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モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描 in 根津美術館

企画展「モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描」が根津美術館で開催されています。
東洋において墨は文字を書く際の主たる材料である同時に、書と密接に関わりながら発展してきた画(絵画)にとっても最重要の材料であり続けてきました。墨で描かれる絵画は、濃淡やぼかし、抑揚のある描線を駆使する水墨画と、均質な細い線を主とする白描画の大きく2つに分けられます。
日本には白描画が奈良時代に、また水墨画も平安時代末期以降から中世を通じて中国より数多くの作品がもたらされます。それらに刺激を得た作家たちによって日本で独自の発展を遂げます。作家が創意工夫を凝らし、それが受け継がれ、さらに発展していく様はまさしく“冒険と”呼べるでしょう。
本展では、墨の可能性をそれぞれ追求してきた水墨と白描の技法、ひいてはその表現の魅力が、江戸時代を中心とした作品によって紹介されています。また、水墨画と白描画の展示室が分かれているので、これを対比して見る楽しみも期待できるでしょう。

 

水墨画:墨の表現の多様性
最初の展示室は水墨画から始まります。17作品の内、3作品は桃山時代のものですが、他はすべて江戸時代のものです。水墨画は鎌倉時代に禅文化に影響を受けた作品が中国から渡来し、室町時代には日本の水墨画の巨匠「雪舟」が登場します。展示作品は、その後の安土桃山から江戸時代にかけて時の権力者に御用絵師として重用され、“主流”として興隆を極めた狩野派と、これに対して独自の道に進んだ琳派、円山四条派の画家たちが活躍した時代に生まれたものです。
こうした作品の時代背景を知ると鑑賞もさらに興味深いものとなると思いますが、特に知らなくても、墨の表現の多様性や迫力に魅了されることでしょう。

「赤壁図屏風」は個性派・長沢芦雪(1754~99)の奔放にして卓越した水墨技を堪能できる作品です。中国の詩人・蘇軾が長江の名勝で遊ぶ様子を描いたものですが、画面左端の渓谷や滝から、波が揺らぐ長江の水面、そして右端に描かれた寺院やかかる月といった動と静が入り混じった画面構成はまさに壮大です。

 

曾我宗庵の「鷲鷹図屏風」は桃山時代に鷹図を得意とした曾我直庵の系譜にあると考えられ、他の作品と違い絢爛豪華な印象も受けます。メリハリの効いた水墨と劇画的とも言える表現が目を引く鷲と鷹が秀逸です。

 

白描画:ストイックな線が表現するストーリー性
白描画は、白い紙に黒い墨の描線が映える、まさにモノクロームの美の世界です。展示室に展示されている9作品は、2作品が大正と昭和のものですが、残りはすべて江戸時代です。白描画の代表作のひとつとして「鳥獣人物戯画(平安時代)」があげられますが、本展でも江戸時代の模本を見ることができます。
全体的に均一な描線で、ときに淡彩を加えつつストイックな白描で表現される土佐派や住吉派、復古大和絵派の作品は、観る者を清浄な境地に誘います。

白描画は四季の風景や、人々の生活や物語を優美に描く「大和絵」と相性がよく、巻物やさし絵などの形で発展しました。「源氏物語画帖」はその代表的なもので、『源氏物語』の名場面を描いた色紙をアルバムに仕立てた作品です。江戸時代のやまと絵の画家、住吉具慶(1631~1705)の筆と伝えられ、細い墨線が小画面に緻密な絵画世界を生み出しています。

 

「納涼図」は、もとは12 ヶ月の行事や風景を描いた連作の6 月にあたる、復古大和絵派の冷泉為恭(1823~64)による作品です。流麗な動きやニュアンスを与えた、均質な墨線で描かれた泉殿で涼む3 人は表情やしぐさもリアルで、観る者の中で3人の関係性や会話の内容まで想像やストーリー性が広がります。

 

ここにしかないアート体験:水墨と白描を対で見る意味
日本近世の水墨と白描が対のように分けて紹介されていることで、それぞれに受ける印象も違ったものになり、アート体験としてより楽しくなる部分でしょう。
水墨画はやはり字のごとく「水」と「墨」で描かれたもので、ひとつひとつの作品の中で水の存在や流れを感じます。本展の展示キャプションでも紹介されている“たらしこみ”や“溌墨”などといった技法を見るにつけ、作家たちが受け継いだものや創意工夫、そして江戸時代の空気感や思想のようなものが躍動しているように見えます。
対して白描画は描線で描かれる物語の状況設定や、人物の表情や所作がリアルに描かれることにより、時代や生活スタイルなどが読み取れる「情報」としての価値が高く、その「情報」を入り口として、描かれたストーリーの中へ限りなく入り込んでいけます。
このように本展は観る者の中にとっても近世の日本人の心を旅することができる「モノクロームの冒険」であり、そうした知的興奮が秋の気配迫るお庭を散歩することで心地よく静められていく、この根津美術館にしかない豊かなアート体験として記憶に残るでしょう。

 

タイトル モノクロームの冒険 日本近世の水墨と白描
会期 2020年9月19日(土)~11月3日(火・祝)
会場 根津美術館 展示室1・2
住所 〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1
Webサイト http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html
開館時間 午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 毎週月曜日
料金 一般 1,100円 学生【高校生以上】800円
*小・中学生以下は無料。
*受付にて障害者手帳をご呈示いただきますと、ご本人様と同伴者1名様まで、200円引きでご入館いただけます。
*すべての入館者を対象とするオンラインによる日時指定予約制を導入されています。
詳しくはこちらをご覧ください。
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/timed-entry-reservation/