またそうした点が、国内だけでなく海外でも注目を集めている理由ではないでしょうか。

 

デジタルの写真としてなら、今ご覧になっているPCやスマートフォンの画面である程度わかると思いますが、この雁皮紙の支持体を含めた風合いや細かいニュアンスは、実際に作品の前に立たないと分かりません。ぜひ、ギャラリーへ訪問されることをおすすめします。

最後に、公式サイトに掲載された堀江のアーティストコメントを引用で紹介します。

◆◆◆

降り積もった雪が春になって解け、水になるように、私達の暮らしはゆっくりと絶えず変化してゆく⾃然や⽂化の移り変わりや儚さと共に有ります。また、対立や戦乱が絶えない私達の緊張反感がゆるみ、和解の空気が⽣じてくることへの希望を込めました。水、空、地球を連想させる青をゆっくり⾒つめる静かな場になりますように。―堀江美佳

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タイトル 堀江美佳| 雪解け水
会期 2023年12月12日(火)~ 2024年2月1日(木)
会場 SOKYO ATSUMI
住所 〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX II3階 #304
Webサイト http://gallery-sokyo.jp/exhibitions/
開廊時間 11:00 ~ 18:00(火 ~ 木)、11:00 ~ 19:00(金・土)
休廊日 日曜日・月曜日
※冬季休廊:12月23日(土)~ 1月8日(月)
観覧料 無料