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神谷徹 「息/瞼の裏/なぞる」 in SCAI THE BATHHOUSE

SCAI THE BATHHOUSEでは神谷徹の個展「息/瞼の裏/なぞる」が2023年5月9日(火)から7月8日(土)まで開催されています。アクリル絵具による繊細な色のグラデーションが特徴的なこのシリーズは、作家が20代の頃から長きに渡って取り組まれています。本展ではこれまでの実践を踏まえ、さらなる発展を遂げた神谷の新境地が明らかにされているといいます。
展示空間と観る者の意識の両方に静かに作用する、神谷の作品ならではのアート体験が楽しめるとともに、恐らくこれからも実践が続けられ、発展するであろう神谷の作品の“現在地”を目撃できる見逃せない機会となるでしょう。

ギャラリーに足を踏み入れると、壁面に配置された繊細な色のグラデーションが特徴的な作品群が目に飛び込んできます。その表面はなめらかで、刷毛の跡さえ見分けるのが難しいほどです。ギャラリーには太陽光がほどよく差し込んでいますが、マットな塗り込みによって光の反射を極力抑えた作品の画面が壁面から静かに立ち上がっているようです。また、作品それぞれの配置と空間全体のバランスも絶妙で、作品越しに別の作品が見えて、界隈性が感じられます。

奥に進むと、中央の30センチ四方の絵画モジュール60点から成る大作《joy》(2023年)に出会います。一点一点のモジュールのグラデーションは一般的な色彩学的な組み合わせではなく、それぞれに独特な存在感があります。これらが一体となって縦長のフォーメーションを形成し、見上げるばかりの天井高を最大限に利用して構成されています。

作品の支持体はすべてオーダーメイドで、作品の影が美しく投影される効果を狙って、パネル側面には60度の傾斜がつけられています。さらに、壁にかけた時に色の乱反射を防ぐために、側面にはグレーを塗るなど、作品は展示構成の段階から作家によって緻密に計算されています。


ギャラリー内で販売されている2018年発行の画集で、神谷は「僕が求めているのは、色が塗ってあって奥行きを感じたり、画面から発光したり、何かがうごめいて見えたりする視覚的な装置のように、色がポンとある作品です。背景に歴史や哲学があるというものよりも、視覚や感覚に訴える働きかけがあるといい。」と語っており、本展を観る限り、本質的には変わらない意図を感じます。

神谷徹は1969年生まれ。東京芸術大学油画科大学院修了の後、アイルランド政府奨学生としてダブリンに滞在したこともあり、現在は京都芸術大学准教授として京都を拠点に制作を行っています。
本展のタイトル「息/瞼の裏/なぞる」といった3つの単語と並びは、神谷自身によって選ばれました。始まりも終わりもない自身の制作を止まることのない呼吸=息に重ね、また、画面真ん中のグラデーションの色合いについては、瞼を閉じて手で押さえた時の裏側の感触、そこに走る神経や血肉の存在を見ることに近いのではないかという彼の直観的な感覚が反映されています。

神谷の「作者から離れた自由な絵の姿も見たい、そしてその結果を受け入れたい」という言葉通り、作品や展示空間は緻密に計算されているにも関わらず、観る者の心を自由にし、様々なインスピレーションを触発される楽しみが大きいことが本展の魅力のひとつではないかと感じられます。
長きにわたって神谷が取り組んできた実践の発展へとつながった本展は、鑑賞者に働きかけ、場を形成する装置としての絵画を追求し続ける彼の現在地であり、今後も続けられるであろう終わりのない制作のどこかで、また会える楽しみを抱かせてくれるでしょう。

タイトル 神谷徹
「息/瞼の裏/なぞる」
会期 2023年5月9日(火)~ 7月8日(土)
会場 SCAI THE BATHHOUSE
住所 〒110-0001 東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
Webサイト https://www.scaithebathhouse.com
開廊時間 12:00 ~ 18:00
休廊日 日・月・祝日
料金 無料