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石井亨 個展「漂う/ DRIFTING」 at SOKYO ATSUMI

SOKYO ATSUMIでは、石井亨の個展「漂う/DRIFTING」が2024年2⽉10 ⽇(⼟)から4⽉11⽇(⽊)まで開催されています。石井は糸目友禅染という日本の伝統技術を現代美術へ独自の切り口で転換し、国内外で注目されている作家です。絹に鮮やかな色彩で描き出された街の情景は、自然や市井の人々のちょっとした仕草やたたずまい、会話などを想い起させ、まるで現代の浮世絵のようです。本展は、2022年の艸居(本店・京都市祇園)、昨年の卿居アネックス(京都市・河原町二条)での二人展に引き続き、SOKYO ATSUMIでは初個展となります。石井ならではの独自の視点と世界観を楽しみに、お出かけしてみてはいかがでしょうか。

東京のジオラマのように展開される令和の浮世絵

ギャラリーを訪れると、そこはまるで色鮮やかな東京の街のジオラマのように観えます。壁面には街の情景や花をモチーフとした作品が展示され、床面には実際に《隅田川》と《渋谷川》の水を汲んで染めた作品が配置されています。
本展のメインの展示は《東京景》シリーズと呼ばれ、石井自身がカメラを携えて東京の街を“漂う”ように歩き回り、撮影したシーンから現代社会の象徴的な図像を映し出し、変容し続ける現代社会が反映されています。令和の浮世絵というテーマのもと、未来に石井の作品を見直してみると、いろいろな発見や気づきがあるというような設定になっています。

確かに、花瓶に生けられた花の向こうに富士山や東京スカイツリーが小さく見えるなど、浮世絵を感じさせる構図の作品もあります。画面には工事現場で働く人々がたくさん登場し、変わり続ける街の風景を代弁しているかのようです。
また、床面に直接置かれた花をモチーフとした作品などがあり、街の中を歩いている気分にさせてくれるだけでなく、石井が道端にも細やかな視線を向けていることが分かります。

現代における伝統芸術の在り方を提起

表現の手法としては、フィルムカメラで撮影された写真の加工やデジタルバグと伝統染色技法の失敗を意図的に組み込むというプロセスを経ています。「漂う/ DRIFTING」という展覧会タイトルには色がステイニング技法により画面に[漂う]こと、都市を徘徊しながら、漂流しながら撮影した東京の風景など、複数の意味合いが込められています。

石井亨は、2014年に東京藝術大学大学院美術研究科美術専攻博士後期課程を修了した後、2015年度の文化庁新進芸術家海外研修員に選出され、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で2年間研修を経験します。本展と同時期に開催された札幌国際芸術祭(略称: SIAF) の会場のひとつである北海道立近代美術館「1924-2024 FRAGILE[こわれもの注意]」展にも出展しています。

石井は留学を経て、客観的に日本で紡がれてきた伝統技術と自らの作品を真摯に見つめ直したと言います。糸目友禅染技術とステイニング技術、アナログとデジタルの表現要素をかけ合わせ、新たなステイニング絵画の構築や伝統技術の革新と現代美術の刷新を試みています。そして、西洋と東洋の絵画および染色表現の探究と発見を礎に、現代における伝統芸術の在り方を提起しているのです。

ステイニング技法と糸目友禅染、そして水のこと

アメリカ戦後絵画に始まるステイニング技法 (滲み)と着物や帯の文様染として江戸時代より継承される日本の伝統的な染織技法である糸目友禅染の技術を用いつつ、伝統工芸の領域とは一定の距離を保ってきました。糸目友禅染は、糸目糊というもち米などで作った糊を糸のように細く図柄の輪郭に防染として引き、絹に鮮やかな色彩で四季折々の草花や風景などの模様を精緻な線とぼかしで描き出すのが特徴です。

一般的に友禅染では工程の中で水洗いなどで水を用いますが、石井は2007年にロンドン芸術大学に留学した際に、水の違いで染色が変わることを発見しました。本展でもロンドンの水と日本の水による、それぞれの作品が並べて展示されています。写真では違いが分かりにくいのですが、肉眼で見ると、ロンドンのものはコントラスト強めで、日本のものは柔らかい印象を与えます。

床面の台に配置された作品《隅田川》や《渋谷川》は、この発見にもとづき、実際にそれぞれ川の水を汲んで染めることで、川の湿度を可視化し、現代の川の風景を生成しています。

考えてみれば、水は人が生きていく上で、もっとも大切で基本的なもののひとつです。水面は街のいろんな風景を映し出すでしょうし、水そのものは気体・液体・個体と、いろんな形に変化します。激しいスピードで変容し続ける現代社会とつながるものがあるのかも知れません。
このような急速に変化する現代社会を、ゆったりとも見える日本の伝統的な染織技法である糸目友禅染という技法で、鮮やかに描き出す石井の作品世界は、まだまだこの先へと続いていきそうです。あなたはこの、今の瞬間を見逃さずに、“目撃”してはいかがでしょうか。

タイトル 石井亨 個展「漂う/ DRIFTING」
会期 2024年2月10日(土)~ 4月11日(木)
会場 SOKYO ATSUMI
住所 〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA ART COMPLEX II3階 #304
Webサイト http://gallery-sokyo.jp/exhibitions/
開廊時間 11:00 ~ 18:00(火 ~ 木)、11:00 ~ 19:00(金・土)
休廊日 日曜日・月曜日
観覧料 無料