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染谷悠子 「野花の中にあなたを見る」at 小山登美夫ギャラリー天王洲

小山登美夫ギャラリー天王洲では、染谷悠子「野花の中にあなたを見る」が2024年3月1日(金)から3月23日(土)まで開催されています。本展は作家にとって7年ぶりの個展となり、新作を中心に発表されています。
染谷悠子は身近な風景を、自身の幼少期の思い出、生活の変化から感じ取った死、生、出産、自然など生命の根本とからめて捉え、独自で新たな表現を切り開いているアーティストです。様々な動植物が混在する幻想的な染谷の作品は、現代の花鳥画といえるでしょう。ぜひ、独特の世界観を体験しに、訪れてはいかがでしょうか。

花が開く音や花びらが落ちる音が聞こえるよう

ギャラリーに足を踏み入れると、淡くにじんだような色彩感が美しい作品が目の前に表れます。いずれも最初は、風景画や花を描いた静物画に見えますが、近づいて丁寧に観ていくと宙や絵柄の中にさまざまなモチーフが描かれ、幻想的な印象を受けます。
時間を消していくように余白を描き、花が開く音や花びらが落ちる音が聞こえるように表現し、言葉を綴るように作り上げられた作品は、まるで自然を慈しむ一片の詩のようです。

新作「知でなく意ではない。」は、山並みに雲、雨、雷が描かれ、染谷自身が今まで体験したことのない、溢れかえるような自然を体験し身体が驚いた感覚を表現されています。関東平野の埋め立て地で生まれ育った染谷が、自然の強い美しさ、怖さを浴びる生活の中で人にとっての自然とは何だろう…と考え、タイトルにしたのがこの作品です。

植物から視線を感じ、人に似たエネルギーを察知する

「悩み事が多い人」は、「トゥルパシリーズ」と呼ぶ静物画のひとつです。「トゥルパ」とはチベット語で「分身」を表し、神霊的、精神的力によって作られた意志をもつ存在を意味するそうです。


これは染谷が出産後、いつもと同じ家への帰り道を歩いた時、強い視線を感じてその方向を見るといつもと変わらない木があるだけだったそうです。また別の場所で視線を感じ、そちらを向くと自生している草花があるだけだったことから、植物から視線を感じ、人に似たエネルギーを察知するようになったとのこと。その神秘的な感覚が表されています。

独特な制作プロセスから生まれる世界観

染谷悠子は1980年に千葉県で生まれ、2004年に東京造形大学美術学科絵画専攻を卒業後、2006年には東京藝術大学大学院版画専攻を修了。2004年に町田市立国際版画美術館の全国大学版画展で、収蔵賞/観客賞を受賞し、作品が収蔵されました。主な個展にRichard Heller Gallery(2014年、サンタモニカ、アメリカ)があり、小山登美夫ギャラリーでは、2007年、2010年、2013年、2017年と4度にわたり個展を開催しています。

染谷の作品における表現は彼女ならではのものですが、その制作プロセスも独特です。染谷はまず鉛筆で下絵を綿密に描きます。それを型として着彩した和紙にトレースして線と形をちぎったり切り出したものを、キャンバスに何層も重ね、貼り、画面を構築していきます。そして最後に研ぎあげた鉛筆や墨で描き、くずしながら作品世界を作り上げていきます。
そして2010年代には時間をかけ、伊藤若冲の水墨画の表現である「筋目描き」に注目、研究してきました。筋目描きを主体とすることで、染谷作品はさらに広がりを見せることになります。

静かでしなやかないのちの輝きが感じられる現代の花鳥画

染谷にとって、花は「死」から遠い存在だといいます。花や草木には「死ぬ」という言葉ではなく「枯れる」という表現をすることを、とても美しく感じるからです。
現代の花鳥画と称されるように、染谷の作品からは生命感あふれる美しさや、強いというよりも静かでしなやかないのちの輝きが感じられるようです。
日本の歴史的な表現の伝統を受け継ぐことも、今の染谷にとって自身の生の継承と確かに重なり合い、鋭敏な感覚と画面の霞んだ淡い色彩のグラデーションにともなって自然の生と死の循環の瞬きを私たちに表してくれます。


本展の作品からは、これからも、ますます染谷ならではの視点や表現が高まっていくような強い予感がします。この「現在地」をあなたも確認しに、訪れてはいかがでしょうか。

最後に、同ギャラリーの公式サイトに記されたアーティストコメントを引用で紹介します。

◆◆◆

 私の描く絵の中には、鳥、蝶、花々、蜘蛛の巣、そして水を象徴的に捉え存在させています。
 これらはすべて私が幼い頃に夢中でつくった物の素材達です。
 私が「幼い頃に夢中でつくった物」の中の1つに、虫たちのお墓があります。
 その行為の中で、命の儚さに対する鈍感、そして死という非日常に対する心の不準備の時期に起こりうる、一種の凶暴性のようなものが共存しているように感じました。
 幼いながら、その鈍感と凶暴性を認識した時に、自分という得体の知れない親しい存在も認識しました。
 そして当時かき集めた野花や蝶や鳥の羽、蜘蛛の巣にかかる虫たち、すぐに死んでしまう彼らの儚さや小さな物語、この存在を描くためにたどり着いたのが、和紙、墨、鉛筆 そして版表現です。
 和紙はちぎると毛になり、墨はあそび、鉛筆は空間を歩きます。そして版技法は非現実的な色使いを作品に与えてくれるのです。

染谷悠子

◆◆◆

タイトル 染谷悠子 「野花の中にあなたを見る」
会期 2024年3月1日(金)~ 3月23日(土)
会場 小山登美夫ギャラリー天王洲
住所 140-0002 東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex I 4F
Webサイト http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/someya2024/
開廊時間 11:00 ~ 18:00
休廊日 日・月・祝日
観覧料 無料